オビ 企業物語1 (2)

株式会社ひまわり ‐ 図らずも入った介護の世界で、悪しき慣習を打ち破り急成長!

◆取材:綿抜幹夫

 

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株式会社ひまわり/代表取締役 伊藤みよ子氏

 

少子高齢化が叫ばれて久しい。総人口が減少に転じる中、お年寄りがますます増加することにより高齢化率は急上昇、今年それは25・1%となった。今後もこの割合は増え続け、50年後には40%に達すると推定されている。この高齢化に伴ってクローズアップされるのが介護の問題だ。山形県鶴岡市で、介護事業に真摯に取り組む株式会社ひまわりを訪ね、社長・伊藤みよ子氏に介護に注ぐ熱き思いをお聞きした。

成り行き社長誕生す!

そこはまるでホテルのような空間。お訪ねした有料老人ホーム『アメニティハウスひまわり』は明るく開放的だ。何よりケアの必要なお年寄りがいらっしゃるにもかかわらず、いやなにおいが一切ない。施設の行き届いたサービスを物語っている。

08B_Himawari02右上/自立・要支援の方々が利用できるサロン風デイサービス(定員10名)・左上/有料老人ホーム「エタニティハウス」内観下/和モダンをイメージしたデイサービス「いいずん」。全館畳敷になっている・左/有料老人ホーム「アメニティハウス」外観(定員21名)

この施設を運営する株式会社ひまわり社長・伊藤みよ子氏は言う。

「何か香りを使ってにおいをごまかしたりはしません。ちゃんと元を断っているんですよ」

これこそが、介護を事業とするこの会社の、そして社長の矜持なのだろう。今ではここ鶴岡の地で、介護と言えば『ひまわり』と誰もが知る存在となった会社だが、伊藤氏の社長就任は天から降ってきたようなものだったという。

 

「鶴岡にまだなかった訪問入浴の会社を作ろうと、有志が集まってできたのがこの『ひまわり』です。夫がその出資者の一人でした。やっぱりこの仕事には女手が重要ということで、女性がトップの方がいいだろうという話になったのですが、引き受け手がいませんでした。夫は出資するにあたって、私の名前で出資していて、いよいよ成り手のいない社長に私がなってくれと話がありました。私は半ば冗談だろうと取り合いませんでしたが(笑い)。ですが、せっかく立ち上げた会社ですから誰かがやらないといけませんしね。特に志があったわけでもないし、やる気満々というわけでもなかったんですがお引き受けしました」

この業界の右も左もわからぬままに、主婦社長は誕生した。

 

 

業界の悪しき慣習に立ち向かう!

何も知らずに飛び込んだ介護の世界。そこには問題が山積していた。

 

「最初は高齢者アパートから委託を受けて、何の知識もないままに仕事を始めました。研修を受け、いざ自分で始めてみると、そこはおかしなことだらけでした。例えば言葉遣い。それはもう上から目線の乱暴なものでした。この仕事はビジネスとして確立する前、行政からのサービスだったので、〝してやっている〟感がとても強かったからでしょう。ですが、介護がビジネスとなると、介護を受ける側がお金を払ってサービスを受けるいわばお客様なわけです。ところが、昔からこの仕事をされているところは、してやっているという習慣が抜けていないので、とても横柄だったのです」

 

伊藤社長は、この仕事が福祉サービス業である限り、一般の接客業同様、ていねいな言葉で話さないといけないと感じたという。

「もう一つ代表的な例は、着るものです。昔はジャージでした。これはおかしいと感じました。有料老人ホームと言えども、そこは他人のお宅と同じ。他所様を訪問するのであれば、それにふさわしい服装があるのではないか。確かにヘルパーさんは作業をするのだから、動き易い服装が求められますが、ジャージはあくまで運動をするための服という思いがありました」

 

『ひまわり』では、時間はかかったそうだが、服装も改めた。何ならネクタイをしていくくらいの心遣いが、この仕事には重要だと伊藤社長は考えている。手探りで始めた仕事なのだから、業界の慣習に従う方が楽だっただろう。それが前例なのだから非難されることもない。だが、おかしいと思ったことを放置したままにできないのが伊藤社長の性分なのだ。

 

「まず意識改革が重要でした。福祉は〝してやっている〟ものから、〝させていただく〟ものと考えを改めないといけなかった。実際にやるべき作業は、経験すれば誰でも覚えられるものですが、人様に接しているんだという気持ちをちゃんと持つことの重要性をスタッフ全員に認識させることが思いのほか大変でした」

伊藤社長にとって、成り行きで始めた介護の仕事であったが、きっとこれが天職だったのだろう。好きだからこそおかしいと感じ、改善に情熱を注げたに違いない。人に喜んでいただくこと、ありがとうと言ってもらえることが仕事を続けるエネルギーとなっていった。

 

 

マネをしないことこそ発展の礎!

そうやって改善を重ねながら、『ひまわり』は大きく成長していった。だが、その過程でどこかを範とすることはなかったという。

 

「全国に、もちろん山形にも多くの同業者がいて、大きなところ、成功しているところがたくさんあるでしょう。しかし、『ひまわり』はそういうところを一切参考にはしません。会社の大小や儲けの有無は問題ではないんです。大切なのは、顧客の笑顔であり、そのために何をするかの答えは、現場にしかないと思っているからです」

そして得た一つの答え、それはこの仕事の本質的な部分にあった。

 

「突き詰めると、この仕事は人対人ですから、結局〝人間力〟がものを言うんです。ですから我が社最大の自慢はスタッフの質なんですよ。もちろん、他所の施設にも優秀なスタッフはたくさんいらっしゃるでしょう。ですが、我が社ではその質を均一化できていると自負しています。どのスタッフが担当しても、同一レベルのサービスが受けられる。あたりはずれは顧客の不満につながりますからね。そもそも、介護が必要な人たちを顧客として認識しているかどうか。そのへんの意識からして、我が社は徹底しています」

ちなみに、伊藤社長はこの『ひまわり』の最年長。その意味で、最も顧客に近い立場にいる。

「私自身がされたらいやなことを、この会社では絶対にしない。これが最大の行動規範かもしれませんね」

 

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(上から)

・朝のはじまりはいつもモーニングコーヒーから

・グループホームの皆さんで海岸へドライブ

・余暇活動はなるべく外出を多めに

 
 

何よりも大切な人作り!

この手の施設を見る時、我々はつい外観のきれいさや、設備の豪華さに目を奪われがちだ。

しかし、そういったハード面よりもっと大切なのはソフト面、つまりサービスの内容や質ではないだろうか。

 

「もちろん会社のグレードは大切です。それが信用につながりますからね。ですがそれは施設が豪奢であるということではありません。質の高いサービス、スタッフを如何に揃えられるか。ですからそのための社員教育には特に力を入れています」

では、最重要であろうスタッフ育成には、どんな姿勢で臨んだのだろう。

 

「設立当初は急拡大していったもので、私が未熟だったため、正直スタッフのことまで気が回りませんでした。しかしある時、まずスタッフを幸せにしないと、その先の顧客も幸せにならないと気付いたんです。何と言っても我が社の〝売り〟は人間。スタッフですから。だから、社員のことを第一に考えなければその先の顧客満足につながらないと考えたわけです。スタッフには各種の研修に随時参加させています。実務の研修はもちろんですが、人間形成の研修にも積極的に参加させています」

そうやって磨き上げられたスタッフに求めるもの、それはごく簡単に見えるが、とても大事なことだ。

 

「現場で特に重視するのは挨拶です。挨拶のできないスタッフが一人でもいると、それが会社全体の印象になりかねないですからね。また、常に清潔を心がけています。仕事の中身は、経験を積めば誰でもできることですから。肝心なのは心がけなんです」

そして、何より大切なのは仕事を楽しむことだ。

 

「この仕事に誇りを持って、入居者様や介護を必要とするお客様と一緒に楽しむことができないと、やはり相手には感動が伝わりません。例えば、日々の余暇活動や様々な行事など、お年寄りにやらせておけばいいというのではなく、スタッフも一緒になって楽しむことが大切なんです」

そう、大事なのはテクニックではない。ハートというわけだ。

今日もひまわりのような伊藤社長の下、利用者もスタッフも明るい笑顔を見せているに違いない。

いやぁ、鶴岡のお年寄りがうらやましい……。

 

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●プロフィール
伊藤みよ子(いとう・みよこ)氏…昭和25年山形県鶴岡市生まれ。平成8年有限会社在宅福祉サービスひまわり(現株式会社ひまわり)設立、同社代表取締役就任。平成23年、株式会社ひまわりに社名変更

 

株式会社ひまわり

〒997-0834山形県鶴岡市稲生1-3-5

℡ 0235-25-5145

http://www.himawari-s.co.jp

 ◇この記事はBigLife21 2013年11月号で掲載しています◇