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株式会社ジェー.ピー.イー ‐ 成功の秘訣は「価値経営」にあり!

◆取材:姜英之 / 文:小川心一

 

株式会社ジェー・ピー・イー 工藤武和氏株式会社ジェー.ピー.イー/代表取締役    工藤武和氏(くどう・たけかず)氏…昭和25年、長野県上田市生まれ。明治大学工学部機械科を卒業後、エムケー精工、ミマキエンジニアリング等の会社で、品質管理や財務管理をはじめ、設計、開発から販売まで、トータルなプランニングやマネジメントを学ぶ。昭和63年にジェー.ピー.イーを設立、代表取締役として現在に至る。

利益を分かち合うことこそ、仕事の深い歓びである。

長野県上田市。別所温泉からほど近い豊かな自然環境の中に位置するジェー.ピー.イーは、企業が生み出す商品の品質向上、生産力アップなどに寄与する専用機の受注生産メーカーだ。同社がめざすのは、顧客にとって信頼できる外部の生産技術・品質管理スタッフたり得ること。これまで数々の危機を乗り越え、「利益はトントンでいい」と、「価値経営」を信条とする工藤武和社長に話をうかがった。

前職の経験をフルに生かし、開発から生産、品質管理、すべてを掌握

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写真左:アンズ種抜き機 右:ぶどう種抜き機

 

風貌と言動の心地よいギャップ。時折、そんな印象を抱かせる人物がいる。ジェー・ピー・イーの工藤武和社長はまさにそんなタイプだ。学生を前にした大学教授のような、あるいはテレビ番組の論説委員風の佇まいながらも、口を開けば侠気にあふれた熱い言葉が飛び出してくる。

 

「研究者っぽいですか? 私は自分で会社を興す前、エムケー精工でずいぶん学ばせてもらいましたが、入社して最初に配属される前、研究所と品質管理はイヤだと言ったんです(笑い)。ところが意に反して品質管理に回された。結果的にこれが幸いしました。開発から生産、販売へと進んで行く過程において、メーカーにとって品質管理がいかに大切か、叩き込まれました」

ジェー・ピー・イーは、様々な業態の専用機や省力機械、治工具を手がける受注生産メーカー。企業が現状生産品の品質を向上させたい、一定時間内の生産量をアップさせたい、いわゆる「3K」と呼ばれる作業を機械化して職場環境を改善したい、等々のニーズを持った場合、その企業に最適のシステムプランを提案する会社だ。メーカーといえど、単に作って売るだけではなく、その機械の導入によって、企業の安定化や効率化、省人化、環境美化などがどのように実現されるのかを一緒に考えるプロデューサーであり、かつ、コンサルタントの役割も担っている。

 

「私は37歳の時にこの会社を立ち上げたのですが、それまでに勤務したエムケー精工、次に勤めたミマキエンジニアリングなどで仕事のやり方を覚えました。エムケーは当時、組合がなく、代わりに親睦会という組織があったんですが、そこで普段はとても口を利けないような会社の幹部と直接話して、経営とはいかなるものかを教えられました。

ミマキは会社が急成長する時期で、どんどん従業員を増やし、機械も買い、工場も建てるという時期に、私は工場生産の立ち上げとコストダウンを立案し、実行しました。30くらい細かい項目を作って、厳しく取り組んでいった。結果、1年後には億単位の純利益が出て、自信が付きました」

 

停滞を嫌う企業は、日々成長し、変化し、その過程にはチャンスとリスクが表裏一体でやってくる。開発から設計、販売にいたる一連の流れを、管理という側面から冷静に見つめる視座を独立前にすでに身につけていたことは工藤社長の大きなアドバンテージの一つだろう。

 

そればかりではない。企業倫理の観点からも、ぜひここに紹介したい若き日のエピソードがある。

「どの会社にいた時かは伏せましょう。OEMの下である製品がようやくできあがって、さあこれから販売という時期の話です。開発部長をはじめ会社の幹部が、独自に販売計画を進めているらしい、ということは何となく感じていたんです。それがある時、OEM先の方から『OEM契約を交わしているにもかかわらず独自に変な動きをしていないか』と問い詰められたんです。

営業モラルとして、あってはならないことだと思いました。そこで私はこう返答しました。『もし本当にそのような事実があれば、ただちに止めさせます。ですからどうか契約を継続してください。

私のような平取締役の言葉では信用いただけないかもしれないので、ここにナイフか包丁を持ってきてください。今から腕を切って、黒い血が出たら私は嘘を吐いています。しかし赤い血だったらどうか信じてください』。一瞬、シーンとなりましたが、やがて『工藤さんを信じよう』と言ってくれました。我ながら実にバカなことをしたと思いますが、私はそういうこともやりかねない人間です」

 

実に正直な打ち明け話である。この話を伺っている時、そこに武勇伝的なトーンはまったくなかった。実際、声を大にして賞賛すべき事例とは言えないだろうし、そのことは工藤社長自身が一番よく理解している。しかしながらここには、傾聴に値するモラルがあるのではないだろうか。

 

 

出会いを大切にする姿勢が会社の大きな危機を救ってきた

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工藤社長は昭和25年生まれ。団塊の世代のすぐ後の年代にあたる。旺盛な独立心は、大学時代にすでに芽生えていたようだ。

「大学は明治大学の工学部に行きましたが、卒業直前にヨーロッパ旅行をしました。ちょうどオイルショックの後で、紙がたいへん不足していて、チリ紙交換のアルバイトをしたらけっこういいお金になったんです。時間があって、若いからエネルギーもある。今のうちに外に出てみないとダメだと感じました」

23日間のこの旅は、一人旅だった。

 

「一人でリュックサックをかついで、あちこち行きました。言葉なんかほとんど話せませんから、だいたい身振り手振りです。私は痛感しました。言葉が通じなくても人間は人間、同じ人間なんだ、と。この認識は今でも私のベースになっていますし、国籍や社会的地位ではなく、1対1の人間同士の出会いを大切にしたいという思いの原点になっています」

 

持って生まれた行動力に訴えたわけではない。それどころか、本来は内向的な性格だったのを、努力して変えたのだ。

「内向的だった、なんて言うと、今では女房まで笑いますがね(笑い)。でも実際、そうだったんですよ。私はそんな自分をどうにか変えたいと願い、予備校時代に、通学する電車の中で、隣に座った人に必ず話しかけることにしたんです。男性でも女性でも、若い人だろうが年配の方だろうが、どんな人でも隣に来たら絶対に話しかける。それを1年間続けました。さすがにこれでだいぶ鍛えられたと思います」

出会いを尊重する姿勢は、長じて第一線のビジネスマンになってからも、時には人脈作りに、時には営業に、大いに力を発揮することになる。会社が苦境に陥った時、手を差し伸べてくれたのも、単なる利害関係を超えた所にいる人々だった。

 

「会社を作って、売り上げが8千万くらいの頃の話です。ある時、4千万の不良債権をつかまされました。誰にも借金を言い出せない状況でどうにも困っていたら、気配で察したのか、ある信用金庫の支店長が『そろそろお金が入用の頃じゃないでしょうか?』と電話してくれました。あの時は心底うれしかったですね。また、私は手形を出さない主義ですが、ある時、債権を切るためにどうしても保証手形が必要になって、その時は友人が出してくれました」

最大のピンチの時に手を差し伸べてくれる人間関係があるかどうか。これは一個の人間として、また中小零細企業の経営者として、常に念頭に置いておくべき課題だろう。

 

 

先に金を見るな、人を創れ 利益は後からついてくる

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昭和63年創業のジェー・ピー・イーは、現在26期目に入っている。中小零細企業がサバイバルしていくことの苦労を、工藤社長は骨身に染みて熟知している。それはお金に関してばかりでなく、人に関しても、経営に関しても然りだ。

 

「一人前の職人を育てるのも、金銭に限らず経営感覚を身につけるのも、15年はかかると見ています。特に人材育成は中小企業には非常に困難です。それでも従業員一人ひとりができることをやっていくしかありません。私は経営が苦しい時、朝の朝礼でそのことを隠さず、全部話して共有するようにしていました。リーマンショック後の不況で本当に苦しい時は、『さあ、ウチの会社はこれからますます仕事がなくなる。しかし今はまだこれだけのお金がある。これからは小集団を作って、今までやったことがないテーマに取り組んでみようじゃないか。仕事がなければ仕事を作るんだ』と呼びかけました。

この時は本当に社員に苦労を強いたが、この2、3年で業績を回復し、社員にそれ以上のお返しができたと安堵しています。今は、社員と一体となって同じベクトルに向かい進んでいることに歓びと力を得ています」

 

社員は現在およそ30名あまり。苦労を共にした仲間だから、軽々に海外に出て行くような真似はしない。

「営業はかけても、生産拠点を海外に移すようなことはありません。そもそも、特に目標もなく海外に出て行く日本企業が多すぎました。日本経済がこれだけ大変なのだから、さてどうやって巻き返しを図ろうか、ということを考えなければいけない時に、外に出ている場合ではないですね」

自社の利益の追求だけが目的であれば、「海外にでも行ってみるか」と、軽くトレンドに乗ってみせる経営者もいるだろう。それは工藤社長とは真逆の姿勢である。

 

「よくまあそんなことを、と思う方もいるでしょうが、弊社は利益をお客様と分かち合うことを価値としている会社です。弊社の機械を導入した結果、品質が良くなった、生産効率が良くなった、利益が出るようになったと、そういう声が届けられることがいちばんうれしいですね。もちろん、食べていかなければなりませんが、私は利益というものはトントンで良いと思っています。

これは、ずっとプラスマイナスゼロで良いという意味ではありません。目先の利益を追求することに重点を置くのではなく、同じ目標を持って向かっていけば、一時的には損を出しても次には利益が出てくるということなんです。人より多く儲けることよりも、共に歓びを分かち合えるパートナーにめぐり合う人生のほうが、数倍上等ではないでしょうか」

疲弊した経営者なら、あるいはリアリストを自認する経営者なら、「きれい事だ」と一蹴するかもしれない。しかし工藤社長は、それを26年も続けてきたのだ。

信念に基づく「きれい」事は、文字通り、美しい。

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真空アニール装置
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写真左:研削盤ローディング装置  右:事務用機械自動組立機

 

 

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●株式会社ジェー.ピー.イー

〒386-1212 長野県上田市富士山字鴻ノ巣2329-1

℡ 0268-38-3801

http://www.jpe2000.co.jp/profile.htm/

 

2014年6月号の記事より

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