オビ 企業物語1 (2)

ダブルダッチのもつ可能性に迫る!

全ての子どもにチャンスを!縄跳びから始まる新しい教育スタイル

◆取材:加藤俊/文:菰田将司

 

roco01天野代表自身、実は10年ほど前に世界大会で優勝した経験を持っている

二本のロープを使う縄跳びの集団競技、ダブルダッチ。

音楽に合わせてアクロバットな技を決めていくこのスポーツは、見るからに高度なテクニックと運動神経が必要に思えるが、合同会社RoCo天野陽介代表は「全く難しくありません。少しの練習で2歳児でも跳べるようになる、老若男女誰でもカンタンにできる競技なんです」と言う。

彼は今、このダブルダッチを使って、新しい教育を生み出そうとしている。

 

 

どんな子どももスターになれる

合同会社RoCoはスポーツ事業、特に縄跳びやダブルダッチを用いて発達教育事業を展開している会社だ。ダブルダッチの魅力をひろめるべく教室「NICO」を運営し、子ども達にダブルダッチ教育の魅力を伝えている。

ダブルダッチはアメリカ発祥のスポーツ。開拓時代、入植したオランダ人達が遊びでやっていたものが、1970年代からスポーツ化し、一般に流行するようになったという。今では毎年世界大会も行われ、盛況を博している。

このダブルダッチ、かなり難しそうな競技だが、天野氏は「誰でもできる競技」と語る。

 

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「一見すると難しそうに見えますが、チョット練習したら誰でもできるようになる。イメージとのギャップですぐに成功体験を味わうことができるスポーツなんです。各地で未就学児から高校生以上まで、幅広く教えています。

親はどうしても、自分の子どものダメな部分を気にします。『周りはできているのに、どうしてウチの子はできないんだろう?』なんて思ってはいませんか? そういう意識を、子どもは敏感に感じ取っています。

それがダブルダッチが上手くなると、子どもはできなさそうに見えたことができたことで嬉しくなり、親も自分の想像を超えたことを子どもができたことで嬉しくなります。

お父さん、お母さんができないと思ったことを、子どもができちゃう。そうすると親は見方が変わってきますし、子どもも成長していけるんです」(天野代表)

 

 

教育の選択肢が少ない日本

現在、天野代表が注目しているのが、障がい者教育の分野。

先日、相模原市で多くの方が被害に遭われた殺人事件が起こったが、この事件で注目すべきは、加害者が「社会のため」という意識で行動したことと、その意識が、一部の人々には受け入れられたということだ。

障がい者は、誰かの世話にならないと生きていけない、「健全な社会生活」を送ることができない、と考える人々が少なからずいて、そしてその中には、当の障がい者達の肉親も含まれている。

 

「親が子どもの可能性を摘み取っていることがあります。日本では『ウチの子はできない』という親の意識がそのまま発達障害、自閉症なんて言葉に繋がっている。一度、そういう診断を受けてしまうと幼稚園には入園を拒否されやすくなってしまう。

日本は他の国に比べて、教育の選択肢が少ないので、一度、道から逸れてしまうと、なかなか戻れない。結果、待機児童も増加の一途をたどる。

しかし私は、障がいとされてしまっている子ども達は天才だと思っています。思いもよらないことをできる可能性、私達が気づかないことに気づけるチカラを持っているんです。ダブルダッチをしている子ども達がどんどん成長していくのを見て、親も子どものチカラに気づくことができるんです。

実は私がそのことに気づいたのは、ある子どもに出会ったからでした。その子どもは内臓の一つが無く、入院や通院を繰り返して満足に学校にも行けなかった。そして、人とのコミュニケーションにも消極的になっていました。

その彼女が、ダブルダッチと出会ったことによって変化したんです。自分にもできる! もっとやりたい!ということが自信、希望になり、新しい分野にチャレンジする勇気が湧いてきたんです。

彼女は今、大学生ですが、今も熱心にダブルダッチに取り組んでいます。そして、彼女に出会ったことで、自分もこの教育の可能性を信じることができるようになったんです」(天野代表)

 

 

縄跳びの効果は無限大

教育に縄跳びを取り入れている小学校は多い。しかしまだまだその魅力は知られていない、と天野代表は語る。

 

「縄跳びはスポーツの中にある、二つ以上の能力を同時に使用する『コーディネーション運動』の中でも、すべての能力を同時に使用する『究極のコーディネーション運動』です。

リズム、バランス、変換能力など様々な能力を同時に鍛えることができ、身体能力の底上げができます。それに加え、ダブルダッチでは更にチームワークやコミュニケーションなど社会性の能力も高められるのです」

 

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天野代表も世界の頂点に立ったが、実は、ダブルダッチ世界大会で、日本のチームは上位を独占する強豪だ。日本人独特の感受性や表現力、チームの団結力が高い評価を得ているのだ。

今後は、縄跳びの心身の成長に及ぼす影響を科学的に分析、論証できるように大学と協力していくことも、天野代表は考えているという。

 

「縄跳びって、目標がないんですよね(笑)。だから上手くなっても目指すところがない。だからダブルスの縄跳びでシンクロをやってみたり、とか新しいことをしたり、競技としての活性化とかもしていきたいですね。

他にもまだ縄跳びの普及していない国に広げたい。今年はROPEACE(ROPE×PEACE) PROJECTという社会貢献活動で、日本で使わなくなった縄跳びを全国から集め、ベトナムとネパールに1000本以上寄贈しました。子ども達が楽しそうに遊んでいましたよ。

手軽に楽しく体力もつくので、もっと広めて、いずれはオリンピックの正式種目になったら!なんて思っています」

 

 

10年で実現しよう!

天野代表とダブルダッチとの繋がりは大学1年の時の、ふとした出会いだった。

 

「大学に入学したばかりの時、4年間、何をしたらいいんだろう、と考えながらキャンパスを歩いていたら、目の前で面白いパフォーマンスをしている人達が目に飛び込んできた。それが、ダブルダッチとの初めての出会いでした。衝撃でしたね。

それでダブルダッチの世界に飛び込んだんです。そこからのめり込んで、翌年には自分もニューヨークのアポロシアターで行われた世界大会で優勝することができました」
roco03世界を制したことで、天野代表のチームは各地にダブルダッチを教えに行くことが多くなった。この体験でダブルダッチの魅力とその効果を知った天野代表は、教育にダブルダッチを取り入れ、もっと有効に活用できないか、と考え始める。

 

「……と、考えたまではいいのですが、具体的な手段は全くアタマになくて(笑)。ですので、10年計画で考えることにしました。10年かけて、ノウハウを身につけていこうと。

まず、就職したのは大手アミューズメント企業。ここでマネジメントや人材育成・イベントの企画などを学びました。会社での主な仕事は、ゲームセンターの店長でしたが、気がついたのはコミュニケーションが何より大事ということ。

ゲーム機を入れる予算は限られているので、なかなか新しいものを置くことはできない。だからお客さんが一度で長く楽しめるような店作りを考えました。

例えば、クレーンゲームで取れない子どものそばにいてアドバイスをしてあげたり、取り方の見本を見せてあげたり。その結果、店の業績を大きく伸ばすことができました。しかし当初の予定通り、3年で退社。上司からは相当怒られましたが(笑)。

しかし最近、ダブルダッチのイベントに当時の人事担当の人が自分の子どもを参加させに来てくれたんです。ずっと気にしてくれていたそうで。そういう所にも、人の繋がりのチカラを感じますね」

 

その次に勤めたのが、児童発達教育支援事業を行う企業。ここで今度は療育分野のノウハウを学ぶ。

 

「小学校の先生も考えたのですが、集団教育では自分の望む教育はできるのかな、という疑問があったので、個別指導の現場に入りました。しかし、新人の自分ではなかなか効果的な指導ができなかった。

これじゃいけないと思って、発達心理学や応用行動分析学など必死で勉強しました。そこから、自分のスタイルを作っていけたかなと思います。

特に、一人一人に効果的なアプローチをするためのプログラムを毎日考え、実践できる環境にいられたのはとても役に立ちました」

 

この時の経験がダブルダッチ教室でも採用されている個別指導計画書だ。先生と親が相談して、こうなって欲しいという目標を短中長期で計画し、それに沿って指導していくのだ。親はそれを見て成長を具体的に知ることができる。

この手法は実際の教育現場でも療育的分野で採用され、2020年度から小・中学校、高等学校でも導入される予定。

 

 

7月8日、縄の日にスタート

そうして、自分に必要なスキルを身につけていった天野代表だったが、彼の10年計画が一気に縮まる機会が訪れる。

 

「偶然、大学時代に同じ競技で競い合った友人と再会したら、彼らも『縄跳びで世界を平和にする』というNPO法人を立ち上げようとしていた。

自分はそれまで、自分の夢を一人で達成しようとしていたのですが、同じ夢を持つ仲間が見つかったことで、10年かかると思っていた計画を、一気に短くすることができたんです」

 

昨年11月に再会した彼らは意気投合し、新会社の設立を決意した。立てるとしたらいつか。縄の日である7月8日にしよう。計画はトントン拍子に進んでいった。
「縄跳び・ダブルダッチを中心に、スポーツを通じた教育を子ども達に広めていくことが目標です。現在は小学校と協力して、出張で縄跳び・ダブルダッチ教室をしたりしています。

ダブルダッチのパフォーマンスを見せ、子ども達にも参加してもらう。また全国大会も企画しています。学校も、縄跳び全国大会何位!とかアピールすることもできるのではないでしょうか。

こうして縄跳び・ダブルダッチを競技として浸透させることも目的です」

 

他にも縄跳び・ダブルダッチ競技者向けのスポーツシューズの販売なども手がける天野代表。今後はさらに子どもに関わる衣食住全てのことに関わっていきたい、とも語る。

 

 

天野代表の言葉には、どれも子ども達への深い愛情が感じられた。あらゆる面で余裕がなくなり、弱者に厳しくなってきている日本。そんな時代だからこそ子どもに、このような分け隔てない愛が必要なのではないだろうか。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

天野陽介(あまの・ようすけ)氏

2009年より、大手上場企業のアミューズメント施設に就職し、店舗責任者として店舗運営やイベント企画のノウハウを学ぶ。2012年より発達障害や発達に遅れがある子どもを対象とした児童発達教育支援の会社で指導員として0歳~18歳までの子ども1000人以上の指導に携わる。そこで発達に対しての運動教育の必要性に気づき、ダブルダッチをツールとした教育目線のスクールを設立し、2016年7月8日(なわの日)にこの教育を事業とした合同会社RoCoを設立。

 

〈主な出場大会経歴〉

・DOUBLE DUTCH DELIGHT EAST 2006 準優勝

・DOUBLE DUTCH DELIGHT JAPAN 2006 準優勝

・NDDL HOLIDAY CLASSIC 2006 世界大会 優勝

・DOUBLE DUTCH DELIGHT EAST 2007 優勝

・DOUBLE DUTCH DELIGHT JAPAN 2007 優勝

・NDDL HOLIDAY CLASSIC 2007 世界大会 準優勝

 

〈資格等〉

・第一種中学校高等学校教員免許状(英語)

・公益財団法人日本体育協会公認スポーツリーダー

・公益社団法人東京都障害者スポーツ協会公認  初級障害者スポーツ指導員

・ベビーマッサージ、ベビーヨガ、インファントサイン1級

 

【企業概要】合同会社RoCo

URL:http://www.rocogrp.com/

 

◎教育事業:日本の教育義務に則りながらスポーツ(縄跳び)界の次世代を担うトップレベルの「ビジネスパーソン」と「インターナショナルアスリート」の育成を行います。

〈ダブルダッチスクールNICO〉 URL:http://www.ddsnico.com/

◎BtoB事業:日本のスポーツ界の更なる成長の為に必要となるスポーツコンテンツの企画立案から実施までを行います。

◎BtoC事業:スポーツビジネスセミナーやスポーツツーリズムを始めとした、一般参加型のイベントを主催、運営します。また、顧客の満足するサービスの提供を行います。

◎マネジメント事業:人材育成の視点から、現役アスリートの活動サポート、および、学生、社会人向けのキャリア支援を展開します。

◎コンサルティング事業:スポーツ界に投資したい企業や個人に向けて、マーケティング戦略の企画立案とその実施に対するコンサルティングを行います。

◎CSR活動:ROPEACE PROJECT 日本の使わなくなったなわとびを集め、世界中のスポーツ教育が行き届いていない子ども達に直接現地に届け、教育・普及をする活動。

 

 

 

◆2016年11-12月合併号の記事より◆

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