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株式会社アルケ通信社  不動産専門の広告代理店として「学び」と「模索」の28年

◆聞き手:綿抜幹夫 /文:渡辺友樹

 

株式会社アルケ通信社 (2)株式会社アルケ通信社 代表取締役 成田時信氏

 「企業は経営理念の下に統率される」

「これまで3回ほど、倒産しそうになっています」

株式会社アルケ通信社は、不動産広告を専門に扱う広告代理店だ。28期を迎えるアルケ通信社だが、成田時信社長が語るその歩みは、決して順風満帆なものではない。しかし、幾度かの危機をすべて乗り越えたからこそ、現在のアルケ通信社があるのは紛れもない事実。その秘訣について「ダメなときにダメだと思わないこと、諦めずにコツコツ学ぶことです」と語る成田氏の経営哲学を聞いた。

 不動産広告業界、激化するコスト競争

─御社が身を置く不動産業、不動産広告業の世界にはどのような競争があり、その競争を勝ち抜くために必要なものは何でしょうか? 御社はいかにして勝ち残ってきたのですか?

 

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成田:不動産広告は、ずっと新聞の折込広告が中心の業界でしたが、ここ10年をみても、リーマンショックで経済の循環がマイナスになって市場が縮小し、さらに、産業構造の転換があり不動産広告がインターネット化しました。こうして予算がどんどん縮小され、コスト競争は激化する一方です。

広告の品質に関しては、良いのは当たり前。品質は自分たちが一番良いとして、それでも単価、つまりコストで劣っていては、競争には勝てません。特に、大手はデザインができる前に、見積もりの段階で稟議を上げますから、まずコストで勝つことは必須なのです。

これに対抗するには、仕入れ値をいかに下げるか、作業費や人件費、実費など自分たちのコストをいかに下げるか、そして量をどれだけ取るかが勝負です。当社では、競争力を上げるために、他社があまり持っていないような機械を導入して、自社で印刷しています。外注ではコストも上がり、広告会社として個人情報も扱えませんから、競争において不利になってしまいます。

 

 

「当社の使命はマーケティング支援」経営理念の重要性

─バブル崩壊や、リーマンショックをはじめとして、これまで数度の危機があったとのことですが、それらを乗り越えることができた背景にあるものは何なのでしょうか?

 

成田:不動産業界にはおよそ12~15年で景気が変動するサイクルがあり、当社もこのサイクル毎に難局に直面してきました。企業というものは、社会から必要とされなくなったときに倒産します。ですから、自分たちが売りたいものを売るのではなく、顧客が何を欲しがっているかを考えなくてはいけません。特に中小企業は、商品が1つである『単品メニュー』である場合が多い。その単品メニューが売れなくなれば、即倒産です。当然、ブーム的な売れ方をした場合には、そのヒットが激しければ激しいほど、寿命も短くなると言えるでしょう。10年間で中小企業の95%が倒産するというデータもあります。それほど、中小企業が生き残るのは難しい。

私自身、諦めた方が楽だと思う場面もありました。しかし、そんなときこそ集中的に勉強するんです。経営者向けの勉強会に出たり、色々な本を読んだり。バブルが弾けたときにも本をたくさん読み、その中でリッツ・カールトンの『クレド』から、企業にとっての経営理念の重要性に気付かされました。経営者と社員の利害は、必ずしも一致しているわけではありませんから、経営理念が企業を引っ張っていく指針となるのです。

とはいえ、いざ経営理念を書こうと原稿用紙を広げても、なかなかすぐには書けず苦労したのですが、フィリップ・コトラーの『4P理論』を読んでいて、顧客の顧客を発生させるのが当社の仕事、つまりマーケティング支援であると思い当たりました。そこで、当社は『顧客創造支援企業』であると銘打ち、『私たちの使命は、お客様のマーケティング支援です』という経営理念を定めました。

 

 

 ダイレクトメールに見出した活路

─企業という組織を支える骨子となるのは〝経営者〟ではなく〝経営理念〟。御社の場合は、業界の景気のサイクルや社会の変化に伴って「顧客の顧客を創出」していくことが理念であり、役割であるということですね。では、そんな経営理念に基づいた御社のサービスの具体的な特徴を教えてください。

 

成田現在の当社の主力はDM、ダイレクトメールです。これまで、不動産広告業界は新聞折込で成り立ってきたため、ダイレクトメールを手がけている企業は殆どありませんでした。現在でも、ダイレクトメールはマーケットとして伸びています。

不動産の仲介業は、売って3%、買って3%と言われています。成功報酬ですので、広告費はその3%の中で賄わないといけない。この3%の中で、不動産会社の顧客をいかに獲得するか。つまりお客様のお客様を獲得することが弊社の使命というわけです。これが経営理念にある『お客様のマーケティング支援』の意味です。

具体的には、新聞の折込広告が減少するということは、不動産の「売りの情報」が入らなくなるということです。売りたい人に対して「売りませんか」というメッセージを送る媒体として、折込広告に代わるものが必要になるわけですが、この媒体として、現在のダイレクトメールはデジタル印刷によって顧客ごとの嗜好や属性を反映したワントゥワンマーケティングが可能になっており、非常に効果的なのです。しかし、効果的である一方で、従来通りのアナログ印刷を行っている企業にとっては、参入のハードルが高い。ここに当社の強みがあります。

 

 

不動産業の成功例をまとめた冊子の作成

─マーケティング支援という観点からも、また競争を勝ち抜く観点からも、ダイレクトメールが有効であることがよく分かります。では、それを売り込んでいく営業戦略としてはどのような手法を取っているのですか?

 

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成田:本を何十冊も読んで、成功している不動産会社からその成功例を抽出し、ノウハウをまとめた冊子を作りました。『売却不動産の媒介契約が獲得できるDM・12の方法』『世界的に著名なマーケターが、DMの様々な疑問に答える疑問解決Q&A』と題した2冊ですが、これが好評をいただいています。営業の取り掛かりとして、この冊子を差し上げますというダイレクトメールを送ると、問い合わせが少なくないんです。いきなり「弊社と契約してください」と営業をかけても、成約は難しいですが、この冊子を使ったツーステップマーケティングは、効果を上げています。むしろ、こうした何かしらの武器がなければ、営業などかけられません。

 

 

失敗を繰り返す中で閃くものがある

─なるほど。拝見しましたが、確かにこの冊子は大きな武器になりそうですね。これまでお話しいただいたような、新聞への折込広告からダイレクトメールへのシフトや、またこうした冊子の作成など、成田社長が起死回生のアイデアを生み出せた背景とは何なのでしょうか。

 

成田:私の座右の銘は、ドラッカーの「重要なことは『既に起こっている未来』を確認することである」という言葉です。これは端的に言えば、現在の人口構造から、未来を予測するということです。人口が減少し、市場が縮小していく中で、自分たちが事業を長く継続して発展していくためには、目標に対して足りない部分を埋めていくにはどうすべきかを模索していかなければなりません。これまで色々なサービスを考えてきましたが、うまくいかないことが殆どでした。しかし、そうして模索し、失敗していく中から、また閃くものがあるんです。

 

 

後記 

この繰り返しの中に、アルケ通信社の今日がある。コツコツと勉強し、アイデアを出し、それを実行し続けてきたこと。たとえ失敗ばかりでも、粘り強くこれを繰り返すこと。この粘り強さを生んだのは、書物を繙き、先人からの学びを怠らない成田社長の人間力ではないだろうか。

アルケ通信社のウェブサイトの『経営理念』のページでは、書架の前で本を手に微笑む成田社長の写真を見ることができる。紆余曲折の28年間を生き抜いてきたアルケ通信社の底力の源流は、社長のこの姿にあると言えるだろう。

 

obi2_interviewプロフィール

株式会社アルケ通信社 (2)

成田時信(なりた・ときのぶ)氏

出身地:青森県北津軽郡

趣味:ゴルフ、スキー、料理

座右の銘:重要なことは、「すでに起こった未来」を確認することである。 ─P.F.ドラッカー

 

株式会社アルケ通信社 (4)

株式会社アルケ通信社

〒153-0051東京都目黒区上目黒3-3-14

アサヒ電機朝日生命中目黒ビル5F

℡03-5721-3961

http://www.arche.co.jp

 

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