オビ 企業物語1 (2)

竹本産業株式会社 ‐ 豚脂加工の専業工場。加工食品での大勝負!

◆取材:綿抜幹夫  /文:北條 一浩オビ ヒューマンドキュメント

竹本産業株式会社 竹本栄蔵

代表取締役 竹本栄蔵(たけもと・えいぞう)氏…1952年、富山県氷見市出身。18年間畜産業の会社に勤めたのち、1985年に竹本産業を創業。代表取締役として現在に至る。

他の追随を許さない技術と生産力

遠く名峰・鳥海山を望む鳥海南工業団地。山形県遊佐町にあるこの工業団地は、どこの県にでもありそうなありふれたものだ。だが、ここに異彩を放つ工場がある。豚脂加工の専業工場、竹本産業だ。

肉を取り扱っている現場ともなれば、とかく汚れや臭いを想像しがちだが、この工場はそういったものと全く無縁と言っていい。それは工場の外観だけにとどまらず、製品にも表れている。衛生的で高い品質の商品群。創業社長である竹本氏の先見性が結実した自慢の工場だ。大手食品メーカーも三顧の礼で仕入れ先に指名するこの竹本産業にお邪魔した。

高い品質と供給量でどこにも負けない会社に!

いくら世の中がダイエット志向になろうとも、やっぱり美味しいものはやめられない。そして、その美味しさの陰には〝脂〟がある。誰も好き好んで脂の抜けたパサパサの料理など食べたくはないものだ。

私たちが普段何気なく口にしている食品には、食材本来の脂とは別に、副原料としての脂が用いられていることが多い。例えばハム・ソーセージ類や各種冷凍食品、ラーメンなどにだ。

食品の味に大いに貢献しているこの〝脂〟のトップメーカー、それが山形県酒田市にある竹本産業だ。一代でこの会社を築き上げてきた竹本栄蔵社長は言う。

「日本の食をいかに安心・安全にするか。品質管理、それは衛生面はもちろんのこと、味の面でも同様です」

それはどのように実現されるのだろう。

「うちは100%国産の豚を使用しています。国産は品質も味もいいからです。もちろん、価格の面だけ見れば輸入すればいいんでしょうが、それでは品質を維持できません」

自給率や、TPP参加など、日本の食を巡る問題は山積しているが、竹本産業ではあくまでも国産一本。それが製品の大きな武器ともなっているわけだ。

 

「輸入物は確かに安いが、価格の変動が激しい。国産は少々高くても、味も価格も安定しているんです。一時、うちでも輸入物も試そうとしましたが、結局味がよくなかった。ですから、安くてこんなものできないか、といったオーダーには応えられないんです。よく新規のお客様から、『これくらいの値段で』という注文がきますが応じられません。お付き合いの長いお客様に対してなら、『1回だけ頼む』と言われればやらないこともないけれど、新規のお客様の安価なオーダーには一切応えない。仕事が欲しいからと言って、安かろう悪かろうにはできないんです。それが会社の信用力に繋がりますからね。この仕事は、人手と手間をかけなきゃいいものはできないんです」

 

社長のこの品質への思いが、現在の繁栄の礎になっている。そして、様々な食品メーカーから絶大な信頼を勝ち得る原動力となっているのだ。

「この業界ではまだ少ないですが、うちはISO9001を取得しています。こういうところ一つとっても会社の信用力を高めていくんです。大手のメーカーさんも、もちろん作ろうと思えば自社でできるはずです。しかし、自社でやるとすれば相応の手間をかけなきゃできない。なので結局うちに注文してくるんです。それだけ品質が高く安定しているからなんですよ。これだけ化学が発達した現在でも、この脂は人工的に合成できるものではないので需要がなくなることはありません」

 

豚の脂って、どう使われている?

竹本産業株式会社 (4)

トンネルフリーザー入口

ここで少々素朴な疑問。そもそも豚の脂をどんな製品に、どんな風に使っているのだろうか。

「例えば、サラミに入っている脂、米粒みたいに見えるあれです。あれを珍味メーカー大手2社に対してうちがほぼ全部納めています。もちろんすべて国産の豚からできています。輸入物では脂の融点等が合わないので」

確かにあの脂は目に見える分かりやすい形だ。他にも、私たちが普段気にもとめない形状で製品が使われているようだ。

「カップラーメン屋さんも、容器が切り替わった時点で、使っている脂をうちの製品に切り替えてくださいました。先方がリニューアルで、ますます味に対するハードルが高くなった分、うちの製品の品質の高さに目を付けていただいたわけです。それもこれも国産原料とISOのおかげと言っていい。実際お話があったときは、量が量だったので返答を3日ほど待ってもらいました。頑張って原料確保に奔走して、何とかめどがたったのでお引き受けしました。この仕事のおかげでますます信用がつきましたね」

 

こういったもの以外にも、ウインナーやソーセージ、焼売・餃子・肉まんといった食品にも副原料として使用されているという。一代で築いた竹本産業。ではなぜ豚の脂だったのだろうか。

「この会社を始めて28年。その前は同じ脂関係の会社に18年間勤めていました。だから、ずっと豚の脂のことばっかりやってきたわけです」

脂一筋で約半世紀。業界の移り変わりも随分と目の当たりにされたことだろう。

「昔はいい加減なものでしたよ、この業界は。品質なんかも毛や骨が入っていて当たり前の時代だった。肉のカット工場でもずさんな品質管理をやっていましてね。こっちは製品を作るための原料として納めてもらっている脂も、向こうから見たら不要なもの。いわば廃棄物なわけです。ですから異物が混入していることもざらだった。こっちはお金を払って買っている立派な原料なんだからと、改善の働きかけをしましたね」

 

先行投資なくして成長なし!

竹本産業株式会社 (3)

カット室

長きに渡ってこの業界を生き抜いてきた竹本産業。今やこの分野のトップメーカーとして一目置かれる存在になっている。その成長の要因はなんだったのだろうか。


「この工場を建てて8年。それまでは酒田市大宮町で、ここの10分の1くらいのスペースでやっていました。もちろん過去においても品質はきちんとしていましたが、将来を見越して、さらに高品質を求めるならもっと広い所で設備を充実させないと、と感じていました。旧工場で続けていれば借金もなく、いまや左うちわだったかもしれませんが(笑い)。

莫大な費用を投じましたが、この先行投資により工場を大きくしたことで、生産量はもちろん、従業員もゆとりをもって仕事ができるようになりました。衛生面にも気を遣い、これも他の追随を許しません。メーカーから定期の検査や抜き打ちの検査が来ても、他所にここまで清潔な工場はないと言わしめる。苦労はしましたが、更なる事業拡大のため、2年前にはさらに400坪を増設しました。借金も返し終わってなかったんですけどね」

 

しかし、ただ単に工場に投資をしてきたからというだけで、ここまでの成長はあったのだろうか。

「うちの脂はいわば副産物なので、例えば大手メーカーから脂の原料を買って、それを加工してまた各工場に売っています。値下げを言われるとすれば、当然原料の値下げをお願いすることになるので、相手もよくこちらを理解してくださっています。また、きちんと量や納期を守るためには、原料の量や納期も守ってもらう必要がある。大手と対等な関係で手を握り合ってやってこられたことが大きかったと思いますね。もちろん、最終的には会社と会社、人と人との信頼関係こそが最大の要因なのでしょうけど」

 

新しい事業へも積極的に進出!

業績が安定的に成長している現在だからこそ、将来へ向けての新たな展開を準備しているという。前述の工場増設もその一つだ。

「少子高齢化が叫ばれて久しいですが、それが世の趨勢だと言って埋没していては企業経営が成り立たなくなります。お年寄りがますます増えていく中での肉の需要を考えると、今までと同じ商品では苦労するに違いないと思っています。いかに高齢者に受け入れられる食品を作っていくかが重要です。また、ハム・ソーセージ関係で言えばこれからは量の時代ではない。いかに国産の豚を使って美味しくできるか。カップラーメンは変わらず需要があるだろうから、これも高齢者に合ういいものを作れるかどうかが大切です。そして力を入れたいのは豚の副産物の加工などです。これをいかに高齢者に受け入れられるようにするか。あるいはもっと女性に食べていただけるような形、味付けにするかですね」

ということは、これまでの原料だけでなく、我々の手元に直接届く商品の展開を視野に入れているということなのだろう。

「これまでは脂という原料を作ってきましたが、これからは一般消費の商品に力を入れたいと思っています。できれば10年以内に農産物、とくに地元の食材を使った加工品をやりたいですね」

竹本社長の目は、常に一歩も二歩も先を見据えている。山形の地から、日本の食を支える〝小さな巨人〟。いずれそれが真の巨人になる日も遠くないのかもしれない。

オビ ヒューマンドキュメント

竹本産業株式会社 (5)

竹本産業株式会社

〈工 場〉 〒999-8437 山形県飽海郡遊佐町藤崎字茂り松157-31

(鳥海南工業団地内)

TEL 0234(75)3033

〈本 社〉 〒998-0828 山形県酒田市あきほ町655-2

<従業員数>78人

 

  【2013年2.3月号の記事より再構成】
WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから