『ダメ人間』が原点、『みずから選んだ』試練の道(後編)

〈経営者兼牧師の半生に学ぶ〉どんな苦境でも「忍耐」が成長を生む

株式会社翔栄クリエイト/代表取締役 宇佐神 慎氏

現役の牧師でもある宇佐神氏(左は奥様で社長室室長の功美氏)。8年続くロングセラー番組に毎週出演。「目からウロコ」は千葉テレビ・テレ玉・TV神奈川で放映中で、聖書から世の中の真理を解き明かす番組です。その他ラジオ番組も放送中

 

経験から生まれた新事業・オフィスデザインへ

会社を創ってから7年目、元の会社と袂を分かってから4年目で、借金返済のほとんどの目処が立ったという宇佐神氏。

貸し倒れにしてくれるところがあって実際の返済は約1億2千万円だったというが、それも積み上げてきた信用の為せる技だろう。

 

一区切りついたところで、次に目を向けたのは、事業の中身を変えていくこと。これまでの〝オフィスの何でも屋〟から〝オフィスデザイン〟へと大きく舵を切った。

そのきっかけとなったのは、ほかでもない自身の経験だったという。

 

「若い時から飛び込み営業をして、その数は数万社に及びました。そんな中で気付いたのは、オフィスに入った時『自分がその会社を勝手に評価し、心の奥で点数付けをしていた』という事でした。

 

また、これを意識して振り返ると〝この会社伸びそうだな〟とか〝大丈夫かな?〟という第一印象が、その通りになる確率が高いという事でした。

つまり、〝この会社伸びそうだな〟と思った会社は、案の定急成長するし、〝大丈夫かな?〟と思った会社は倒産していくんです。

 

当然、付き合いたいと思う会社には、みんなが足繁く通うから、その会社は成長するでしょう。潰れそうな会社には、誰も寄り付かなくなっちゃうから潰れちゃう。

人も第一印象が大事なように、オフィスも第一印象が大事なんです。

 

折角すごい技術があったり、いい仕事ができても、会社がそう見えなければ潰れていく。こういう人たちを手伝いたい、業績を上げるオフィス作りをしたいと思ったんです」

 

神を信じている宇佐神氏と話していると、『儲かるオフィスを風水で……』のようなウサン臭さが全く無い。むしろ、論理的で筋が通っている。

 

「僕はオフィスデザインにおいても、ただの感性やデザインではなく、論理が重要だと思ったんです。論理的に計算された空間を作ることで、その企業を直感的に感じてもらう。

与えたいイメージを人の心に与えて、ある一定の行動に向かわせるんです」

 

宇佐神氏は、経産省の指導の下に作られ、最も歴史と信頼の有るコンサル協会「全能連」に属するマスターマネジメントコンサルタントだ。

また、経営労務コンサルタントやリスクマネージャーの資格も持っている。

 

「僕の仕事は企業自身のデザインです。社長の理念やビジョンを“今”の空間に現すことで、将来〝成るはず〟ではなく、既に〝成った〟を今の空間に先取りして実現するんです」と宇佐神氏。

 

 

下谷から麻布、更に新宿へ

これを自社でまず実現するために、早速、宇佐神氏は銀行に交渉。5000万円を借入れた。

 

「オフィスデザインの会社が台東区の下谷では誰も信用しないので、港区の麻布にオフィスを移転しました。銀行から借りた5000万円はすべて内装費に費やし、社名も『株式会社翔栄クリエイト』に変更して、新体制を整えました。

そうすると、建築に長けた人材やデザイナーを雇うことも出来、お客様の信頼も一気に増したんです」

 

syoei08_logo〝オフィスの何でも屋〟が〝業績を上げるオフィスデザイン〟に変身した瞬間だった。

また、オフィスデザイン事業立ち上げの時には、大いに電気工事事業部が下支えをして貢献してくれた。

人の借金を返すために起業して、倒産したお客さんを社員第一号にして、マイナス覚悟でスタートしたことが、ここに至ってプラスに転じて来たのだ。

こうして、オフィスデザイン事業と電気工事事業を2本柱として、株式会社翔栄クリエイトは順調に成長軌道に乗ったのだった。

 

移転から3年、社員も増えたことでオフィスも増床。するとセクショナリズムが起こり始めた。また、宇佐神氏は、自社のブランディングのためにも移転を考え始めていた。

それは、起業した直後に作った企業理念に基づくものだった。

翔栄クリエイトの企業理念は、

 

(1)正直で、常に社会に必要とされる企業である

(2)真の意味で、時代のニーズに応えうる事業を行う

(3)人としての成長と、職務上のクオリティを限りなく追求する

 

……の3つ。宇佐神氏は社会に必要とされる実業を行う企業として、翔栄クリエイトを位置付けていた。

 

そこで、金融でもITでもなく、実業にふさわしいイメージのエリアにオフィス移転をしようと決意し、13期目、新宿区の西新宿、都庁の前のNSビルに移転した。

この移転では保証金や内装費などを合わせると1億円に達したが、宇佐神氏にとって内装費は〝コスト〟ではなく〝投資〟だった。

事実、麻布への移転と新宿への移転がなかったら、今の翔栄クリエイトはあり得なかったという。

 

 

四面楚歌でも上は抜けている

会社設立から14期目。電気工事部が2つの大きな事件に巻き込まれ、宇佐神氏に再び試練がやって来る。コツコツ積み上げてきた資本を一度に吹き飛ばす事件に見舞われたのだ。

 

その合計赤字額はなんと3億3千万円。2億4千万円の債務超過となり、「翔栄クリエイトは潰れる!」との噂も出回った。

 

その時、宇佐神氏は社長室長の奥さんと共に、「感謝します!」と声をあげて神様に感謝したという。

確かに聖書には、【いろいろな試練に会った場合、それをむしろ非常に喜ばしい事と思いなさい】【すべての事について感謝しなさい】とある。

正直、宇佐神氏はこの時、心は付いて行っていなかった。神様が〝喜ばしい事と思え〟と言うから、感謝しますと言ったわけだ。

 

聖書が真理の書なら、神様が〝こうしなさい〟とおっしゃることにまず従おうと、言葉を出したに過ぎず、神様を信じ切れていたわけではなかった、と宇佐神氏は振り返る。

 

この事件はちょうどリーマンショックの時期と重なった。この時期、銀行は金融庁からの指導もあり、返済条件を緩めることにすんなり応じてくれた。

だが、それでも、月末までにどうしても1億円足りない。社員の給与も無い。四面楚歌。

 

そんな時に、ある人物を介して、「3億円出すから自分たち2人を雇ってくれ」と倒産が確定していた某ノンバンクからの話と、「3億円でリースを組み、2億7千万円をキャッシュバックする」という2つの話が舞い込んでくる。

神様から「テストが来た」と宇佐神氏は思ったという。

 

「聖書には【〝信仰が試される〟ことによって、忍耐が生み出される…完全な出来上がった人になるように、その忍耐力を十分に働かせるがよい】と書いてあるんです。

〝信仰が試される〟とは〝信仰が本当にあるかどうかの神様からのテスト〟ということ。

神様から〝あなたは見えるお金を当てにしてグレーなお金に手を出しますか? それともわたしを信じて正直にまともに歩む道を選びますか?〟とテストが来たんです」

 

この誘いに対して宇佐神氏は、会うこともせずに即座に断った。

 

 

目の前の事象に振り回されない経営

「四面楚歌でも上は抜けているんです」という宇佐神氏は、上なる神を信頼したのだ。神を信じただけあって、その後の行動は腹が座っていた。

自分の役員報酬をカットした以外は、リストラも社員給与の削減もしなかった。それどころか、旅行休暇制度などの福利厚生も続行した。

 

この制度は、社員が年に1度、最大9日間旅行に行ける制度で、その時消化した有給休暇日数と同日分、特別休暇が有給で会社から付与されるだけでなく、その旅費や宿泊費の一部あるいは全部を会社が負担するというものだ。

 

宇佐神氏は、窮地にあっても慌てること無く、営業に力を入れ、入金を前倒しにしてもらう事で資金繰りを行ったが、どうしてもその月末、1億円が足りない状況となった。

出来るだけのことをして、あとは神に身を委ねた。

 

すると、こちらから催促もしなかった大手ゼネコンから、まだ着工もしていない案件で「1億円前払いさせて欲しい」との申し出があり、急遽入金され、その月をクリアーしたのだ。

 

その後も2年半にわたり、不思議なことが続いた。

週明けに2000万円必要な時、金曜日までいくら営業し工面してもままならなかったのに、土曜日になって3年間売れなかった持ち家が売れて週明けに2000万円を支払えた。

また、700万円足りない日には、それまで何度催促しても返ってこなかった保証金が、1年半たったその日に入金された。

更に、200万円足りない日には、保険会社が営業に来たので、そんな状況ではない事を伝えると、解約できるものがあることを教えてくれ、その金額がなんと200万円だったのだ。

 

このように、足りない分だけ補われることが毎月毎月、2年半も続いたという。

その後も宇佐神氏は、新規事業を立ち上げるなど積極的な手を打ち、社内の福利厚生も更に充実させた。

 

現在の翔栄クリエイトでは、就業時間内に、社員が無料で鍼やマッサージを受けることが出来る環境もある。

また、育児休暇を終えた女性幹部が2人復帰したばかりだが、女性が働きやすい環境も整備されている。

このような改革を行った結果、5年前に2億4千万円の債務超過だった状況から、前期の決算では、3億5千万円の純資産となったのだ。

宇佐神氏は言う。

 

「仕組みや制度で人を縛ってもダメです。全社員がお客様のために自発的に仕事をし、成長できる環境をつくることが社長の務めです。

だからこそ社員は、会社にぶら下がったり自分のために生きる人ではなく、同僚やお客様のために心から働ける人達で構成しなければなりません。

そうなってこそ、会社はますます社員のために福利厚生を充実させ、就業時間も短縮して自由な働き方を提供することが出来ます。

すると社員は空いた時間で自分を成長させ、どんどん好循環が生まれます。

 

このためにも企業理念の徹底が重要で、心からお客様のために働きたいという社員が集まった会社にしたいんです。一歩間違うと、ただ生温い腐った会社になってしまいます。

だからこそ、うちの会社は、初めは契約社員で始まっても、人柄を確認した後、全員を正社員にしていくんです」

 

 

事業の原点は「企業理念にある」

現在の翔栄クリエイトは、一人ひとりの社員が活躍できる場が更に広がっている。

オフィスデザイン事業と、新築マンション等の電気設備工事事業、またそこから派生した太陽光発電やバイオマス発電所の設計・施工を行うクリーンエネルギー事業をはじめ、

Webを自社でつくれるように教育するブランディング事業、無農薬と遺伝子組み換えでない原料にこだわったフレッシュ コールドプレスジュースの製造販売事業、

それに関連会社では、水素水サーバーの代理店統括事業、メディカルダイエットスタジオ運営など、7事業を展開している。

 

水素水サーバーは、約5年前に「良い水」と信じて取り組んだ水素水サーバーの代理店作りの失敗を踏まえて、あらためて信頼できる製品を選び抜いたもの。

 

メディカルダイエットスタジオは、宇佐神氏自身が取り組み、効果を実感した体質改善法に基づくもの。

宇佐神氏はシェーグレン症候群が治った後も、長年無理を続けてきた身体は疲れが取れにくくなっていたのだが、週2回30分の運動と食事で、睡眠も5時間取れば朝には活力が漲る身体に変身したのだ。

 

2016年10月に東中野にオープンしたばかりのフレッシュ コールドプレスジュース バーは、スーパー等に並んでいる食品の約70%が遺伝子組み換えに汚染され、

知らず知らずのうちにそれを皆が口にしているという現状を知って、「食」がどんどん脅かされていく危機感から作ったものだ。

今は仕入れた有機野菜を使っているが、将来はバイオマス発電の熱を使ったハウスで野菜を育てることも考えている。

 

一見バラバラで、節操が無いようにさえ見えるこれらの事業だが、すべての根幹には前述した3つの理念がある。

 

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「Be-set plaza(ビセットプラザ)」では毎日気軽に、短時間で、食事と運動を兼ね合わせた健康管理ができる

 

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医学的根拠に基づくトレーニングや、ドクター監修のフードコントロールで理想的なボディを目指すメディカルダイエットスタジオ「Be-set(ビセット)」

 

 

 

ありのままでいて「謙虚」

理念の第1は『正直で、常に社会に必要な企業…』と『正直』からはじまる。

翔栄クリエイトはオフィスや電気・太陽光の施工など、建築系の仕事で高く評価されている。それは『正直』が社員に定着しているためだろう。

例え協力業者が儲けのために手抜きをしても、お客様視点に立って管理している翔栄の社員は、見逃さない目と、正直に報告する口を持っている。

宇佐神氏は、例えどんなに恥ずかしくても、失敗したりした時には正直に言う。翔栄クリエイトにおいては、正直でない事の方が恥ずかしい事だ。

 

同社は、工程がかなり進んだ現場で設計や協力業者の不備が見つかり、それをお客様に報告してやり直したことが数度もあったという。それが経営を圧迫することもあった。

それでも正直にやり直す姿勢が、協力業者にも影響し、今のような信頼される企業になっている。

 

理念の2番目は『真の意味で、時代のニーズに応えうる事業を行う』だ。つまり、翔栄クリエイトは、業種業態を特定していない。時代のニーズに応じて変化するという事だ。

 

それは一見、儲かる仕事を追いかける節操のない会社に見えるかもしれないが、実際はその逆だ。『単なる時代のニーズ』ではない。『時代のニーズ』の前に『真の意味で』と付いている。

 

この『真の意味で』とは、単に人の欲を満たすものや流行りを追うことではなく、〝人を活かすニーズ〟と宇佐神氏は規定している。

実際同社は、数億円のパチンコ店改修工事を依頼されたこともあったが、即刻お断りしている。真に人を活かし、社会のためになってこそ、『真のニーズ』なのだ。

 

3つ目の理念は、宇佐神氏が最も重きを置いているもので、『成長』がキーワードだ。

これは宇佐神氏の人生のテーマそのもので、「成長した人格こそが、本物のクオリティをお客様に提供出来る」と宇佐神氏はつくづく言う。

つくづく言うには訳があるのだ。

 

数年前、宇佐神氏自身が、ご紹介を頂いたお客様に〝高慢な対応〟をして、お客様とその紹介者を失ったことがあるというのだ。

その頃、自社のサービスを極めて「〝このクオリティを提供出来る会社は他にない〟という自負が自分を高慢にしていました」と宇佐神氏は言う。

今に至るまで反省し続けている宇佐神氏だが、聞いてみると、今でも高慢の種は無数に心にあるという。

 

宇佐神氏の言う『成長』とは、立派になって偉くなることではない。自分のありのままの姿を知って、へりくだるところに『成長』はあると言う。

 

「本音でありながら、高慢にならず、劣等感も持たず、『すべき事をしたに過ぎません』と言える人格。

聖書に【一番偉い人は一番若い者のように、指導する人は仕える者のようになれ】と書いてあるんです。重要なのは『なれ』であって『ふりをせよ』とは言っていないんです。

人と比べる相対的な生き方では、『つくり』『ふりをする』ことしか出来ないかもしれません。

でも、絶対的な神に愛されて、そこに価値を見出す生き方からは〝ありのままでいて謙虚〟という本当に『成長』した人格が生まれるんだと思います」という宇佐神氏は、現役の牧師でもある。

 

「いろいろな訓練を通り、5年前にやっと牧師としてもスタートしました。57年生きて来てもまだまだ失敗だらけで、成長が遅すぎる!というのが実感です。

聖書にこんな言葉があります。

 

【聖書は、すべて神の霊感を受けて書かれたものであって、人を教え、戒め、正しくし、義に導くために有益である。それによって神の人が、あらゆる良いわざに対して十分な準備が出来て、完全に整えられた者になるのである】

 

この完全を目指して、忍耐強く導き続けて下さっている神様に身を委ねつつ、全力で走り続けたいと思います」

 

 

 

実践で揉まれ、もがいた中で獲得した言葉の数々は、ビジネスの枠を超えて、人の胸に響く重さを感じた。

 

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

宇佐神 慎(うさみ・まこと)氏…1959年8月2日、宮城県仙台市生まれ。茨城大学工学部工業化学科を3年次に中退し、茨城キリスト教大学3年へ編入。卒業後、更に心の成長を求めて東京基督教短期大学(現:東京基督教大学)2年へ編入。その後、社会で学びを積むべく1987年に某通信機会社へ入社。1997年8月に株式会社翔栄システムを設立し、同社の代表と、元の会社の営業部長を兼職。2000年5月以降は同社代表取締役一本となる。2005年1月の称号変更に伴い、株式会社翔栄クリエイト代表取締役に就任。現職。

 

●株式会社翔栄クリエイト

〒163-0802 東京都新宿区西新宿2-4-1 新宿NSビル2F

TEL 03-6894-2211

・クリエイティブ事業部 http://www.syouei.net

・設備工事事業部 http://www.syouei-e.net

・クリーンエネルギー事業部 http://www.syouei-ce.net

・ブランディング事業部 http://webtan.jp

・店舗事業部 http://beset-plaza.net

 

●株式会社翔栄ウエルネス http://313599.net

〈本社〉〒163-0802 東京都新宿区西新宿2-4-1 新宿NSビル6F

〈営業所〉〒164-0003 東京都中野区東中野3-1-2

TEL 03-6894-2217

 

●株式会社ビセット http://347029.com

〈東中野店〉〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-13 MSR東中野8階

〈荻窪店〉〒167-0051 東京都杉並区荻窪5-28-12 サカエビル8階

〈西荻店〉〒167-0042 東京都杉並区西荻北3-1-9 マルスビル2階

TEL 03-6304-0644

〈鍼治療院〉〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-13 MSR東中野8階

TEL 03-6304-0344

 

●Grace21 Ministry(教会) http://www.grace21.net

〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-13 MSR東中野9F

TEL 03-3364-0033

・TVレギュラー番組:

「目からウロコ」 千葉テレビ・テレビ埼玉で毎週土曜日放映中

・ラジオレギュラー番組:

「目からウロコ」 エフエム八ヶ岳で毎週土・日放送中

 

 

 

◆2017年2月号の記事より◆

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