オビ 企業物語1 (2)

メディアで事業創出支援を

株式会社メディアインキュベート CEO 浜崎正己氏

 

◇文:菰田将司

オビ ヒューマンドキュメント
「メディアに関するあらゆることをサポートする」株式会社メディアインキュベート浜崎正己CEO。その理念の根本には、現在のメディアが置かれている状況への危機感がある。

 

 

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「メディアインキュベート」イメージ

 

 

 

メディア活用をコンサルティング

メディアの運用や立ち上げの支援、記事の提供やライター・クリエイターの紹介、更にコンサルティングと、メディアに関する多方面のサービス提供を行っているメディアインキュベート。

 

「ネットが普及し、TVCMや広告以外にもCM媒体が増え、多くの企業がメルマガやウェブマガなどに手を出したけれど、今、その勢いが落ちている。

それに、そもそもネットを活用したメディア戦略に出遅れてしまったままの会社もたくさんある」

 

会社のホームページが全く更新されなくなっていたり、リンク切れのまま放置されていたり。

そういう状態のままだと、ネットでなんでも情報収集する最近では、デメリットになってしまう。

 

浜崎さんは、そうしたメディアから依頼を受け、メディアを有効に活用できるよう改善し、今度は会社の強みとして活用できるようにしている。

「メディア活用を最適化する、というのが私の役目です」と、浜崎さんは話す。

 

では、どのようなステップで企業のメディア活用をサポートするのだろう?

 

「まずは、お客様と膝を付き合わせてトコトン話し合う。

お客様の中には、メディア展開を考えているけれども、どう進めていくのか分からない、そもそも何ができるのかも分からない、という段階で逡巡されているところがたくさんある。

だから、本当にメディア化する必要があるのか、そして、必要だとしたら、どういう層にどういった形で訴求をしていくのかを突き詰めて、ターゲットと手段を明確にします」

 

確かに、メディアを活用する、と言われても、具体的にどういうことができるのか、ハッキリとイメージできる人は少ないだろう。

現在はフェイスブックやリスティング広告など、様々な媒体活用の場所がある。

それをどう利用すると最大の効果があるのか、素人が判断することは難しい。

 

「そういう点について、まずお客様とピントを合わせないといけません。何ができて、何ができないのか。それを話し合って、お客様とゴールを共通にする。

そうしないと的確なコンサルティングはできませんから。

何より『相手に損をさせない』ことを第一に考える。

だから『ただ流行っているから手を出してみたい』というお客様に、それだとメリットがないから、コッチを利用しましよう、とアドバイスをすることもある」

 

数多くのメディアから、顧客の要求を叶えるものを選び取る。

そうすれば、効果が上がらない方法にムダにコストを費やすことも無くなる。

 

「最終的には、私のコンサルティングが終わっても、回り続ける『仕組み』を作ること。それが目標です」と、浜崎さんは話す。

 

自らメディアのプロフェッショナルと公言される浜崎さん。

その自信の源と、それで会社を立ち上げようと思ったきっかけはなんだったのだろうか。

 

 

生まれて1万日目の起業

media_incubate_hama02「実は、学生時代にネットの活用について勉強していました。

同時に文章を書くことも好きだったので、卒業したら記者になりたいと思っていたんです。

でも、就職できたのは全く分野の違う建機メーカーの営業。

営業成績もそれなりに残すことができたし、居心地は良かったのですが、やっぱりメディアに携わりたいという思いが強く、2013年にデジタルメディアの企業に移りました。

 

その企業のお客様で『日刊ゲンダイ』様がおり、担当を任されました。

とにかく憧れのメディア企業様とお仕事ができたのが嬉しくて、貢献したいという思いを強く持っていました。

ちょうど日刊ゲンダイ様の方でもネット事業に力を入れ始めたタイミングでした。

とにかく日刊ゲンダイ様に貢献したくて、他社の動向を調べたり、見やすい画面構成に変更したり、システム面や配信タイミングなどを日刊ゲンダイ様の要望を形にし、

ご提案をしながら、月間で最初400~500万PVだった数字が3カ月で3000万PV、半年で6000万PVまで伸びていきました。

日刊ゲンダイ様にはとても感謝していまして、貴重な体験をさせていただいたと思っています。この経験を通して、ネットの力を再確認できたんです」

 

しかし、「日刊ゲンダイ様とご一緒にする仕事は、とてもやりがいはあったものの、自分はあくまで提案をする立場で決定権はありませんでした」と浜崎さん。

もともとメディアに携わりたい思いが強かった浜崎さんは「メディアの中で仕事をしたい」と思うようになり、次第にディレクションをする側の仕事に興味を持つようになったという。

 

「それでGMOモバイルに入って編集兼ディレクターになった。

そこでメルマガの配信などしていたのですが、僕が編集責任者をする日には、歌手のASKAさんが逮捕されるタイミングだったり、当時AKBの川栄李奈さんの事件だったり大きな事件がありました。

そういう事件のニュース記事がまだ送られてこない時には、自分で書いて流す。

そんなことをしながら、どうしたら新規のユーザーが増えるのか、既存のユーザーを満足させられるのか、を常に考えていました」

 

そんな充実した毎日を送っていた浜崎さんが、なぜ起業という決断を下すことになったのだろうか?

 

「高校生のころから漠然と『起業したいな』とは思っていたんです。しかし、どういう仕事をしたいのか、いつ起業するのかハッキリ決めていなかった。

そんな気持ちをどこかに抱えながら仕事をしていたらIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット、10年前から開催されている国内最大規模のネット業界経営者のカンファレンス)というイベントがあって。

そこで数々のネットベンチャー経営者を見ているうちに、やっぱり自分も起業したいという気持ちが強くなってきた。

で、何を商売にするのか、と考えた時に、自分が今まで学び、仕事にしてきたメディアを武器にすることを考えたんです」

 

その後、浜崎さんはザッパラスやUUUMなどの有名ネット企業に勤め、ポータルサイトの運営や動画メディアに携わりながら、起業の機会を待っていた。

 

「スタートアップのイベントには積極的に参加し、『スタートアップオタク』になっていました(笑い)。その結果ヘンに『意識高い系』になってしまって。

そんな時に、FiNCの溝口社長のブログに、『人生は3万日。それを3分割して、1万日目から新しいことにチャレンジする』とあった。

1万日って言ったら、だいたい27歳くらい。それで、自分もそうしようと決心した。それが昨年(2016年)の3月です」

 

 

メディアは儲からない!

最近注目されたWELQの偽ニュース問題(DeNAが運営していた医療系まとめサイトWELQが、医学的に証明されていない記事や、無断転載した記事などを掲載していた問題。

その原因としては「検索サイト上位に表示させるため」「非専門のライターによる記事」などが挙げられている)について浜崎さんに投げかけると、意外な答えが返ってきた。

 

「メディアは商業主義や倫理観と常に戦っています。会社としてやっている限り、利益は考えなければなりません。

ですが、従来からメディアに携わってきた方々や、メディアに対して強い思いを持っている方は、今回起きた問題のようなことはそもそもやらないようにしている。

様々なビジネス環境の変化の中で、メディアに携わってこなかった方がメディアづくりに携わるようになってきた。

中には倫理やメディア観よりも利益だけを重視している方々もいる。

だから、問題が発覚した今でも、ある側面で言えば何も変わっていない部分もある」

 

では、今後も同様の問題は起こってくるのか。

 

「メディアをビジネスとして捉えると、記事は商品です。

だから商品の品質を維持したいのであれば、コストをかけて信頼ある生産者から仕入れたり、自社ブランドで生産したり、工夫が必要です。

商品と捉えると、記事を配送・流通させるという機能も必要です。それらを併せて、メディアなんです」

 

環境が整ってきて簡単に始められてしまうからこそ企業は、メディアを始める事は、新商品の開発と同じだと思ってもらいたい、と話す浜崎さん。

 

「だからこそしっかり話し合って、どういう情報を発信するのか、新しい商品を出すくらいの思いを持った場合にコストパフォーマンスに見合うのかまでを考えて、

『商品コンセプト』についてもしっかりと考えて欲しい。

始める場合も、感覚がつかめない場合もあると思うのでブログで発信するくらいの簡易的なものから取り組んでいいと思います。

本腰を入れてメディアを始める場合は、『流通経路』までをきっちり考えて始めて欲しいとも思います。そういう点を、私は必ず伝えています。

また、メディアに関するあらゆるサービスを提供できるようにしており、動画制作会社と組んで動画事業を行ったり、

イベント制作会社と組んでイベント事業、音楽事務所と組んで社歌の制作事業なども行っています。

まだまだ始まったばかりの会社で、一から立ち上げるのはとても力がいる作業なので、協業することも多いです。

 

メディアM&A、という新規サービスもリリースしました。

企業によっては、既にノウハウを持っているところのメディアを運営することが良い場合もあります。

メディアの運営を支援している中で、メディア事業から撤退をしたい、しかし、運営する企業が変われば必要としている場合もあることに気がつきました。

自分はとにかくメディアに強い思いを持っていて、メディアに貢献したいし、メディアを通して人々に貢献したい。自身も多くのメディアに携わってきました。

その強みを生かして、メディア業界に貢献できる方法の一つとして、メディアM&Aというサービスの立ち上げにつながりました」

 

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同社がリリースした「メディアM&A」イメージ

 

 

 

メディアの可能性を追求する

最近、浜崎さんは旧友の三浦祐輝さんと新会社を立ち上げた。

 

「三浦さんはサラリーマンをやりながら『缶詰バー』をやっていた人です。別に仕事をしながらやれる事業を考えていった時にたどり着いたのがこのモデルだそうです。

現在はオーナーとして繁盛店に育て上げています。そういう商才を持っている人なんです。

友達の友達であった彼から、知り合って1年くらい経った時にメディアを作りたいという話が来ました。

彼の人柄はなんとなく知っていたし、面白い人だな、と思っていたこともあって、二人なら面白いことができるんじゃないか、と思い、一緒に新会社を設立しようと持ちかけました。

彼はプロとして飲食店を経営していて、周りにも多くの食に関するプロの方がたくさんいる。そして私はメディアに関する事業ノウハウを提供することができる。

その掛け合わせに魅力を感じました」

 

二人で立ち上げた会社の名は株式会社サケドアインキュベート。

そこを、食に関して、今までになかったメディアに成長させていきたい、と浜崎さんは語る。

 

「食レポをポッドキャストでラジオ配信したり、三浦さんは目立ちたがり屋なので人の目を引くことをドンドンやっていきたいですね。

けど、それだけじゃなくて食の事業に対する思いがある。これからもそういった思いを持った人の手助けをしていきたいと思っています」

 

メディア、という巨大な可能性を持つアイテムを駆使し、企業戦略に新たな光を当てている浜崎さん。

インキュベートとは、孵卵器や保育器という意味だ。

まさにメディアインキュベートは、新企業の卵を孵す手助けになる力を秘めている。

 

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「友達の友達」だった三浦さん(右)と新会社を設立

 

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同社が配信するポッドキャスト

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

media_incubate_hama01●プロフィール

浜崎正己(はまさき・まさき)氏…大学卒業後、大手建機レンタル企業を経て兼松グランクス株式会社に転職し、WEBサイトのディレクターを経験。以降、GMOモバイルやザッパラスにて各種メディアのディレクション業務に携わり、2016年3月に株式会社メディアインキュベートを設立。メディアの立ち上げ・運用支援を手掛けるほか、メディアに特化したベンチャーキャピタルの設立も検討中。

 

●株式会社メディアインキュベート

〒104-0043 東京都中央区湊3丁目16-3 イトウビル2F

masaki.hamasaki@media-incubate.com

 

 

 

◆2017年4月号の記事より◆

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