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株式会社飯塚製作所 ‐ 「単品屋」にも「量産屋」にも依頼しにくい部品加工、承ります!

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

オビ ヒューマンドキュメント

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株式会社 飯塚製作所 取締役事業統括長 佐藤正和氏

安心・安全な作業環境で、自慢の技術力を存分に発揮。

 酒田市で創業38年を数える機械部品の切削・加工・組立メーカー、株式会社飯塚製作所

本誌2013年2・3月合併号では、「モノづくりはヒトづくり」という考えから若い社員に大きな責任を持たせ、意思決定の習慣を付けさせる飯塚俊悦社長の人材育成法をご紹介したが、今回は同取材時にも飯塚社長の片腕として同席した佐藤正和氏が主役だ。肩書きも「取締役事業統括長」へと変わった同氏に、経営者としての意識や同社の現在について聞いた。

『安全衛生プロジェクト』

 前回取材時以降の大きな動きとして、同社では昨年、『安全衛生プロジェクト』をスタートさせている。作業員に危険のない環境が製造業としての大前提であるとの理念の下、社全体の安全衛生水準の向上を図るプロジェクトだ。具体的には、プロジェクトの柱となる安全基準を設けた上で、総勢25名の社員を5名ずつ5つの班に分け、各班で改善活動を行う。たとえば工場内には落下物もあり、下を見ずに歩いていると転倒してしまうようなこともあるが、これを無意識に移動しても危険がない状態へと是正する。

班ごとにこうした活動を重ね、安心・安全な環境を実現していく。危険性が指摘された箇所については、必要があれば業者に調査を依頼することもあるといい、同プロジェクトに対して、社として予算や手間をかけて臨んでいることが伺える。

 プロジェクト発足から1年、本腰を入れて取り組むようになってからは半年に満たない段階だが、現時点での手応えについて「社員ひとりひとりの安全意識が明らかに向上しています」と答えてくれた。それぞれが工場内の危険と思われる箇所を見つけ、改善に努めていく中で、これまでは気が付かなかったり、問題とされてこなかったりといった細かい点についても積極的に指摘や提案がされるようになっているという。言うなれば、このプロジェクト自体、「社員に問題意識を持たせることが世代交代や事業承継において重要である」という飯塚社長の考えが同社に浸透していることのひとつの表れであろう。

 

 安全対策や社内環境の改善など、売り上げに直結するわけではない取り組みは、ともすれば軽視されがちだ。日々のやりくりに苦労している中小企業であればなおさらであり、今日の経済状況を考えればその事情も大いに分かる。しかし、リスク管理の行き届いた企業は、クライアントにとってもリスクが少ない。

同社の場合は、社員の安全を守るための『安全衛生プロジェクト』が、対外的にも同社の信頼を高め、ひいては受注増にも繋がってくる。これまでも右肩上がりに推移してきた同社の業績は、今年も順調に推移し、昨年を上回る予想だという。これを当プロジェクトの効果と結びつけるのは飛躍が過ぎるにしても、事故のリスクを防ぎ、作業環境を向上させていることを考えれば、業績に対する影響も軽視はできない。

 

他社との連携の重要性

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安全衛生プロジェクトの打合せ風景。真剣な社員たち。〈安全衛生プロジェクトの改善実例〉上が改善前で、下が改善後の写真。エアホースが床にあり、つまづいたり転倒する恐れがあったが、改善後は床にホースがなくなり、掃除もしやすくなった。ちなみにこの対策実施にかかった費用は、エアホース(¥980)×2本=¥1,960で、作業時間は1時間程度とのこと

 では、業績を伸ばしているという本業についての近況はどうなのだろうか。尋ねてみると、クライアントからの要望が、同社1社のみで対応できる量や内容を超えるケースが増えているようだ。こうした傾向が強まるなか、同氏は他社との連携の重要性の高まりを実感しているという。

 しかし、外注に関してはこんな問題もある。技術力において、同社は寸法精度に自信を持っており、特に仕上がりの外観を重視している。新品であれば傷や打痕の無いものを納品するのが当たり前というのが同社の認識だ。

ところが、以前、協力会社に仕事を依頼した際に、傷や打痕が目に付くものを納品されてしまったことがあるという。当然ながら、こうした意識を共有できなければ外注はできない。同社にとっては、品質に妥協することなく連携できるパートナー企業と出会えるかどうかがひとつのポイントとなりそうだ。

とはいえ、これからの中小企業にとって他社との連携は必須。技術力のある同社は、手を組む企業にとって心強いパートナーであることは間違いない。

 

「ニッチな数領域」の受注を狙う

 ほかにも、同氏はこんな展望を教えてくれた。製造業はその受注量によって「単品屋」と「量産屋」と呼ばれる2種類に分けられる。「単品屋」は1個や2個程度の、たとえば試作品など一台の装置に使われる部品を手がけ、一方の「量産屋」は1万個などある程度まとまったボリュームの部品を請け負うというわけだ。同社が狙っているのは、この「単品屋」と「量産屋」の中間であるニッチな数領域へのニーズだ。たとえば5~10個、また50個など、単品屋にとっては多く、量産屋にとっては少ない、その合間の領域の注文を請けることで、「ニッチな数量の発注は飯塚製作所にお願いしようと思われるような会社にしたい」との考えだ。

 強みである外観を美しく仕上げる技術力をアピールしながら、自らを単品屋とも量産屋とも定めず、幅広い数量の注文を柔軟に請けることで、独自性を構築していく戦略だが、確かに、決まった工程を流すシステムであることの多い製造業では、既存の枠から外れた注文は敬遠されることが少なくない。同社が力を入れようとしているいわば「中途半端」な数領域は、「単品屋」「量産屋」のどちらにとっても、利益になりにくい領域であると言えるだろう。目の付けどころは鋭い。

 

 

 

 同社では現在でも、関東地方や中部地方からの注文も請けるなど、県外の取引先が全体の5割を占めている状況があり、また同社から県外へのアピールも積極的に行っているという。

また、請け負う分野についても特に限定しておらず、現在は計測機器用部品や自動車のプレス用部品、真空装置用部品などがメインだが、過去に手がけていた航空機用の部品などにも、引き合いがあれば積極的に手を挙げたいとの考えだ。こうして、地域を問わず広く全国の他業種企業と関わる中で学ぶことも多いという。「仕事をしながら勉強させてもらっています」と語る同氏は、若くして社長同様の立場を任され、社の明日を担う経営者として貴重な経験を積んでいるようだ。

 

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●株式会社 飯塚製作所

〒998-0005 山形県酒田市宮海字中砂畑27-21

(酒田臨海工業団地内)

TEL 0234-33-5577

http://www.iizuka-i.co.jp/

2014年12月号の記事より
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