オビ 企業物語1 (2)

株式会社アイエスエフネット ‐ 化学式を解くように作り上げた、雇用創出のビジネスモデル

◆取材:綿抜幹夫

オビ ヒューマンドキュメント

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株式会社アイエスエフネット 代表取締役 渡邉幸義氏。社員に向けて「アイエスエフネット哲学」を熱く語る代表。アイエスエフネットグループでは哲学を大切にしているという。その中身とは?

障がい者と就労困難者にとっての現代の方舟

生活保護受給者など就労困難者と呼ばれる人は、ハローワークなどの公共機関や一般の人材派遣会社の対象外となる場合がほとんどと言っていい。また一方では障がい者も就労の機会に恵まれていない場合が多いという。こうした世の中で、弱者と呼ばれる人たちの雇用創出に力を入れ急成長している企業がある。それが株式会社アイエスエフネットだ。

日本でも世界でも例をみない特異な企業はどうして生まれてきたのか。誕生秘話とその躍進の核心に迫る。

■人はギャップがあれば頑張れる

日本という国は1960年代の高度成長期頃から、同じ方向に向いて同じような事を効率的にやる労働者集団の存在によって支えられていた。企業にとっても都合が良く、終身雇用制度も定着した。だが、その後世の中が成熟していく中で人工的な仕事ではなく、独創性を持った仕事の必要性が高まり、新しい社会課題に向かっていくことの方が大事になってきた。

非正規労働者の存在もそのひとつだろう。不安定な就労の中で生きる人が多くなった反面、既得権益を持っている大手企業はさらに金儲けに走り、それ以外の中小企業は企業としての力が弱くなるという問題にも結びついている。

さてその不安定な就労からもこぼれ落ち、生活保護を受けて長期失業者になってしまう人も多々存在する。実際、生活保護を受けている人の17%近くは高齢や母子、傷病者世帯ではなく「その他」に分類され、その原因は失業や収入の減少によることだといわれている。

 

「『あなたの会社でアルバイトを雇うことになり、若い元気な学生が応募してきました。もうひとり生活保護受給者の50歳の人も応募してきました。同じ時給だとしたらどちらを雇いますか』と問いかけると、普通は若い学生を雇うと言います。生活保護受給者は雇わないですよね。生活保護受給者は生活保護を受けているというだけで雇ってもらえない。面接すらしてもらえない現実がある。僕の会社ではそんな就労困難者も採用しているのです」(渡邉社長、以下同)。

その理由は「就労困難者だって戦力になるからです」ときっぱり。

「この国では基本的に〝お勉強〟ができる人を採用するような仕組みになっています。暗記力に優れ適当に上司にあわせられるコミュニケーション力のある人がエリートと呼ばれ、優秀だと認識されています。しかしながら海外に目を向けると、日本では優秀と思われる人が必ずしも評価されていない」

 

アイエスエフネットでは、エリートとは正反対なニートやフリーターなど、就労困難者を含め、今や年間約800人を採用目標とし、その人たちのために仕事ができる場所を創出している。その中で頑張る人は少なくない。何故かというと、頑張る人はこれまでに苦労をしてきたからだ。生活保護を受給されるまではエリートだった、メンタル不全だった、企業に紙屑のように捨てられた、奥さんと離婚し子供にはバカ呼ばわりされた、自殺未遂も繰り返した、誰からも受け入れてもらえなくなった、就活しても結局は生活保護受給が理由で100回以上も落とされる。

そうした人たちが最後のチャンスにかけてアイエスエフネットで採用されると、〝もう一回ここで偉くなる、もう一回ここで社会に認められる、もう一回自分の存在意義を示す〟と凄まじいまでのエネルギーで歩み始める。落ちこぼれた人はそうでない人とのギャップがあり、人はそのギャップを埋めようとして頑張る。その後彼らは正社員となる。現在アイエスエフネットグループ全体で約3200人という社員の4割近くがこうした経緯で雇用された。安易に辞める人はいないという。

 

■雇用がなければ、雇用をつくればいい

今年で創業16年になるアイエスエフネット。確かにこれだけ多くの就労困難者を採用し雇用を確保する企業は、日本では希有な存在だ。渡邉社長がこの特異な会社を立ち上げたきっかけはなんだったのだろう。

「僕は凡人です、でもこだわりが強い」という。幼少の頃から懸命に勉強して医者を目指していたが、高校1年で色々あって、馬鹿らしくなり勉強することをやめた。ただひとつ好きな化学だけはずっと勉強していた。自分で化学式を作り解くことが何よりも好きだったというから、ただの凡人ではない。

そんな渡邉社長が1996年頃から、京セラの名誉会長の稲盛氏率いる盛和塾で人としての生き方や経営者としての考え方を学びはじめた。

「稲盛さんの著書は全部持っていますし、一日4時間、4年間は哲学漬けでした」

 

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渡邉代表が1986年から毎日書き続けている「未来ノート」は、昨年12月に通算300冊目に突入。月1冊(200ページ)のペースで課題やアクションなどを書き記している。渡邉代表のアイディアの源泉ともいえる。

その稲森氏の教えは『迷ったらその人のためになることを、人として正しいことをやりなさい。必ずそれがあなたの事業の成功に結びつく。ただ人のためになることや人として正しいこと=利益が出ることとは違うよ。あなたはその分努力しなきゃいけない』ということだった。

 

2000年1月、社員4人で、浅草橋に10坪ほどの小さなオフィスを構え、株式会社アイエスエフネットを創業した。始めた当初は、こんな小さな会社には、募集してもなかなか人が集まらなかった。

「来るのは生意気な経験者ばかり。要はいわゆるエリートで、こんなボロ会社でも働いてやるみたいな感じです。僕はそんな人は採用したくなかった。でも中には『頑張ります、社長!』と必死な形相の人たち、日雇い仕事ばかりをやってきたフリーターもいた。そういう人たちは僕のスーツの裾を引っ張って帰らない。だから『僕はあなたたちのために命がけでやるよ』となるわけです」

前者を雇ったらすぐに利益になるかもしれないが、汗をかかないからその分の反動は大きく起こり得る。たとえば会社のビジョンを共有する場合、エリートならば〝お前らの言うことなど聞けるか〟となってしまう。後者のような人を雇えばすぐに利益は望めないが信頼感が生まれ、人のために尽くすという稲盛氏の教えを実践することになる。もちろん渡邉社長は就労困難者を採用した。

「でもその後が大変です。自分たちで彼らに教育をして、仕事も取りに行かなければならない。1週間で40件くらいの企業を回りました。雇用を作れなかったら会社を辞めようと思っていたほどです。お客さんにしてみれば『仕事ください』と訴える僕の形相にも危機迫るものがあったのかもしれません。2カ月ぐらいから次々とオーダーがきました」

 

当時IT業界には多種多様な仕事があって、年収一千万円のエンジニアなどが小馬鹿にしてやりたがらない携帯アプリなどの動作検証や各種IT機器の動作検証など、地道な仕事の依頼があった。

「時給2000円、1カ月で大体32万円。彼らには25万円を払っていました。それまで日雇いでは月10万程度の収入しかなかった人が25万円になって、エンジニアになり正社員にもなれるわけですから、みんなが仕事を求めてくるようになりました」

後に川崎市と連携した川崎プロジェクトの中でも生活保護受給者の雇用促進事業が注目されるなど、こうしたニュースは徐々に広がっていく。「渡邉のところに仕事を出せ、なんで彼らのところだけにリスクを負わせるんだ。俺たち同じ日本人じゃないか」と、そういう武士のような考えを持つ企業の経営者も大勢いる。今では企業の方から仕事が舞い込むようになった。

 

■雇用をつくるのはオリジナルの化学式だ

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本社の執務室風景。周囲の配慮を受けながら、すべての部署で障がいのある方が働いている。佐賀県たくみ農園食堂。佐賀県庁の地下1階にあり、従業員15人中11人が障がい者という中で、忙しいランチタイムも美味しくて安心・安全なランチを提供している。

生活保護受給者の雇用以外に、障がい者の就労支援もアイエスエフネットの大きな柱だ。実は障がい者は知的、身体、精神など障がい者手帳を持っている人だけでも人口の6%、ギリギリ取れない人も含めると12%も占めている。そうしたさまざまな障がい者に対応して仕事を紹介し、企業の障がい者採用のサポートをしている。それだけ仕事のニーズはあるのかと心配してしまうが、

「仕事はやりようによってはあります。ITだけでなく、今では飲食もあるしクリーニング、コールセンター、ソーシャルオフィスといった仕組みも考えまして実施しています」とこともなげに言う。また、社長本人は10年ほど全く休みなく凄まじく働いている。はたからみると大変な努力に見えるが、本人はいたって楽しくやりがいを感じている。何故なら、今でも学生時代に夢中になった化学式を解いているからだ。

 

「生活保護受給者や障がい者など生活困窮者を雇うなんて無謀なこと。ましてやそれでビジネスが成り立つなんて変な会社だと思われています。僕は会社の経営を、ビジネスの仕組みという化学式に置き換えて考えています。簡単に説明すると、生活保護受給者×『何か』=雇用の創出、につながっている。この『何か』を探すことが僕は大好きなのです。うちのビジネスモデルはシンプルですが、実はすごく複雑。核心部分はなかなか一言では説明できないほどです」

社長だけが知る化学式こそが、急成長の素なのだ。

あと10年もしないうちに、この国は変わっていくだろう。国の財政にはもう余裕がなく、大手企業の既得権益は失われていく可能性が高い。労働環境をみても非正規雇用者が多いこの国で同社はどのような役割を担っていくのだろう。

「景気のいい時だけ雇って、悪くなれば切る。そういう企業中心の方程式では幸せになれないですから、『正社員を雇用してどうしたらその人を長く雇用できるか』という命題を、うちの会社から国内外に発信していきたいと思っています。もちろん世界中で弱者の雇用を促進したい。そのために今はアジア中心ですが海外拠点を設けて、すでに200人ぐらい社員を雇用しています」

オフィスを見ると場所も赤坂の一流どころ、何かおかしい?どこかに裏があるのでは?という当初の印象をものの見事なまでに粉砕した渡邉社長。オリジナルの化学式で2030年までには、10万人企業(うち就労困難者雇用は8万人)を目指すという。

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「ご家族と語る会」は全国各地で定期的に開催され、障がい当事者のご家族から直接「生」の声を聴き、障がい者雇用や環境改善に反映させている。

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生活保護受給者の社員登用式典にて、研修期間を終え、晴れて社員となった受給者と喜びを共にする渡邉代表(アイエスエフネットケア川崎にて)

 

オビ ヒューマンドキュメント

渡邉幸義(わたなべ・ゆきよし)氏…1963年7月9日、静岡県沼津市生まれ。1986年3月、武蔵工業大学(現・東京都市大学)機械工学科卒業。同年4月、日本ディジタルイクイップメント株式会社(現・日本ヒューレット・パッカード株式会社)入社。2000年1月に株式会社アイエスエフネット創業、同時に代表取締役就任。一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク常任顧問、一般社団法人日本ほめ育協会理事、人を大切にする経営学会発起人。「『未来ノート』で道は開ける!」ほか著作あり。学校・企業向け講演多数。

 株式会社アイエスエフネット

〒107-0052 東京都港区赤坂8-4-14青山タワープレイス8F

TEL 03-5786-2300(代表)

http://www.isfnet.co.jp

・国内19拠点(全国)・海外8拠点(アジア中心)

アイエスエフネット

http://www.isfnet.co.jp/seminar/2015/index.html

 

2015年2月号の記事より
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