インコム・ジャパン株式会社 – レジを通して初めて価値が生まれる新システムを開発日本に相応しいキャッシュレス社会を目指す POSAカード
先に金額を支払うプリペイドカードの利用率が今、空前の高まりを見せている。それはカードに金券としての価値を付与せず、レジを通して初めて価値が生まれるという新しいシステムが開発されたからだ。
今回はその新しいシステム「POSAカード」を日本に導入したインコム・ジャパン株式会社の荒井琢麿氏に話を伺った。
キャッシュレスの潮流に出遅れている日本
インコム・ジャパン株式会社は世界最大のプリペイドカードの流通業者InCommの日本法人だ。
近年、日本ではプリペイドカードの売上が急上昇している。コンビニに入れば、一番目に付くところに並べられているのはiTunesやGoogle Play、Amazonや各モバイルゲームのプリペイドカードだ。
スマートフォンの普及に伴い、近年プリペイドカード決済市場は急速に伸びており、2015年、2016年と共に15%以上の上昇、現在8・7兆円規模とも言われる。今後もその成長は続き、2021年には13兆円規模にまで達するとも予想されている。
「プリペイドカードやデビッドカード、そしてクレジットカードを含めた電子決済市場は今後も伸びていくと予想されています。中国の現状を例に挙げるまでもなく、世界はキャッシュレスの方向に進んでいますから」
そう話すのはインコム・ジャパン株式会社の荒井琢麿バイスプレジデント、代表取締役社長。2008年の日本法人スタートから、一貫して陣頭で指揮を執っている。
「日本は未だに現金決済の国。それは日本が安全で、ポケットに何万円入れていても強盗やスリに遭うことは少ない国だからです。治安の悪い国とはそれが大きく違う」
海外で買い物をする際、高額紙幣を出すと受け取りを拒否されたり、ニセ札かどうかをチェックされた、という話はよく聞く。だがそれは、日本では紙幣が信頼の置けるものだという証なのだ。
「近年、中国ではAlipayやWeChat Payなどが普及し、キャッシュレス化が進んでいるというニュースを聞かれたこともあると思います。都市部では完全に現金を使用していないところもあるくらいです。ですがあれは利便性と同時に、中国政府が現金の流れを把握できる、という意図も含まれていると思います。QRコードを使った電子決済によって、経済の流れを透明化することができるのです」(荒井社長)
他にも、アメリカは今でも小切手を多用しているが、あれも現金への不信感から生まれている、と荒井社長は話す。このように各国は各々の思惑でキャッシュレス化を進めているのだが、日本では現金への信頼が高いがゆえにそれが立ち遅れたとも話す。
「日本政府はこの遅れを挽回し、電子決済の利用を現在20%ほどからその倍、40%程にまで拡大したいと考えています。2020年の東京オリンピックに向けて外国人観光客が伸びている今、クレジットだけでなく、デビッドやプリペイドなど電子決済できる範囲を拡大することを銀行に働きかけています」
訪日外国人は2014年に1300万人だったが、翌15年には1970万人、16年は2400万人と急激に伸びている。
その外国人が最も不便に感じるのが、日本の現金主義だという。小売店や飲食店で現金以外使用できないことが、今後観光立国化を進める日本を阻害している。
小売店の負担が無くなる!
「きっかけはアメリカでプリペイドカードが並んでいるのを見た時です。先に支払っているので、現金を持ち運びしないで買い物ができる。クレジットカードのように後から請求されることもない」
前職でクレジットカード会社のJCBに勤めていた経験がある荒井社長は、プリペイドカードの有効性を発見した時のことをそう語る。
しかしそんな便利なモノでありながら、プリペイドカードは日本では普及していなかった。その理由は、小売店ではプリペイドカードを扱うリスクが大きすぎるからだった。
「プリペイドは、カードそのものに現金と同じ価値がある。ですから販売する時には盗難の恐れがあるので置く場所に注意しなければならないし、閉店後には金庫に戻すようにしないとならない。それに仕入れの時はプリペイドカードをまず現金で購入する必要がある。カードが売れた時点で利益が生まれるわけですから、カードが在庫のままだったら損失ですし、だからといって仕入れを少なくしていてはお客さんに怒られる。プリペイドは扱いづらかったんです」
その不便さを解決するのが、InCommのPOSA(Point of Sales Activation)というシステムだ。
これは、カードそのものには価値を持たせず、客が指定された金額をレジで支払った段階で初めてチャージされるというシステムだ。これによって小売店は金券としてのカードの保管や盗難防止に苦慮することはなくなり、在庫を抱えることもなくなる。
「仕入れと販売がコンマ何秒で済む。POSAシステムを導入したことで、コンビニエンスストアでの販売が可能になりました。2008年からスーパーや家電量販店で導入が始まり、2010年からは大手コンビニエンスストアで各種カードの販売を始めたのですが、販売前の業者を交えたミーティングでは社員数名だった弊社に担当者が大人数で参加して下さいました。POSAカードは、どのくらい売れるか分からないのに仕入れなければならない、という積年の悩みを解放できるカードなのです」
現在、iTunesカードやGoogle Playに代表されるデジタルコンテンツ、ゲーム、そしてギフトなどの様々なプリペイドカードが、コンビニやスーパー、家電量販店などに並んでいる。GREEやmobage、LINEといったゲーム企業が大成功を収めた裏側には、プリペイドカードの普及を加速させるこのシステムの導入が隠されていたのだ。
もっとニーズに応えられるサービス
大阪に生まれた荒井社長は、大阪大学人間科学部に進んだ。
「実はその頃は記者になりたくて、新聞部で記事を書いていたりしていました。けれども、就職では思っていた業界には行けずJCBに入社したんです」
大阪で3年、東京で5年、その後アメリカで2年間、JCBに勤務した荒井社長に転機が訪れたのは、アメリカで1992年に創設されたInComm社が、日本に進出するにあたってヘッドハンティングされた時だった。
「前述したようにアメリカでプリペイドカードの利便性を知っていたということ、そして何より日本で一人目、最初の社員というのが面白くて入社したんです。2008年のことでした」
以来、プリペイドカードサービスの拡大に尽力してきた荒井社長だが「この業界にはまだまだ手の付けられていない領域が多く、我が社のシステムを活用できるチャンスは眠っている」と話す。
「日本の企業はもっとお客様のニーズに敏感になり、それに応えられるようなモノづくりをしていくべきだと思います。そうすればもっと良いモノを提供することができる。どうしても日本の企業は100%完璧な商品にしてから世に出そうとして、細かいところに試行錯誤してしまっている。もっと大局から考えていかないと、気がついたら周りは遥か先に行ってしまう」
しかしアメリカや中国で盛り上がっているからといって、両手放しで同じシステムを日本に導入すればいいものではない、とも荒井社長は話す。日本人のニーズにしっかり根を張ったサービスを展開していくことがこれからは重要だ、と。
「グローバリゼーションは世界に迎合するだけではない、と思っています。今考えているのは、逆に日本から世界に通用する新しいサービスを自分たちで生み出していくこと。海外で受け入れられる日本発の決済サービスを始める、なんてことができたらいいですね」
プリペイドカードの普及、キャッシュレス化は今後も進んでいくだろう。より便利に、そしてよりお客のニーズに寄り添って、という荒井社長の想いが、商いの仕方を大きく変えようとしている。
〈プロフィール〉
荒井 琢麿(あらい・たくま)…
インコム・ジャパン株式会社 バイスプレジデント 代表取締役社長
1973年、高槻市生まれ。
その後大阪府吹田市、箕輪市で育つ。
大阪大学人間科学部卒業後、株式会社JCBに入社。
10年間の勤務後、2008年よりインコム・ジャパン株式会社の創設に携わる。
〈会社情報〉
インコム・ジャパン株式会社
東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービル41階
TEL:03-6279-4881