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株式会社佐藤工業所|地方の金属型枠メーカーが地域と挑む新エネルギー 二代目ムコ殿社長が満を持して放つ第三の矢

 

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株式会社佐藤工業所 地方の金属型枠メーカーが地域と挑む新エネルギー

二代目ムコ殿社長が満を持して放つ第三の矢

◆取材:綿抜幹夫

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株式会社佐藤工業所 (2)株式会社 佐藤工業所 代表取締役 佐藤輝男氏(静岡中部金属開発協同組合理事)

ポリシーは「お客様のどんな小さな望みも受け入れること」

戦後、先代が起こした町の鍛冶屋は、昭和30年代の高度経済成長期にそれまでの技術を活かして型枠専門メーカーに転換。以後、大手ゼネコン各社やコンクリート二次製品メーカーから高い信頼を受けて飛躍し、次々と全国の大手建設プロジェクトを支えてきた。

そんな中、バブル経済期に社長の座を譲り受けた二代目・佐藤輝男氏は、バブル崩壊、リーマンショックなどの困難を乗り越えてきた。そして今、数々の経験をもとに、次世代を見据えて、新たな分野に船出しようとしている。

 

効を奏したポジティブシンキング

株式会社佐藤工業所 (3)施工事例のひとつに、新都庁・新宿副都心ビル群がある。東京の中でもひときわ賑わいを見せる新宿の超高層ビル群に共通のカーテンウォールの型枠が使われており、ビルの壁面構築工法のひとつとして数多く採用されている。

学生時代におつき合いしていた女性は、静岡にある会社の社長令嬢で一人娘。片やごく普通の家庭に育った経済学部出身のサラリーマンで、いずれは実家を出て独立しなければならない三男坊。そんな二人が結婚することになって、三男坊は婿に迎えてくれるありがたい話をいただいた。「でもまさかこんな大きな事業を展開している会社とは思わなかった」と話す佐藤輝男氏(以下同)。

金属加工も型枠も何も知らないまま入社して、義父からは「お前は婿だから将来、跡を継いでもらう」と言われ、現場の仕事から一通り全部やらせてもらいながら勉強した。軍人だった義父の一筋縄ではいかない厳しさに耐え、先輩方からのプレッシャーにも屈しなかったのは、苦しみを苦しみと感じない性格に育ててくれた両親のおかげだという。

「『自分には乗り越えられる能力があると判断して、神様が与えてくれた試練だ』『どうせ同じことをやるなら、前向きに楽しくやらなきゃ損だ』という気持ちになりました」

24歳で入社して一通りの技術をマスターするのに12年、その後、36歳で社長に就任。

「現代では若手経営者が多くおりますが、その当時、36といえばひよっ子ですからね。若輩者によくバトンタッチしてくれたなと思います」

たとえば、義理の息子がもう少し経験を積むまでワンクッション置くという意味で、信頼のおける幹部社員を社長にする選択肢もあったと思われる。だが、よその土地からきた義理の息子に跡を任せると決断した背景には、それだけ跡継ぎ・佐藤氏への期待度の高さがあったのだろうと推測する。

 

 

意思統一を計るためのオリジナル用語辞典

社員として、社長として佐藤工業所を牽引して40年近く。

「振り返れば苦しい思い出っていうのは〝苦しい〟のではなく、私の中では〝楽しい〟思い出なんですよ。だからよく社員にも言いますが、『今は苦しい、でもこれを乗り越えられた時の喜びを感じられる人間になった方がいい。小さなことでも仕事をする上で生きがいを見つけて、一歩一歩前進していく人間になれ』と」

ほかにもまだまだ社員に伝えたいことがあって、「こんなものを作ってみたんですよ」と佐藤氏が取り出したのは『佐藤工業所用語辞典』。きちんと五十音順に並べられたこの辞典には、なにげない言葉の端々に佐藤氏自身の思いのたけが詰まっている。たとえば「赤字」の項には〝赤字は社長の甘え。社長が赤字でもいいと考えたからその企業は赤字になる。決して社員のせいではない〟とある。

こうした、日々佐藤氏が思っていることをまとめた用語辞典は7年ほど前から作りはじめて、今では50人いる社員全員がそれぞれ一冊ずつ持っている。佐藤氏の考えが浸透し、会社全体がその考えを共有していることの強みは計り知れない。

 

 

お客様より先に「アイ・ラブ・ユー」

佐藤氏が常々考え、実践していることの一つに、「お客様の要望はどんなものなのか、我々に期待していることは何なのか。お客様のかゆいところに手が届くような提案をしよう」ということだ。

「例えばもっと生産性をあげたいとか、例えば社員も高齢化しているので作業が楽にできるようにしたいとか。お客様の悩みを聞いて、ひとつでもふたつでもわが社としての工夫で解決できたり、お手伝いできる内容を盛り込んだ提案をする。すると、佐藤工業所というのは、雑談で話したことも製品にこんな風にして盛り込んでくれるのか、とお客様からとても喜ばれるわけです」

その結果、どうなるのか。

「佐藤のファンになってくれるんですよね。そして新たに佐藤のファンを作るためには、我々はお客様に関心を持たなきゃいけない。お客様より先に『アイ・ラブ・ユー』しないといけないんですよ。好きにならないと

以前は社内で独自に製品開発をした経験もあるが、どれもうまくいかなかったという。原因はお客様のニーズとの相違があったから。佐藤工業所が良いだろうと思って開発した製品でも、お客様が求めていることと違っていれば、当然のことながら関心を持たれない。そんな反省から、お客様の身になって様々な開発をし、提案していく。その姿勢を今日まで守り抜いてきた。また、フェイスtoフェイスで仕事が成り立つこの業界では、人としての基本的な力を重要視する。「インターネットによる情報伝達や様々な技術がどんなに発展しても、想像することやお客様の立場に立って考えること、そうした人間の力を忘れたら商売が成り立たない」と、ネット重視社会にも警鐘を鳴らす。

「私が佐藤工業所を引き継ぎ高度成長期に入ってからは、次々に仕事が舞い込みましたから、売り上げ的には今の二倍三倍の時期もありました。ただバブルがはじけて、国が公共事業を縮小削減し、今は全盛期のピークと比べて半分以下になっています。今期の売上目標は16億円。それでも少しはいいかなという感じです」

今後、承継を含め将来を見据えた経営計画でも、その根底に流れているのは、お客様の困ったことを解決できるなら、小さな仕事でも嫌な顔をせずに喜んでやらせていただくという姿勢。

「たとえボルト3本の注文でも東海の地から東京・名古屋・大阪へと駆けつける。その繰り返しが普段からできていれば、業績に結びつく。5年、10年継続すると小さな差が大きな開きになる。ちなみに静岡は三大都市圏と適度な距離があって、お客様からはわざわざ来てくれたと感謝される地の利があります(笑い)」

 

 

新エネルギー分野で実用が確実視される小水力発電への進出

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WSi型小水力発電装置…落差なしでも、流量0.4~6 ㎥ /sあるところに適用できる。平坦な水路に独自開発した加速水路を挿入することで発電能力が向上し、水の流速を2倍以上にすることが可能(エネルギー増幅率は10倍程度)

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WSJ型小水力発電装置…1.5m未満の落差、流量0.35~6 ㎥ /sに適用することができる。また、水路に流れ込んだゴミを検知し、自動的に排除する装置を標準装備している。

静岡の恵まれた自然がくれたヒント

町の鍛冶屋からスタートして、型枠メーカーとして確固たる地位を築いた佐藤工業所。その二代目社長が次に繰り出す手は、なんと新エネルギー分野だ。

リーマンショック以降、ゼネコンが目の敵にされるような大変な時代に入り、現状のままでは商売が難しくなると危機感を抱いた佐藤氏。折しも佐藤工業所創業1世紀に向けて、もう一つの柱を持ちたいと考えていた矢先、元気のない地元の金属加工業数社が一緒に仕事をしようと立ち上がった。それが震災の半年前で、後の静岡中部金属開発協同組合(2013年に地域の支援を受けて設立)の前身となる。

「わが社としても違う分野で、しかも世の中に何か役に立つような仕事はないか、といろいろ模索していました。だから静岡中部金属開発協同組合でも最初から水力に絞ったわけではないのです。まず原発関連を考えましたが、原発の部品はどれも大きくて町工場が扱えるものではなかった。次に注目したのは風力。しかしこれは採算が合わず断念。そこでまわりを見渡すと、静岡は水の豊富な土地だということに気づきまして、水の力を利用した発電機を作ろうと考えました」

従来の小水力発電設備は、大きな水の落差から生まれるエネルギーを利用して発電する。だが、組合の設備は小さな落差、もしくは落差のないところでもある程度の発電ができるもの。具体的には県内に広がる農業用水路に設置して、高効率な発電ができるものを目指した。それは世界でも成功したことのない小型の小水力発電機の開発だった。

 

 

地域に貢献する仕組みづくりのために

震災以降、風力、水力、海洋エネルギーなど、新エネルギー開発を志した企業でも、売電価格が少しずつ下がって採算が合わないなどの理由で撤退を余儀なくされているところが多いと聞く。ところが組合が開発を続けている小水力発電では、2012年4月、小水力発電において設備容量200kW未満の場合、34円/kWhで20年間買い取ることが法律で定められ、これが追い風になった。

もうひとつ組合が発電機製作の過程でこだわったのは、売電できる仕組みだ。なぜなら、電力会社は発電すればなんでも買い取ってくれるわけではない。常にきれいで安定した電力でないと買い取らない。まだクリアしなければならない課題がある。たとえば地域に電力供給している送電線が台風などの影響で停電になり、電力が送れなくなった場合、小水力発電機から電力を送っていると事故の原因になる。その対策として、送電線の電力がストップしたことをキャッチしたら、瞬時に小水力発電機からの発電を止めなければいけない。そうしたことも全てクリアできるようテストを重ねてきた。

「普段は売電によって地域の農家が潤うようなシステムにして、万が一の災害時には、避難所や町の小さな病院などの電力になるようにする。大きな病院では自家発電装置があってどんな患者も受け入れ可能だが、今まで発電装置のなかった小さな病院でも軽傷の患者を担当できれば棲み分けができて、医療の現場の混乱も少なくなるはずです」

『どんな用水路でも高効率な発電ができます』をスローガンに組合が開発した小水力発電機は、この11月にも1号機が地元農家の方の協力を得て実際の水路で稼働を開始し、落差がある水路に対応するタイプも順次稼働する予定だ。今後はまず静岡県内で実績をつくり、いずれは全国へ。

佐藤氏は、「近い将来、日本中の農業用水路にはどこを見ても小水力発電機が設置され、それぞれの地域で電力をまかない余りある日が来ること」を思い描いている。

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 佐藤輝男(さとう・てるお)氏…1951年6月15日埼玉県さいたま市生まれ。1974年東京経済大学経済学部卒業後、株式会社KMF入社。同年12月株式会社佐藤工業所入社。1987年4月代表取締役就任。静岡中部金属開発協同組合理事。

株式会社 佐藤工業所

〒421-1121 静岡県藤枝市岡部町岡部1947-1

TEL 054-667-1621

http://www.sato-kg.co.jp

静岡中部金属開発協同組合 (設立/2013年10月25日)

〒426-0055 静岡県藤枝市大西町3-14-33

TEL 054-634-0722

http://www.smdj.or.jp

 

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