次世代の産業を担う【中小企業】初めて明かされる秘話
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静宏産業株式会社|トナー容器・超精密歯車メーカーの黒字経営継続3つのキーワード

 

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トナー容器・超精密歯車メーカーの静宏産業株式会社 黒字経営継続3つのキーワード

◆取材:綿抜幹夫/文:小川心一

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静宏産業株式会社 (2)平成の不況を吹き飛ばし、業績絶好調の静宏産業株式会社 代表取締役社長 相吉三宏氏(あいよし・みつひろ)…1941年9月山梨県生まれ。ネジの商社に5年間勤めた後、沼津市にて農業用部品の製造、販売を手がける静宏産業株式会社を興す。1984年、プラスチック製品の製造を開始、株式会社リコーと取引開始。2005年精密プラスチック歯車の製造を開始。2007年、第19回中小企業優秀技術新製品賞、技術製品部門優秀賞受賞。創業以来35年、代表取締役社長。

創造と進歩に向けてチャレンジ、またチャレンジ

「失われた20年」の長い不況のトンネルをくぐりながらも、創業から35年、赤字はたったの2期のみで、黒字街道をばく進してきたモノづくり中小企業がある。静岡県沼津市に位置する静宏産業株式会社だ。その間、リーマンショックなど数々の内外の経済危機にもたじろがず、夫婦二人で始めた会社を、今では180人の従業員を抱える中堅企業にまで発展成長させてきた。その原動力は、経営トップ、代表取締役社長の相吉三宏氏のゆるぎない経営哲学・信念と、そして時代のニーズに応える革新的経営の実践にあった。

驚異の黒字経営を続けるモノづくり中小企業経営者、相吉三宏社長に、その秘訣をうかがった。

ボトムアップ型のワンマン社長!?静宏産業株式会社 (3)

右を向いても左を向いても「景気が悪い」「どうにかならないものか」とビジネスマンの恨み節が日常的に聞こえてくる中、赤字企業には申し訳ないほど業績好調な中小製造会社がある。樹脂成形による超精密歯車やトナー容器などを主力とする静宏産業株式会社だ。同社は、1981年2月、沼津市岡宮にて農業用部品の製造販売会社から出発し、今年で創業35年を迎える。2015年1月期に初めて売上高が20億円を突破する見通しで、それが実現すれば7期連続の増収増益となり、平成アベノミクス時代の景気回復を象徴する代表選手になりそうだ。

 

静宏産業株式会社 (4)同社製品の一例(上から順に)…インクカートリッジ(インクジェットプリンター用の液体インクのケース)/トナーボトル(粉タイプのボトル用キャップ)/フランジギヤ(感光体ドラムの回転用ギヤ)。樹脂成形による超精密歯車やトナー容器などが同社の主力製品

しかし、創業以来の道のりは、必ずしも平坦ではなかった。

「創業時の社員は自分と妻の二人だけ。これから先が不安で、何とも心細い出発でしたよ」

相吉三宏社長は苦笑いする。それが今日180人の従業員を抱え、売上高2000万円から100倍の20億円の押しも押されぬ中堅企業に成長発展させたのだから並大抵の努力ではなかったはずだ。

 

だが開口一番、相吉社長は、

「成功の秘訣なんて特にありませんよ。パート社員をはじめすべての従業員は24時間体制の中、よく働いてくれています。一番ヒマなのは私ですね(笑い)。わが社が今日あるのは、社員のお陰です」と、謙虚に語る。

 

静宏産業の成功のキーワードは、何といっても第1に「人」である。よく「モノづくりは人づくり」と製造業の経営者から聞かされる。しかし実際は、中小企業においては性能のよい高品質の製品づくりに長けていても、人材育成は苦手、難問だとの意見が圧倒的に多いのも事実である。しかし、静宏産業の場合、社員教育、人材育成がうまくいったわけではない。どういうことかといえば、社内教育というシステムの優秀さではなく、相吉社長個人の誠実な人間性、人間哲学が社員一同に浸透し、社長以下従業員が一体となって会社経営に邁進できたことが奏功の要因だからである。

こういうと、いかにも聖人君子型の経営者を思い浮かべる向きもあろうが、そうではない。確かに静宏産業の好業績を見れば、相吉社長はさぞ剛腕経営者なのだろうと大方の人は想像されるに違いないが、実際は会ってみると、物静かで温厚な紳士然としており、たちまち相手を安堵させる雰囲気の持ち主である。

 

ところが職場に入ると一変、いったんこれだと言い出したら、後に引かない頑固さと、製品づくりと技術開発に懸ける情熱と執念は人後に落ちない。それでも、世に言うワンマン社長とは縁遠い。普通、ワンマン社長とは、独断型が多く、よくいえば意思決定の早さの点で長所があり、トップダウン方式が特徴だが、相吉社長いわく「ウチはボトムアップ方式です」と、苦笑しつつも多少自慢げに話す。

 

社員の勤務姿勢に対する目には厳しいものがある。出退勤時間の厳守、厳重な製品管理などは徹底している。だが、こうした社内規律順守のために、口うるさく説教じみた行動を取ることはない。山梨出身の相吉社長は、もともと「人は石垣、人は城」(武田信玄)を座右の銘としており、会社創業時から「会社組織は人間を中心に構成することが大切だ」を胸に刻んできた。そして社員教育は口で行うものではなく、率先垂範がモットーで、自ら会社には早朝一番に出社し、深夜勤務を終えたパート職員の一人ひとりにやさしいねぎらいの言葉をかけるのが習慣である。

「高くもない賃金なのに、朝早くから夜遅くまできちんと仕事をしてくれるパート職員は会社の宝物ですよ」と、相吉社長は深い感謝の気持ちを正直に吐露していた。

 

 

社員重視の考えから、「創業以来35年間、社員への給料・ボーナスは遅配したことがない」という。また社員への感謝と慰労を兼ねての慰労会を毎年行う。これは社員の愛社精神と社員間のコミュニケーション向上につながり、結果、仕事へのモチベーションを高め、社員の創意・工夫、生産性の向上にもつながった。社員の勤務意欲を引き出せたのは、中小零細企業の経営者にありがちな「よろずや大将」、つまり、何でもかんでも社長が口を出してやってしまうというワンマンショーを排除しているからだ。

 

相吉社長は、「自分は技術者出身でもなく職人気質でもない。個々の技術開発には詳しくない。だから技術開発などは、技術者の自主性と責任を重んじている。経理など専門の各部署はできるだけその責任者に任せるようにしている」と話す。つまり、自らは経営全般、経営方針に徹し、各部署に責任を持たせる分業体制をしっかり稼働させているのである。

 

 

さらに、社内の一体感、人間関係重視の経営方針が大きく実ったのは環境問題への対応がきっかけでもあった。1997年からリコー向けのトナー容器用ボトルの生産を始めたが、不良品が大量に出て環境問題が深刻化した。人間愛に熱い相吉社長は、当然、時代の要請である「環境にやさしい経営」にも敏感であった。それまで不良品はすべて焼却炉で燃やしていたが、環境破壊物資を排出する焼却処理をやめ、工場内で分別を徹底しリサイクル業者に託すことで、98年当時では珍しいゼロエミッション(廃棄物ゼロ)を実現した。

それにとどまらず、リコーの管理指導者から教えを請い、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)運動を相吉社長自ら先頭に立って展開した。管理職は24時間、仕事漬けの状態ながら同時に改善活動を続けた。結果、各職場からの改善事例が年間100件を超えた。99年にはリコーのグリーン調達認証を、仕入れ先で最初に取得。さらに2000年には生産コストが97年比約1500万円削減でき、2010年には、専門機関の手助けなしに社員たちの努力のみで、品質マネジメントシステムを問うISO9001認証を取得、2002年には環境マネジメントシステムを問うISO14001認証を取得したのである。

 

 

動くこと、変化することを楽しむ

静宏産業株式会社 (1)工場内の様子/フランジギヤ成形機(写真上)と、クリーンルームで稼働中の全電動式射出成形機(写真下)

成功の第2のキーワードは、「あくなき変革とチャレンジ」だ。人間的にやさしい性格を持つ人は、概して温厚で保守的な人が多いが、相吉社長は違った。「創造と進歩」を経営理念に掲げる相吉社長の考え方の根底には、「既存のモノは今日で終わり」という思想がある。つまり、この世においては、「常なるものは、なし」という考え方だ。したがって企業経営においても既存の製品、技術に安住してはならず、「今度は何を変えようか、いつも変化を追求しています」と言い切る。

そんな相吉社長の真骨頂は、新製品・技術開発の節目、節目に果敢大胆な設備投資を実行した「積極経営」だ。この7月に沼津市の高台に新本社工場「愛鷹本社工場」を完工、9月から本格稼働する。「移転も、今回で7回目になりますね」

それに伴うわずらわしさもどこ吹く風で、動くこと、変化することをまるで楽しんでいるかのような話しっぷりだ。現在フル稼働している歯車と容器生産が受注に間に合わず、工場が手狭になり、事業拡大のため11億円の投資で工場移転・拡張に踏み切ったのである。周囲の関係者からは、この時期にそんな巨額投資をして大丈夫かと、いぶかしがる向きもあったそうだが、相吉社長は平然と、自信ありげにこう言い切る。「守りの経営では、ダメなんですよ」

 

変革を求めるという経営姿勢通り、顧客からの未経験のニーズがあるたびに、少しもひるむことなく、その都度最新鋭の機械設備を導入し、社長社員が一丸となって新製品・新技術開発に取り組んできた。それこそ試行錯誤の連続であった。そうして歯車の超高精度要求、CDプレーヤーの部品やトナー容器の新受注、室内アンテナから車載用アンテナの新受注など、次々と成功させてきたのである。生産増大に合わせて工場拡大、移転を繰り返すという、文字通り、チャレンジ、またチャレンジと、「永久変革」の道のりであった。

 

今回の新本社・工場移転のための巨額投資は、単なる既存の製品生産の事業拡大だけが念頭にあるわけではない。相吉社長には、「勝算ありき」のもう一つのチャレンジ、夢と目標が胸に秘められているのだ。すでに2006年に大学や研究所で使われる酵母や大腸菌といった生物試料用運搬・保存シート「NIGカード」を開発し、医療関連分野への進出を果たしている。高い技術を要する最新製品の開発のため6000万円を投入し完成させたのだ。もともと相吉社長は「他社にはできない製品をつくらなければ生き残れない」というモノづくり経営哲学を持っていた。医療機器分野という未知の新しい世界でも「製品開発には自信がある」と、持ち前のチャレンジ精神は旺盛である。

 

 

最後に、第3のキーワードは「国内モノづくりへのこだわり」である。70年代以降、日本の製造業は、人件費高騰、環境問題などから海外進出がブームとなった。モノづくり中小企業も大企業につられて中国などアジアにこぞって進出したが、その多くが苦杯を喫した。相吉社長はそうした時代動向を苦々しく見つめていた。流行を追うかのごとく海外進出することなど、まるで眼中になかった。

 

「日本の経済は、海外から資源を持ってきてそれを加工して生きていくのが本来の姿。製造業は国内でやるべきで、日本人の誇りからもわが社は海外に出ませんでした」

 

取引銀行や取引先からも海外進出を勧められたが、頑として受け入れなかった。幾多の紆余曲折を経ながらも、国内でのモノづくりにこだわるという経営方針を貫いたのは、取引先リコーの社訓「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す(三愛精神)」を座右の銘としてきたからだ。世界を相手に仕事をする必要性は重視しているが、日本人としての誇りを国内に求めようとする相吉社長のほとばしる愛国心は周囲の人々の胸を熱くさせる。

「今になってみれば、結局、それが正解でした。賃金が安いという理由だけで海外進出した中小企業はほとんど失敗している。私は、中国などアジア各地を回ってみて、文化の違い、社会インフラの未整備など、海外展開は難しいと直感的に悟りました」

 

狭くなった国内市場だけに、さらなる高品質製品・高技術に磨きをかけてきた。人材を大切にし、競争力と効率性を追求して成功したモノづくり企業、静宏産業。会社を愛する、社員を愛するのと同じ線上で国を愛する経営者、相吉三宏社長の面目躍如たるものがあると言えよう。

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●プロフィール/あいよし・みつひろ氏…1941年9月山梨県生まれ。ネジの商社に5年間勤めた後、沼津市にて農業用部品の製造、販売を手がける静宏産業株式会社を興す。1984年、プラスチック製品の製造を開始、株式会社リコーと取引開始。2005年精密プラスチック歯車の製造を開始。2007年、第19回中小企業優秀技術新製品賞、技術製品部門優秀賞受賞。創業以来35年、代表取締役社長。

 

●静宏産業株式会社

〈本社〉 〒410-0874 静岡県沼津市松長332-1

TEL 055-966-9000

http://www.shizukoh.com

〈大諏訪工場〉

〒410-0873 静岡県沼津市大諏訪488

TEL 055-925-1234

〈新社屋〉〒410-0001静岡県沼津市足高129-1

 

2014年8月号の記事より
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