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サンサイクルシステム株式会社 ‐ 駐輪ビジネスを通じて自転車マナーの向上を目指す!

◆取材:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

 

所沢から日本の駐輪を変えたアイデア社長

サンサイクルシステム株式会社内田勉氏

サンサイクルシステム株式会社/代表取締役社長・日本サンサイクル株式会社/代表取締役・所沢商工会議所/副会頭 内田 勉(うちだ・つとむ)氏…昭和25年(1950年)、埼玉県所沢市に生まれる。立教大学観光学部を卒業後、所沢青年会議所に入会。昭和55年(1980年)サンサイクルシステム株式会社設立。代表取締役社長。昭和59年(1984年)日本サンサイクル株式会社設立。代表取締役。現在、所沢商工会議所副会頭。

通勤時、駅まで自転車で通っている人は多いだろう。駐輪用のラックに駐輪場のゲート、会員カードを用いた駐輪システムなど、見慣れた駐輪場の歴史は埼玉県所沢市の青年会議所から始まっていた。メーカー(サンサイクルシステム株式会社)と販売会社(日本サンサイクル株式会社)の両輪を操る内田勉社長の経営史をご紹介しよう。

レンタサイクル事業から漕ぎ出した

同氏は昭和25年(1950年)生まれ。立教大学を卒業後すぐに、地元の仲間を作るために所沢青年会議所(JC)に入会する。この青年会議所への入会が、今日まで続く同氏の事業のスタートとなった。

当時、駅前の駐輪場は無料だった背景もあり、『銀輪公害』と呼ばれる放置自転車が問題になっていた。この放置自転車問題と、空き缶問題、そして植樹運動の3つが、全国の青年会議所の主要なテーマだったという。この中で何かビジネスになるものはないかと考えた同氏ら所沢の青年会議所のメンバーは、放置自転車に狙いを定める。

はじめに手がけたのは、駐輪場ではなくレンタサイクル事業だった。自転車は、1平米につき1台置ける。同氏はまず装置を立体化することで100平米に320台置ける設備を考案する。レンタサイクルは、ある人が置いて行った自転車にまた別の人が乗っていくことから、稼働としては2倍の計算ができる。つまり100平米でおよそ600人だ。こんな構想の下、全国のJCの仲間50人が100万円ずつ、合わせて5000万円の資金を集めて昭和55年(1980年)に立ち上げたのがサンサイクルシステム株式会社だ。

 

上尾商工会議所、西武鉄道グループ、伊藤忠商事…縁を引き寄せ軌道に

サンサイクルシステム株式会社 (1)立体式レンタサイクルシステム ねりまタウンサイクル

サンサイクルシステム株式会社 (2)

石神井公園 駐輪場区画ゴムチップライン「トッキーライン」。ゴム製なのは視覚障害者への配慮から。

サンサイクルシステム株式会社 (3)無電源個別精算機サンラッキー

 

しかし、いざ始めてみたはいいが、なかなか売れない。自転車が放置されて問題となっているところにレンタサイクルなど始めても、自転車が増えることになるだけ、と受け取られてしまうのだ。

困っていたところ、埼玉県上尾市の商工会議所の当時の会頭が、同社のレンタサイクルのアイデアに着目する。上尾でも放置自転車の問題を抱えており、駅前の再開発に伴って有料の駐輪場を検討していたのだ。こうして1号機が完成したが、カードを機械に読み取らせて自転車を出し入れする同社の装置は当時としては画期的で、NHKはじめテレビ各局に取り上げられるまでに至る。このテレビ放映のひとつをたまたま目にしたのが、西武鉄道グループの堤義明氏だ。堤氏の鶴の一声で、西武鉄道の狭山ヶ丘駅や新所沢駅など5駅に導入されることになる。

 

次に同社に注目したのは伊藤忠商事だ。当時、伊藤忠商事の建設部は、コンビニエンスストアのセブンイレブンやホテルのホリデイ・インなどを手がけており、続いてレンタサイクルをと、同社に出向してくることになった。しかし、サンサイクルシステム株式会社は前述のとおり、JCの仲間が均等に出資して作った会社であるため、筆頭株主がいない。伊藤忠商事としては、筆頭株主がいない会社には入れない。こうした経緯から、昭和59年(1984年)に日本サンサイクル株式会社を設立する。2つの会社はサンサイクルシステム株式会社がメーカー、日本サンサイクル株式会社が販売会社という切り分けだ。

 

メーカーと販売の2社体制で事業を本格化

こうして、伊藤忠商事の協力を得た同社。当初は、日立グループのダムウェーターなどを製造していたサイタエレベーター製造株式会社(埼玉県飯能市)の力を借りて製品を製造していた。しかし、折からの建設ブームによって、サイタエレベーター製造株式会社は本業のエレベーター事業が多忙になり、同社のレンタサイクル製品に手が回らなくなってしまう。

 

そこで伊藤忠商事から紹介されたのが川崎重工業だった。川重はバイクも製造しており、伴ってバイクの駐車場も開発をはじめていた。このバイク駐車場の試作機に、レンタサイクルのノウハウを持つ同社がアドバイスを提供した。その後川重がレンタサイクルシステムの製造をして貰うことになる。しかし、川重は巨大企業。見積もりが返ってくるのに2~3週間かかってしまうなど、フットワークの重さはあった。そこで川重の100%子会社の川崎エンジニアリング株式会社と手を組むようになり、兵庫県神戸市の人工島『六甲アイランド』内のバイク駐車場に自動ゲートを設置する。神戸は坂が多いため、バイク人口が多いという背景があったのだ。

川重の存在によって、同社は「何でもできる」状態だったという。押しも押されもせぬ川重は、「役所の仕事であれば(確実だから)、(役所から)お金が入ってから(川重に)払ってくれればいい」という対応だった。普通は、たとえばマンションなどの地下に駐輪場を作る場合、およそ3年も前に材料費を入れるという。前渡金もあるとはいえ、材料費だけ先に入れて実際の施工まで3年も待つ必要があったというから、川重の対応は中小企業の同社にとってはありがたかった。こうした頼もしい後ろ盾もあって、当時の同社は金融機関と取引する必要がない状態だったという。また、その頃は役員がみな別の仕事を持っていたため無給であり、これも資金繰りの面では大きかった。

このころ、サンサイクルシステム株式会社は資本金を現在の1億円に増やしている。

 

課題解決力と人間力を武器に

通勤や通学を考えれば自明だが、駐輪場は朝と夜が繁忙で、合間の時間は極端に閑散となるため、自動化して人件費のコストを下げようとするニーズは多かった。同氏はこうしたニーズも含めて、課題をビジネスに繋げる力に優れている。「失敗も沢山してますから」と謙遜するが、百の失敗から、画期的な製品を生み出してきた。たとえば、非接触型カードもいち早く駐輪場に取り入れた。非接触型カードは、当初は1枚作るのに3000円ほどかかったが、それでも導入したいと興味を示す役所は多かったという。このほか、駐輪場定期券の自動更新機も同社が開発したものだ。定期の自動更新機については、現在のように浸透するとは予想していなかったといい、同氏は「特許を取っておけば!」と笑う。

 

当時、全国の役所の自転車対策課は、放置自転車や盗難などのクレームばかりが寄せられる厳しい部署だった。そうしたところにそれら画期的な製品を営業に行くと、駐輪場の現状が少しでも改善されるならと職員からは良い反応があったという。同氏はネタが尽きないように毎日小出しにしながら、「困ったときのサンサイクル」を売り文句に「何でも言ってください、なんとかしますから」と通いつめた。

「とにかく自分の名前を覚えてもらわないといけませんから。重要なのは人間の力ですよ。自分で行って、覚えてもらって」

元来の自転車駐車場では、駐車台数の約1割ほどは捨てられた自転車が多くあったが、同社がゲートを設置した場所は極端に乗り捨てが減ったという。役所にも喜ばれ、次から次へと「こんなことはできないか」と相談されるようになる。製品がどんどん売れていく、モノづくり・製造業の面白さを実感する日々だった。

 

夢は自転車マナーの向上

今後については、2020年の東京オリンピックに向けたビルやマンションの建設ラッシュに伴い、駐輪場事業の需要は見込めているというが、同氏の夢は目先の五輪需要にとどまらない。

5、6年前から、歩道にも自転車を駐めることができるようになった。これを受けて、同社は国交省や警察、八千代エンジニアリングと提携し、麻布や新橋、新宿に駐輪スペースを示すゴム製のライン『トッキーライン』を敷設している。ゴム製なのは、視覚障害者への配慮だ。

自転車は、元来事故が多い。行政の対応も、車道を走る自転車と自動車との事故が増えたために歩道を走らせ、その結果歩行者との事故増加を受けて2013年からまた車道に戻すなど、二転三転している。同氏は「とにかく自転車利用者のマナーが悪い」と嘆き、「何かやらないと」と対策の必要性を感じている。『トッキーライン』の敷設もそのひとつなのだ。続く二の矢三の矢も、目下考案中だ。

 

地元所沢の活性化に向けて

所沢商工会議所の副会頭も務める同氏に地元の現状を聞くと、大型ショッピング施設が建ち、商店が厳しい状況は所沢も例外ではないようだ。「(私の)子供の頃と比べても、地元から明らかに人がいなくなっています」と肩を落とすが、一方で毎年の催事である『ところざわまつり』には25万人、『所沢市民フェスティバル』には30万人の動員があるという。高齢者が多い特徴も踏まえ、彼らの消費をどう促すかに知恵を絞っている。

あまり知られていないが、所沢はかつて、青梅から仕入れた生糸を使った織物が盛んで、江戸時代には3と8の付く日に『三・八の市』が開かれていたという。同氏はこの『三・八の市』を専門店の市として復活させようとしており、来年の3月8日に第一回を予定している。所沢はおいしい里芋や、狭山茶の産地でもある。現代に蘇る『三・八の市』の具体的な内容を、今まさに検討している段階だ。

 

地元活性化には、中小企業が元気になることも不可欠だ。同氏は「役所の仕事の6割以上は大手が落札し、下請けも市外の企業です。これはもったいない。なんとか所沢が潤うようにしたい」と語る。そのために必要なのが企業同士の連携だ。商工会議所も、地元企業の交流の場を増やそうと努めている。ひとつの例として、同社は今号の本企画『この経営者に注目!』でご紹介するもう1社、株式会社井口一世とビジネス上で連携しているという。

所沢はこの1年で、鉄道が横浜まで繋がり、圏央道もできるなど、交通の便がとても良くなった。

「所沢はいま狙い目。明るくいこうよ、と言っています」

 

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サンサイクルシステム株式会社

〒359-0037 埼玉県所沢市くすのき台3-16-9

TEL 04-2993-3700

http://www6.ocn.ne.jp/~sancycle/

日本サンサイクル株式会社

〒103-0014 東京都中央区日本橋蛎殼町1-7-9(オンラインビル)

TEL 03-3639-4911

http://www.sancycle.co.jp/

所沢商工会議所

〒359-1121 埼玉県所沢市元町27-1 所沢ハーティア東棟3F

TEL 04-2922-2196 http://www.tokorozawa-cci.or.jp/

 

2014年12月号の記事より
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