オビ 企業物語1 (2)

企業レポート『100年企業の夜明け』

ラクナ油脂株式会社、ラクナロジスティクス株式会社

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

■0■「ラクナ油脂創業100周年に向けた新事業計画」

ラクナ油脂株式会社 代表取締役社長 小林章氏ラクナ油脂株式会社 代表取締役社長 小林章氏

1. ラクナ定点観測

 東京都練馬区に本社を置く業務用クリーニング洗剤メーカー・商社、ラクナ油脂株式会社。同社が創業60年目の2013年に発表した「ラクナ油脂創業100周年に向けた新事業計画」について、小誌は2014年8月号に小林章社長へのインタビューを掲載した。その後8カ月が経ち、新事業計画はさらにブラッシュアップされているようだ。

 

2. アベノミクスの矢は届かない

 2014年4月、消費税が5%から8%に引き上げられ、クリーニング業界の最終クライアントである一般家庭は、将来への不安から家計の紐をきつく締めた。

 専門家は口々に、消費税増税による消費の冷え込みは初夏を過ぎる頃には復調し、デフレ脱却の萌芽が見え始めると喧伝した。しかし、少なくともクリーニング業界にその兆しはほとんどないまま、現在に至っている。同社にとっても、2014年は非常に厳しい年度となった。

 数ある生活必需のサービスの中で、一般家庭がとりわけクリーニングの優先順位を大きく下げた背景には、こんな事情もある。家庭からクリーニングに出される衣料はワイシャツが最も多いが、家庭用洗剤や洗濯機、また繊維の進歩で、そのワイシャツを家庭でも洗えるようになっているのだ。仕上がりのクオリティはともかく、消費者が「クリーニングに出さなくても家で洗える」と実感すれば、優先順位が下がるのは当然だ。

 唯一、業界にとって救いと言えるのは、原油価格が安いことだ。現在60ドル台で推移している原油価格。50ドル台後半から60ドルで抑えられているうちはいいが、たとえば1バレル100ドルに上がってしまえば、業界は壊滅的な状況に陥る。

 2017年には、消費税はさらに10%へと引き上げられる。「ラクナ油脂創業100周年に向けた新事業計画」は、短期的にはこれを迎え撃つための計画でもある。

 

■1■ 本社建て替え

創業の地を守る

1. 社屋の老朽化と危険物

 新事業計画の一本目の柱が、本社の新築だ。

 2011年の東日本大震災後、築40数年を経た本社社屋の簡易診断を行ったところ、同じクラスの地震が来た場合、崩壊する危険性があることが分かった。経営には安全が最優先。社員や近隣住民の安全、延いては事業の安全な継続を保証することは、100年企業の大前提だ。

 さらに、洗剤メーカーである同社の本社1Fには、石油系の溶剤が大量に保管してある。ドライクリーニングでは、洗濯機の中にお湯の代わりに石油系の溶剤を用いるが、この溶剤はいわゆる危険物。建築基準法の定めによれば、危険物を取り扱える地目は「準工業地域」以上だ。しかし、練馬本社の周辺は「近隣商業及び住居地域」。1953年からこの地で事業を行う同社は、練馬消防署の指導の下、きちんとこの地で危険物を取り扱っている。もちろん現在、消防署の指導を遵守し、安全管理は万全だ。しかし、震災をはじめ何らかのリスクが発生したとき、溶剤に引火、爆発や火災を起こす危険性はゼロではない。

 

2. 創業の地を守る

 こうした事情を踏まえ、当初は本社の移転が計画に盛り込まれていた。時代環境に合わせコンプライアンスを重視した企業として100周年を目指すためには、事業を継続させるに相応しい場所に城を構えることが第一歩だからだ。

 しかし、新事業計画のもう一本の柱である配送会社の設立が具体化する過程で、その新会社である「ラクナロジスティクス株式会社」が、石油系溶剤を含む在庫をすべて保管することに決まる。危険物を移動することで、法令は遵守される。創業の地を守る意味でも、練馬本社の建て替えへと発展的な計画変更がなされることとなった。

 

■2■ ラクナロジスティクス株式会社設立

ラクナロジスティクス株式会社 代表取締役社長 北川良徳氏ラクナロジスティクス株式会社 代表取締役社長 北川良徳氏

1. 配販分離で営業力強化を

 新会社ラクナロジスティクス設立の最大の目的は「配販分離」だ。配送を切り離すことで、ラクナ油脂は営業に特化、営業力の強化を図る。

 現在、ラクナ油脂の営業スタイルはルート営業。営業と同時に、車に品物を積んで配送も兼ねるいわゆる御用聞きスタイルで、4000軒の顧客に対し40数名の社員が必ず週に一度は訪問している。一人あたり100軒の計算だ。

 しかし、市場がシュリンクしていく中で、閑散期には配送車に隙間が目立つこともしばしば。こうなると、ルート営業では効率が悪い。配送は配送に特化すれば、より多くの客先に効率的に配達することができる。一方で、営業部隊は品物を持たずに動けば、営業に注力できる。これが、既存顧客を回る配送業務を営業と切り離すことの狙いだ。

 

2. 物流業として事業開拓も

 もはや、既存のビジネスを既存の顧客に行っているだけでは未来は広がらない。新たなビジネスの開拓は必須だ。ラクナ油脂は本業である洗剤メーカー・商社としての事業に注力、一方でラクナロジスティクスは手足として、様々な業界に探りを入れる役割も担う。

 たとえば、同社は60余年の歴史の中で、首都圏のクリーニング店への網の目のような配送ネットワークを築きあげた。ラクナグループ内の配販分離体制が整った後のことであるが、この独特のネットワークを活かした新事業に打って出たいとも考えている。業界内に、物流に特化した別会社を持つ企業はない。理美容業など近似の業界もカバーできそうだ。

 その機動力に期待がかかるラクナロジスティクス。ラクナ油脂の100%子会社だが、独立採算が目標だ。

 

ラクナロジスティクス株式会社 代表取締役専務 中野岳人氏ラクナロジスティクス株式会社 代表取締役専務 中野岳人氏

3. 100年企業に向けた継承者育成

 ラクナ油脂の小林社長は現在62歳。同社は70歳社長定年制を敷いている。同氏は、65歳までにラクナグループの新体制を整え、その後の5年間を事業継承の期間と考えている。

 しかし、後継者を育成するのに5年間は十分な期間ではない。10年以上は欲しいというのが同氏の本音だ。そこで同社では、次代を担う人材に責任あるポジションを任せ、経営に携わせることで、実戦による育成を図る戦略を採った。親会社ラクナ油脂の小林社長は、子会社ラクナロジスティクスの取締役ではあるが、ラクナロジスティクスの代表権を持っていない。任せる以上は全てを任せる育成法だ。

 ラクナロジスティクスの代表取締役社長・北川良徳氏、代表取締役専務・中野岳人氏は、そんな観点から抜擢された。北川氏は広告宣伝関係の企業を経て、ラクナ油脂で15年間、営業に汗を流した。中野氏は金融機関から転職して16年間、仕入れに奔走した。ともに大きな「ラクナ愛」を持った次代のホープだ。

 ラクナロジスティクスへは、80余名のラクナ油脂株式会社から20余名を帯同。新しいものを作り上げる喜び、そして経営の難しさや苦労をともに味わうことで、各々がかけがえのない経験を積む。それがラクナグループ全体に大きな幸せをもたらし、社会貢献へとつながる。社員を幸せにし、社会に貢献する企業こそが、100年企業に相応しい。小林社長の想いはここにある。

 

■エピローグ■ 「2017年3月1日」

 陽の上りきらぬうちに目が覚めてしまった。厳しかった冬はまだ粘っているが、澄んだ空気がひんやりと頬に心地良い。今日は2017年3月1日、水曜日。3年前に定めた新しいラクナグループのXデーだ。新社屋も落成し、ラクナロジスティクスの設立から2年が経過した。ちょうど1カ月後には、消費税が8%から10%に上がる。

 2014年の消費税増税による大打撃。賢者は、二度同じ傷を負わない。経験から学び、外的要因に関わらず企業を成長・存続させるのが経営者の役目だ。ラクナ100周年は、試練が大きいほど光り輝く。

 時代環境に合わせて組織を革新し、配販分離による営業力強化も軌道に乗り始めた。ラクナロジスティクスでは、他社製品を運ぶ物流会社としての事業計画を具体化し始めている。若手も活発に飛び回り、グループ一丸の体制に揺るぎはない。

 本年5月に65歳を迎える。銀行マンだった自分が、亡き創業者からバトンを託されまもなく12年。70歳の定年までにもう一仕事残っている。人生は、想像もしていなかった未来の連続だ。

100年企業の夜明け

 

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ラクナ油脂株式会社

〒176-0014 東京都練馬区豊玉南1-1-4

TEL 03-3993-5311

FAX 03-3393-5320

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ラクナロジスティクス株式会社

〒350-1170 埼玉県川越市むさし野39-7

TEL 049-249-7700

FAX 049-249-7701

 

2015年6月号の記事より
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