成長するベンチャー企業がIPOを考えた時、労務、株式事務、ガバナンス、財務や資本政策、事業推進といった幅広い業務への対応が必要となる。この時に課題となるのが、自社のリソースでどれだけ実行可能か?である。

今回、フリーランスの力を活用して上場前後の企業を支援した実績を持つプラットフォーマーや、エージェント各社が登壇し、成長企業の上場前後の課題をいかにしてフリーランスに依頼し、解決をしたのか具体例を紹介した。

 

(本稿は、4月23日に実施された、「IPO2.0 ~上場前後の多様な課題を解決するフリーランス活用レシピ、教えます~」セミナーをもとに編集したものです。)

 

みらいワークス 石井氏 

石井(ファシリテーター):今回は、IPO前後において、実際に企業様においてフリーランスの方にご活躍いただくことで課題解決を実現している事例を中心に、フリーランスとの協業の在り方について議論を深めていきたいと思います。まず、島崎さん、蟻川さんより事業の紹介をお願いします。

 

 

エッセンス 島崎氏 

島崎:エッセンスは2009年設立で、今期11期目です。事業の目的としては、「新しい仕事文化をつくる、企業と個人の新しい関係性を実現する」ことを目指しています。今回はプロフェッショナルによる経営支援サービスである、プロパートナーズ事業を中心にご紹介します。他にも、リクルート事業として、ヘッドハンティング、人材紹介などを展開しています。また、「他社留学」といって大企業の幹部候補生の方に、スタートアップ企業に入っていただき、修羅場を体験したりしながら、経営者のマインドセットを修得していただくといったことも行っています。

 

プロパートナーズ事業は法人のお客様の課題を聞いて、課題解決ができるプロフェッショナルをマッチングさせるものです。登録者は厳選した1,300名の方が登録しています。8割が独立したフリーランサー、元上場企業のマネージャークラス以上、ベンチャーであればCTO、CIO、COOといった役職の経験者です。最近の働き方改革のトレンドとして副業で登録する方も増えてきました。上場メガベンチャーの現役の方々もいて、平日夜や土日を活用し、他の企業の会議に参加するなどの活躍をされています。業務領域は営業、組織構築、ファイナンス、広報、採用、マーケティング、新規事業、など幅広い分野の人材を紹介しています。

 

 

Waris 蟻川氏

蟻川: Waris は2013年に創業し、女性代表が3名、それぞれ東京、福岡、ベトナムに在中する体制でリモート共同経営を行っています。今回の話題の中心は、「Warisプロフェッショナル」です。当社のプロフェッショナル人材事業では、ビジネス系業務の課題を解決する方々で、女性を中心にフリーランスの方8,000名が在籍していて、企業とのマッチングをメインに事業を行っています。

 

登録者の経験としては、企業の実務リーダー、マネージャークラスが多く、週2、3日稼働し、費用としては月額30~50万円を頂いている場合が多いです。今まで6年間の中で、1,600社のクライアント企業を支援させていただき、ノウハウを蓄積してきました。

 

登録者の詳細プロフィールは総合職10~15年、30~40歳の女性が中心で、業務はマーケティング、人事、広報、営業、財務です。顧客企業は、7、8が割ベンチャー企業となっています。

 

 

上場準備期のフリーランスの活用

IPOの準備期、教育人事労務課題への対応

 

石井:上場準備期でクライアント企業様がフリーランスの方々に支援いただくケースとしてはどのようなものがあるのか教えてください。

 

島崎:当社のクライアントでいうと、準備期間は労務・株式事務・ガバナンス分野では、いちばん多いのが人事労務関係になります。ベンチャー企業の場合は、成長することに注力していて振り返ってみると内部体制が何もできてないといったことが少なからずあります。しかし、上場準備期のショートレビューでは、突っ込まれても大丈夫なようにしておく必要があるのです。

 

こういった場合、多くの業態に精通していて人事労務などの制度設計をされていた方が最適です。成長のために無理が必要なことが十分わかっていて、かつ、ここは最低やっておかないといけないことを線引きし整理し、システムに落としていき、かつ運用の部分までアドバイザーとして支援いただける方ですね。

 

このとき、世の中にはある工程だけのパッケージをつくるという商品や、コンサルなどもありますが、一気通貫でできるようにするのが難しいのです。しかし、こういった経験豊富なフリーランスを活用すれば上手くできます。

 

また、事業推進でいうと、こんなケースがありました。ビジネスモデルについて、SES(システムエンジニアリングサービス)だけで上場すると一本足になるリスクがあるので、早い間に新規事業を立ち上げ、上場までもっていきたいという企業様。その時、ご紹介したのが外資系消費財大手の会社でマーケティングを担当し、かつ、独立後にIT会社を複数創業した経験のある方でした。その方は、レッドオーシャンの中でも、差別化要因をどう作って、どう言語化してマーケティングするかに精通しています。競合ひしめく中にも、このセグメントなら攻めていけるのではと、目星をつけて、マーケティングプランに乗せていける力のある方ということでご紹介し、新規事業がスムーズに立ち上がりました。

 

このように今のビジネスだけでは足りない、新規事業を考える必要があるといったとき、自社の得意、不得意を把握した上で、経営者としては、今わき目もふらずここだけ見ていたいという部分に特化していただき、その抜け漏れを外部人材で埋めていくことが可能になります。

 

蟻川:準備期間中は、将来的にしっかりした組織をつくる制度設計の段階で支援することが多いです。このためベーシックなものが中心となります。上場審査に耐えうるよう基本的な人事労務制度をきれいにしておきたいということはよくある活用の仕方です。

 

例えば、組織が急激に大きくなっている場合、エンジニア、セールス・マーケティングといった職種間の風土が異なることでチーム間に溝ができてしまうような場合があります。

こういったケースでのプロ人材活用としては、例えば事業会社の人事制度構築を3社ほど経験し、ベンチャー企業に起こりがちな出来事もよく知っている方が、全社にヒアリングして現状を把握し、納得感のある人事評価制度を1年間かけて作っていただいたということがありました。

 

みらいワークス岡本氏 

岡本:準備フェーズでは人材教育の支援は結構やっていますね。IPOを目指すカリスマ社長によくあるのは、部長クラスが4、5人いるものの、経営者との意識にギャップがある場合です。トップが先に行きすぎ、部長がついて行けない。トップが引っ張るカリスマ性の高い経営者の場合は特にそうです。

 

こういった場合、ワークショップを3か月やって、目指すビジョン、事業の方向性を、共通言語で形にしていくことで、階層間のギャップを無くし、組織の一体感を醸成するといったことをやります。お願いするのは、例えば、世界を代表するシューズメーカーの日本法人の代表をやっていた方などです。

 

このタイプのワークショップをやる場合は、自身が企業を経営していて経営がわかっていることが重要です。この時はワークショップに入る前に、ミッションやアウトプットを決めずに走り出し、積み上げる形で策定をするという方法をとりました。

 

また、当社で「フィンテックコンサルタント.jp」というサービスもやっています。フィンテックで特殊なのは、サービスインするのに金融庁にOKを出してもらう必要があるというもの。事前に金融庁に相談しながら進めていくときに、金融庁とのやり取りが結構大変になります。なぜなら、霞が関の論理や、時間軸があって、なかなかベンチャーにはわかりにくいところがあるからです。実際のビジネスのローンチには、金融庁にいた方あるいは、金融庁に対してビジネスをした経験のある方にお願いしたほうが速いのです。

 

課題への対応方法

 

石井:実際に企業の課題はさまざまで、特殊な課題の場合、この課題にあった人がいるかというと、そんな人いないよということが実際には多いと思いますが、ピンポイントで課題に合った方がどれくらいアサインできるのでしょうか?

 

島崎:人事労務だったらこの方、ガバナンス監査だったらこの方、会社が実現したい特定の○○が課題だとこの方と言ったように選んでいきます。しかし、実際にはそれ以前に、本当にそのレベルで上場するのか?といった疑問が湧く企業様も若干あります。これに対しては、ビジネスモデルを抜本的に改善するところまで、踏み込む場合もあります。

 

石井:1人で課題のすべてに対応できないから、2人で対応するといったこともあるのでしょうか?

 

島崎:我々の場合、この課題に対して対応できる人が欲しいといったとき、例えばフリーランスは3人いて、この課題に対してできる課題解決は3パターンあるといったような提案になります。まず、会ったうえで3つのスキームのうちどれがいいかイメージを持ちませんか?といったような提示の仕方になります。

 

蟻川:IPOに向けて事業・組織の形を固めていく中で、フェーズによって課題感も変わります。よって、1人がずっと担当するということではなく、フェーズ1、2、3ごとにゴールを設定し、その時々で適切な人材に依頼するということもありますね。

 

石井:活用のポイントとして、依頼企業側が、こんな人が欲しいと限定的に選ぶよりも、我々のようなプラットフォーマーがお手伝いして、課題を掘り下げ、必要な人材像を明らかにし、提案していくというアプローチになりそうですね。

 

次に、直前期では実際どのような局面で活用が考えられますか?

 

 

直前期のフリーランス活用

システム顧問、採用課題への対応

 

島崎:直前期になっていきなりセンシティブな領域には触れられないので、その前の準備から入ったうえで、ガバナンス、財務を手伝い、伴走しつづける。そしてそのまま、上場後に社外監査役、社外取締役にスライドといったこともあります。

 

例えば、ある人材派遣会社の場合です。このときのニーズは、派遣ビジネスは労働集約型に見えるので、テクノロジー起点での変革をしていきたい。また、テクノロジーで働きやすさを創造していくといった姿を世の中に見せたい、というものでした。よって、プロフェッショナルの方にシステム監査だけでなく、システム全般についてのアドバイスもしてほしいという要望がありました。このケースではまず、業務委託で入っていただき、一定の期間を経て、社外監査役にスライドという形になりました。

 

また、直前期は採用課題が結構出てきます。成長のために人をどんどん増やして行く必要がある。よって、採用のプロが必要となります。売り上げが数値目標に対して足りない、そこで人が欲しい。従来のやり方では間に合わないので、採用媒体、エージェントを併用して採用マネジメントをしていくといった活動が求められます。

 

また、開発にも体制や人員の影響がでます。人がいないと開発スピードが遅れる、これが売り上げに響いてしまう。そこで、開発のどの部分の優先順位を上げて開発し、営業とどう連携をとっていくか?ブリッジ役として、経営に対してレポーティングしながら、開発の順番を決めていけるプロ人材が必要となります。

 

蟻川:やはり採用の話ですが、ある企業は直前期で、年間の採用目標50名を達成する必要がありました。そこで、人材要件の策定から採用戦略立案、実行部分までもリードできる人事マネージャークラスの経験者を紹介しました。その方は、エンジニア、デザイナーと幅広い採用を経験し、全方位的な採用をしたことがある方です。

 

彼女には、お子さんがいてもともと週4日程度の稼働を希望されていましたが、上場が近づくにつれ稼働も大幅に増やし、最終的にはミッションを達成して契約を終了されました。本人としても50名採用の目標を達成したことは、フリーランスとしての大きな実績になります。上場準備に関与するとフリーランスの方にとっても、有意義なキャリア実績を積むことにつながります。

 

岡本:私からは、事業推進上の課題について言及します。ベンチャー企業が拡大していくには、中小企業向けから、エンタープライズ向け、あるいは大企業向けにプロダクトを進化させていく必要が生じてきます。その時、大企業にコンサル営業を行い、顧客課題にミートした提案が必要で、課長、部長、役員と段階を上げて攻めていくアプローチが必要です。しかし、こうった経験者はベンチャー企業にはほぼいません。大企業にコンサル営業ができる人を外部にお願いし、売り上げを立てながら、社内教育をしてもらい、同時に採用を進め、新メンバーに引き継いでもらうといった形がよいかと思います。

 

エンタープライズ向けではシステムも大きく変化します。例えば、あるポイントシステムの開発・運営会社があり、小売、サービスの事業者がポイントサービスを行う際にポイントを発行、管理していました。ところがクレジット業界では、2014年頃VISAやJCBがプリペイドカードの事業を始め、クレジットカードのネットワークを使って、ポイントも貯められ決済もできるプリペイドカードの裏側のシステムが必要だということになった。

 

しかし、その会社のポイントシステムはもともとクローズドで、テクノロジストのCTOが設計書もなく作っていた。ところが今回金融系のシステムに対応し、カード会社の決済ネットワークに接続する必要がある。システムの精度が求められ、独特のプロトコルもあります。まさに、次元が変わる。しかし、すでに本件を受注してしまっていました。そこで、金融システムを作ったことがある人を急きょアサインしました。

 

何とか、品質の担保ができるプログラムを作り、デリバリーまで持って行き無事システム導入に間に合いました。このように違う次元の物事に対応せざるを得ないとき、現組織の能力や、カルチャーは簡単に変えられません。そういった状況に際し、目の前にある仕事をこなしながらフリーランスを上手く使っている会社が伸びていると言えます。

 

 

IPO後のフリーランス活用場面について

新規事業、M&A課題、広報への対応

 

石井:次にIPO後では、どのような課題が出てきますか?

 

岡本:当社は、新規事業が多いですね。しかし、ベンチャー企業だと経験者がなかなか企業内にいない。ゼロからできる人材もいない。また、新規事業にはM&Aも絡んできます。案件をソーシングし、デューデリジェンス、買収するだけでなく、PMI(ポスト・マージャ―・インテグレーション)のマネジメントも必要となります。

 

特にM&Aはプロフェッショナル度の高い人材が必要で、デューデリジェンスが中途半端だと、高掴みしたり、買収した後組織が融合されないといったことも起こる。PMIは複数企業のカルチャーを経験した方のほうが当然上手く行きます。そういった方に、アドバイザリーとして入ってもらう。そして、のちにM&A実行部隊として正社員で入社いただくこともあるかと思います。

 

島崎:M&Aの場合は、同じような事業推進をやったことがある経験が必要です。デューデリジェンスやM&A実務ができるだけではなく、実際に経営経験があることが重要ですね。M&Aを何度もするような事業会社に所属し、ビジネスモデルにどう付加価値をつけていくかの視点でM&Aし、それを統合して、既存事業にドライブをかけることができるといった観点から、この技術を買ったほうがいい、といったようにアドバイスできる方。単純にテクニカルな面だけでなく、会社としての将来像を見据えたアドバイザリーの視点が必要です。

 

また、既存事業の高度化の面では、マーケティングの中に、カスタマーサクセスの要素を入れたい。さらに、労働集約的業務の生産性を上げるため、いろんなマーケティングオートメーションツールを入れる。リストに対して、システムを入れて営業にトスアップするために、インサイドセールスをどう機能させ実施していくか?社内担当ではやったことがないといった場合、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)に強く、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の要素がわかり、これらを複合的に考えて進めることができる人材を紹介しています。

 

広報、プロモーションアドバイザーとして

 

蟻川:IPO後は、広報、PRの支援が多いです。上場後には広報にもプロフェッショナルが求められます。上場前は、広報担当は若手で何とか回していたとしても、上場を転機に、必要な広報戦略、ブランディングなどの今まで経験のないハイレベルの業務が出てきます。そこで、経験者が先生役、先輩役として、実務をリードしつつ、メディア各社を回ったり、社内コミュニケーションをとるといった形で、教えながら若手に引き継いでいくということが必要となります。

 

また、上場した後に社員の意識の差が発生します。つまり、上場する前からいる古いメンバーと上場後に入ってくる新しいメンバーは意識にかなり違いがあります。どこまでコミットするのかといった面でも差が出てきます。そこで理念を浸透させ組織づくりを行っていく必要があるのです。プロフェッショナルに現場に入ってもらって組織作りをいっしょにやっていく。先生として、伴走しつつサポートしてもらい、組織に内製化していくことが重要です。

 

石井:企業の上場後は新規事業とM&A案件を発表すると直後に市場は反応します。それだけ期待されているということですが、期待に応えられる人材を内部から育成していくことだけだとむずかしいですね。また、採用にも半年かかります。スピード感をもって、株主の期待に応え続けるためには、フリーランスの方々に依頼するのが効果的なことがよくわかりました。また、社員もフリーランスとの協業によって成長していると実感できます。

 

 

 

<プロフィール>

 

岡本 祥治

(株式会社みらいワークス 代表取締役社長)

1976年生まれ。2000年に慶應義塾大学理工学部を卒業後、アクセンチュア株式会社、ベンチャー企業を経て、47都道府県を旅する中で「日本を元気にしたい」という想いが強くなり起業。2012年にみらいワークスを設立後、働き方改革やフリーランス需要の拡大とともに急成長し、2017年12月に東証マザーズへ上場。経済同友会会員、一般社団法人日本スタートアップ支援協会顧問。

 

島崎 由真

(エッセンス株式会社 プロパートナーズ事業部 マネージャー、One HR 共同代表)

1987年広島市生まれ。日本ベンチャー大學卒業後、(株)ザメディアジョン・エデュケーショナルに入社。2015年、エッセンス(株)入社。企業に専門スキルを持ったフリーランス人材をマッチングするエージェントとして活動。大企業内のシニア人材をシェアリングする新規事業の立ち上げも推進中。2017年、HR企業や企業人事を束ねる有志団体「One HR」を設立。

 

蟻川 理香

(株式会社Waris リクルーティングコンサルタントチーム ディレクター)

株式会社リクルート(現リクルートキャリア)にて法人営業、営業企画を経て、2015年株式会社Warisにリクルーティングコンサルタントとして参画。「新しい働き方」をテーマにした法人向けコンサルティング、セミナー企画、新規事業等に従事。経営課題・人事課題に悩む300社以上の企業へフリーランス人材の活用を提案。国家資格キャリアコンサルタント。

 

主催:一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会