ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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デュアルシステム実習生は、“入社見込みのある”若い人材!

◎都立葛西工業高等学校編/有限会社サンデー

 

◆取材:富樫のぞみ/文:五十川正紘

※都立葛西工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

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自社とマッチする学生との出会いに期待

自動車整備・修理や鈑金塗装を手掛ける有限会社サンデーは、葛西工業高校がデュアルシステムを実施し始めた2011年度から実習生を受け入れ続け、現在3年生1名が実習中だ。

 

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同社代表取締役の今井敏光氏は、「まだ当社に入社した実習生はいませんが、これから当社とマッチする学生さんに出会えるかもしれません」と期待を寄せる。同社が実習生を受け入れるに至った背景や実習生に対する印象などについて、今井氏から話を伺った。

 

「知識も経験もゼロ」の興味本位の25歳は採用できない

─若い人材の確保のために、デュアルシステム以外のことで取り組んでいることはあるか?

 

ハローワークで募集をしていたことがあり、その時は、25歳前後の方からも何件か応募がありました。でも、自動車整備・修理の仕事をしたいから応募してきたというよりは、本当に何も知らずに興味本位で応募してきただけだと思われる方がほとんどでした。

そのような方は、「仕事は、黙っていても他人が教えてくれる」という感覚を持っているようです。例えば、最初に工場に来てもらった時に、「まずは、現場の仕事を見ていて欲しい」とお願いすると、質問もせず、本当に一日中ずっと黙って見ているだけです。そのような態度を見ると、就職や転職をとても安易に考えていると思わざるを得ません。

 

また、私たちの仕事は専門的な技術を要す仕事です。ですから、25歳ぐらいで接客や事務など、まったく異なる仕事から自動車整備・修理の仕事に転職するのは難しいと思います。たとえ転職できたとしても、ベテラン整備士の手伝いばかりで、いつまで経っても仕事の腕は身につかないと思います。さらに、仕事の腕が身につかないと、本人が続かないし、こちらも仕事を任せられません。

ですから、20代半ばぐらいの方が当社にご応募いただいたとしても、知識も経験もゼロの場合は、「本当にこの仕事をしたいなら、まずは自動車専門学校に行って基本の知識や技術を学んだ方がいいよ……」という話をせざるを得ないのです。

 

 

従業員のほとんどが40代以上。だから、若い人材も欲しい!

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─ハローワーク経由の応募者と、デュアルシステムの実習生を比べると、どのような違いがあるのか?

 

デュアルシステムの実習生、つまり工業高校の学生さんは、工場での仕事の基礎がある程度できています。ですから将来、一人前の自動車整備士として活躍することが見込めるわけです。しかし、まだ実習生が当社に入社したことはありません。また、より将来の活躍が見込める、自動車専門学校の学生を新卒採用できたこともあったのですが、2~3年で辞めてしまう人が多かった。

逆に、しっかり当社に定着して活躍してくれるのは、その多くが知り合いから紹介された人材です。しかも、みんな優秀でした。だから当社にとってベストな採用方法は、知り合いからの紹介なのです。

でも、当社の従業員のほとんどは40代以上で、一番若くても30代です。やはり、これからのことを考えると、もっと若い人材も欲しい。そこで、将来活躍する見込みのある若い人材が当社に入社してくれることを期待して、デュアルシステムの実習生を受け入れ続けているのです。

 

─実習生は、どのような仕事に携わるのか?

 

修理や車検点検などの自動車整備業務ですが、その中でも基本的な仕事だけです。自動車整備業務は、流れ作業ではなく、クルマ一台ずつ、整備士が最初から最後まで一人でやる仕事です。そのため、できるだけ実習生にいろんなことを体験させてあげたい気持ちではありますが、実際のところは、ちょっとした手伝いをしてもらう程度で、基本は、整備士の作業を傍らで見学してもらいます。

また、自動車の整備・修理作業はどうしても危険を伴うので、安全面からもお願いできる仕事はどうしても限られてしまいます。例えば、作業によってはクルマの下に潜り込む必要がありますが、実習生の安全を第一に考え、それはやめてもらっています。

それから現場で実習生の指導にあたっている自動車整備士によると、半年間の実習では、ブレーキ調整など、マスターするのに時間がかかる高度なテクニックまではどうしても教えられないそうです。教えられるのは、タイヤ交換などの基本的なことまでです。

 

 

実習生に指摘を受ける社員も。年長者、職場が引き締まる

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 ─実習生の受け入れにあたって、何か準備したことはあるのか?

 

特別、準備したことはありません。実習生が当社の現場のありのままを見て、ご自分なりに学んでもらえればと思っています。だから、一から十まで手取り足取り指示することはありません。実際に工場で働く職人の姿を目の当たりにすること以上に、よい勉強はないでしょう。もちろん、実習生から何か質問があった時はしっかり指導しています。

 

─実際に実習生を受け入れてみて、どう感じたか?

 

やっぱり、職場に若い人がいるだけでいい刺激になります。また、「学生さんのお手本にならないと……」という気持ちにもなります。現場では、作業中の自動車整備士がちょっとした用事のために工具を置いたままその場を離れると、それを見ていた実習生に、「工具の置きっぱなしはダメだって、学校で教わりましたよ」なんて言われてしまったこともあるそうです。

実習生の指導担当の自動車整備士によると、実習生に対する印象は、その年の学生さんによって違うと言っていました。どうしても自動車業界に進みたいという強い意欲のある学生さんもいれば、そこまでの強い意欲は感じられない学生さんもいるようです。

今年の学生さんの場合は、すごく意欲的で、それだけに飲み込みも早いと聞いています。学生さんによって個人差があるのはしょうがないことだと思いますが、みんな、一番の基本である挨拶はしっかりできている。また、どんな実習生でも、半年間の実習期間の最後の方になると、現場にだいぶ馴染んでくるようです。現場の社員も、「とにかく、若い人が来てくれるだけで嬉しい。こちらの気持ちまで若返る」と言っています。

 

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◉プロフィール

今井敏光(いまい・としみつ)氏

1936年生まれ。東京都出身。1965年、自動車整備・修理サービス「サンデーオート」を開業。1990年、同事業を法人化し、有限会社サンデーを設立すると同時に、同代表取締役に就任。

 

有限会社サンデー

〒132-0031東京都江戸川区松島1-35-4

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