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ICC株式会社 × ゾンデックス株式会社 ‐ 内部被爆から住民を守れ!

◆取材:綿抜幹夫

 

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ゾンデックス株式会社 代表取締役社長 松尾和彦(まつお・かずひこ)氏…1962年生まれ。関西大学工学部電子工学科卒業、大阪大学レーザー核融合研究センターで1年間、研究生活を送る。パナソニックの輸入専門技術商社・パナソニックテクノトレーディングに入社、レーザー、電磁波、放射線関連業務などを担当。退社後、2010年にゾンデックス株式会社を設立し、代表取締役社長として現在に至る。

ICC株式会社 代表取締役社長 大嶋直美(おおしま・なおみ)氏…1961年生まれ。茨城キリスト教大学文学部英語英米文学科卒。建築設計、不動産業、ファイナンシャルプランナー、M&Aなどを経て、LEDを研究する会社の取締役に就任。以来、「これからは環境」と考え、2008年にICC株式会社を設立、代表取締役社長として現在に至る。

 

放射能を瞬時に測定できる装置が普及すればするほど、あの3.11以降に被爆した人々の健康に寄与できる仕組みが、いま、急ピッチで進められようとしている。高感度ゲートシステムの輸入・卸しを手がけるゾンデックス松尾和彦社長、販売を担当するICC大嶋直美社長に話をうかがった。

 

 

内部被爆を可視化し、より適切な解決に導く試み

東日本大震災および福島第一原発の事故からまる3年が経過しようとしている。復興の遅れもさることながら、放射性物質の汚染状況、その対策に関していまだに十分なコンセンサスが取れているとは言い難いだろう。福島に留まる人々はこのまま歳を重ね、県外の人間はどんどん忘れていく。そんな没交渉に陥ることをなんとか食い止めようと、今、一つのシステムが注目を集めている。

「2010年7月にゾンデックスという会社を興しましたが、その半年後に福島の事故が起きました。たまたま取引のあった大手メーカーの方が、『機械一つひとつを放射能測定して、証明書を書かないと輸入してくれない。なんとかあなたの会社で放射能測定器を輸入できないか』と言われたんですね。私は学生時代に核融合の研究をしていましたが、その時使っていた計測器を思い出し、電話をしてみました。日本にはすでに輸入代理店がありましたが、『代理店になってくれてかまわない』と。それで輸入できることになったんです。ミリオンテクノロジー社の製品を扱えることになりました」

 

同社がいま強力にプッシュしている「ファーストトラックファイバー」(以下FTFと略)がそれだ。最新のγファイバーシンチレータと高速ゲートモニター技術をコンパクトにまとめたシステムで、形状は空港などでよく見かける金属探知機と同じ。体表面の汚染ばかりでなく、体内外から発する放射性物質のγ線を1~30秒と高速で検出し、瞬時に数値が表示される。

「国が認可している現行の装置は、簡単に測っても2分、通常10分、精密に測るためには30分かかります。しかもその間、ピクリとも動いてはいけない。静止の姿勢で長時間です。子供にはまず無理ですし、大人でもきついですよね。FTFは海外では広く認められていますが、日本ではなかなか認めてくれません」

 

松尾社長の説明によると、FTFは胃がんの検査におけるバリウムのようなものだという。

「まずバリウムを飲み、疑いのある人は次に胃カメラに進みますよね。放射性物質の検査においては、このFTFがバリウムの役割を果たします。FTFで危うい数値が出たら、次はホールボディカウンターで精密に測定すればいい。今は全部ホールボディカウンターでやっているから、時間もすごくかかるし、福島県民の十数パーセントしか測定できていません。しかもその測定自体、先ほど申し上げたような理由で正確ではありません」

既得権益に挑んでいくことには、常に大きな困難が付きまとう。そこで松尾社長がタッグを組んだのがICCの大嶋社長だ。

「私は近年、太陽光発電やLEDなど、環境事業に取り組んできました。いろいろ模索しているあいだに3・11に遭遇し、その直後に松尾社長と知り合い、FTFを知って、『今やるべきなのはこれだ』と確信しました。それ以来、ゾンデックスさんが輸入と卸し、私の会社が営業・販売と役割分担をして、サポートさせていただいています」

 

43歳でがんになった医療に救われた命、医療に貢献したい

松尾社長は、パナソニックの輸入専門技術商社出身。輸入や海外取引のプロフェッショナルだ。しかも大学で高周波や放射線の研究を専門に行っていた実績がプラスされ、ミリオンテクノロジー社の正規代理店としての地位を確保した。しかし独立してゾンデックスを立ち上げるまでの道のりは平坦ではなかった。

「パナソニック時代、末期の食道がんになってしまったんです。43歳の時でした。余命1年と宣告され、大ショックでしたが、私はその後の運が良かった。会社の検診で見つかったのですが、その日、本来の担当ではない臨時の医者が来ていて、その人がたまたま画像専門医だったんです。で、検診後に、本来なら違反なのでしょうが、彼が私の携帯に電話してきて、『たいへん気がかりな状況です。明日すぐウチの病院に来てください』と。そこでがんであることが判明し、食道がんの名医を紹介され、そこに行ったら有無を言わせず即日入院です」

 

入院中の実にユニークなエピソードがある。

「摘出手術の後は、いろいろ食べられないものが出てきそうだと聞かされて、真っ先に頭に浮かんだのが上海蟹でした。そこで手術の前に、なんとか一度家に帰らせてほしいと頼み、一時退院して、しかし家には行かず、その足で成田に行って、飛行機に乗りました。おわかりですよね? そう、本場で上海蟹をたらふく食べたんです! 3日後には何食わぬ顔で病院に戻りました(笑い)。おかげさまで今は、何でも食べていますよ」

なんというバイタリティ。この時点で、手術の成功と新ビジネスの船出は、祝福されていたのかもしれない。

「医療に助けてもらったこの命、なんとか医療に対して恩返しをしたいと思いました。今、福島では、言い方は悪いですが、猫も杓子もホールボディカウンターを使っています。本来なら30分かけて検査するベきところを1~2分でやっているから、多くの場合、『不検出』という結果が出ます。これはゼロでしたという意味ではなく、規定値に届かなかったというだけで、しかも極めて不正確です。何より問題なのは個々の方々の数値が出ないことで、その点、FTFは瞬時に数値が表示されますから、まずは安心していいのか、もっと詳しくホールボディカウンターで測定するべきなのかが、その場で判断できます」

 

自治体向けに発信を強化し福島の住民全員を検査したい

FTFは現在、いわき市の小名浜生協病院と、郡山市の桑野協立病院に常設されている。もっと多くの人に利用してもらうにはどうしたらいいのか。大嶋社長に伺おう。

「測定をしてほしい人たちは、病院や公民館などにいつでも行けるわけではありません。そこでFTFをバスやトラックに載せ、移動していろいろな人に測ってもらうことを考えています。大切なのは、1度きりではなく、定期的に測ることです。そうすることで、核害から自分を守ることができるのです。福島に拠点を置いてどこまで巡回できるか、いま検討しているところです」

 

ちなみに、FTF1台の値段はフルオプションで約2千万円。誰でも簡単に出せる金額ではない。測定の際には1人あたり3千円なり5千円なりの料金をもらわなければとてもやっていけない事業だが、さりとて被爆した人から金を取っていいのか? という懸念は残る。ではいったい、ビジネスモデルをどう作っていくのか? 再び松尾社長に聞こう。

「私たちのほかにもう1社、投資をしようと考えているビジネスパートナーがいます。そして、診療ができる別会社を作ります。平行してFTFの検査車で巡回して被爆の状況をモニターし、各自治体が持っていながら稼動率が低い精密な測定器と有効につないでいきます。自治体と連携させることで補助金が出るかも知れません。この流れを確立するために、今、自治体向けの発信を強化しているところなんです」

おおよその青写真はできている。しかも、測定に際しては興味深い事実も明らかになってきたという。

「今設置している病院では、検査のお金はいただいていません。生協の病院なので、基本的には生協会員のためのものなのですが、一般の人も検査できます。で、無料なんですが募金箱が置いてあるんです。そこでだいたい、組合員の方にワンコイン、つまり500円以上をお願いしているようですが、数千円くらい入れてくださる方もいるそうです。これがもっと認知されていくと人数が増え、そうすると募金だけでもまかなえるのかな、と考えたりもします」

大きな病院なら、2千万円程度の出費は出せない数字ではないだろう。まだ珍しい装置だけに、待合室に設置すれば、誰でも最低1回は検査してみたくなるはずだ。そこに善意の募金が集まれば……可能性はさらに大きく広がる。

 

とはいえゾンデックスとICCは、そうしたありがたい傾向も考慮に入れながら、あくまで自力でビジネスモデルを構築することに力を注いでいる。加えてもう1つ、将来を支えていくだろう柱となる事業があるという。

「ズバリ、土壌改良事業です。抗酸化機能性ゼロライト、ナノ粉末に様々な石灰質を混ぜ、独自の粉末を作りました。成分検査もすべて終わっていて、水に溶くと水素水になり、普通にごくごく飲むこともできます。この粉末で作った水を密閉すると水がずっと腐りません。これを土壌に混ぜると、お米や野菜、果物など、種類を問わず、生育が約30%アップします」

実際、従来の土で作った稲穂と、改良後の土壌で作った稲穂を両方見せていただいたが、なるほど3割ほど長く、大きく、張りがある。この土壌改良事業が、どれだけFTF事業のバックアップとなれるのかどうか。

「FTFは、精密に測定するための機械ではありません。そこは誤解のないように申し上げておきます。我々にできるのは、『危ないな』という状態を見つける、いわば前捌きの部分です。そして目標として、すべての福島県民のフォローアップを掲げたいと思います。福島を愛する方々が安心してずっとそこに住み続けるためのお手伝いをし、それから茨城や宮城など、近隣の方々にもさらにお役に立てればと考えています」

放射能との戦いという、長い道のりを行くためには、ボランティアよりも腰を据えたビジネスが望ましい。ゾンデックスとICCは、その長い途上の、ようやくスタートラインに立ったところだ。

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オビ ヒューマンドキュメントICC株式会社

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ゾンデックス株式会社

〒105-0001 東京都港区虎ノ門2-8-1 虎の門電気ビル

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http://www.sondecx.co.jp

 

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