オビ 企業物語1 (2)

【この経営者に注目!】

介護予防から 〝脱介護〟の時代に
日本の元気と健康に情熱を注ぐ若き社長の3つのミッション

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団/代表取締役社長 筒井祐智

直営店11施設と合わせて全国で100箇所以上にも及ぶデイサービス事業所「早稲田イーライフ」をフランチャイズ展開する株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団

設立から10年が経過し、同社が新たなフェーズを迎えた2014年、3代目の代表取締役社長として着任したのが当時38歳だった筒井祐智氏だ。

若きエースに託されたのは3つのミッション。そのミッションは現在、どのように進行しているのか。〝脱介護〟をテーマに掲げる同氏に話をうかがった。

 

介護保険制度のはじまり

2016年5月、世界保健機関(WHO)による最新の平均寿命ランキングが発表され、日本は前年同様、世界1位の長寿国に輝いた。男女の平均寿命は83・7歳であり、これは世界に誇るべき数字だ。しかし、いっぽうで日本は長い間、高齢者にまつわるさまざまな問題を抱えているのも事実である。

世界に類を見ないスピードで進む高齢化とともに増加の一途をたどる要介護者の数。そして、介護期間の長期化、少子化や核家族化による高齢者を支える家族の負担増、医療費の増加等々。これらの問題を背景に介護保険制度がスタートしたのは2000年のことだった。

当時、多くの事業者が介護分野に参入したのと同様、株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団の母体である医療法人相生会も介護事業を開始させた。筒井祐智氏が入社するのはそれから2年後の2002年のこと。

 

「相生会は福岡県を中心に診療、臨床薬理、介護施設を展開する医療法人でした。大学卒業後は銀行に勤めていましたが、医師である父の影響もあり、その後は医療コンサルティング会社に。そして、26歳の年に相生会で運営や人事に関する業務に携わるようになりました。

当時は介護保険制度が始まった直後であり、今まで介護サービスを利用していなかった方たちがどんどん介護施設に通うようになっていた時期でした。その数は政府が想定していたよりも2倍のスピードで増えたと言われており、当医療法人の運営する介護事業所にも多くの利用者様が詰めかけました」

 

 

早稲田大学との 協力で生まれた 介護予防の運動プログラム

waseda01(写真上から)運動を楽しむことが習慣化への近道/運動のメカニズムを知る事、これも早稲田イーライフの強み/フィットネススタジオのようなデイサービス

日本の高齢化が今後も続くことに異論の余地はない。また、現状の社会保障の枠組みでは高齢者を支え切ることができないのも明々白々だ。そこで相生会は健康な高齢者が要介護の状態にならないよう、そして、介護が必要であっても生活機能の維持・向上を目指す「介護予防」の取り組みを開始することとなる。

2003年、早稲田大学スポーツ科学部と協力し、高齢者向け介護予防運動プログラムの開発などを行う早稲田大学エルダリー・ヘルス研究所を設立。翌年、そこで開発された運動プログラムを社会に還元すべく、早稲田エルダリーヘルス事業団が誕生した。

 

「介護事業において予防という考え方を全国的にいち早く取り入れたのは、前身である医療法人の使命でもあったと思います。同時に、医療法人として非科学的なことはできないという信念もありました。

高齢者の方々が元気に健康的に過ごせるようなサービスを確実に提供するために、大学などのしっかりとした研究機関による裏付けやエビデンスが必要と考え、当時、新設されたばかりで脚光を浴びていた早稲田大学スポーツ科学部と協力体制を結びました」

 

設立当初は地方自治体と協力し合い、東京都の公民館やスポーツセンターを利用して体操教室などを開き、介護予防の啓蒙活動を主たる事業として行っていた。

その後、2006年に介護保険制度が改正され、介護予防サービスが制度内に正式に組み込まれると、同社は介護予防特化型デイサービス「早稲田イーライフ」の直営1号店を東京都大田区にオープンさせる。そして、それとほぼ同じ時期にフランチャイズ展開も開始した。

 

「設立背景からも分かるように、当社は大学や医療機関との強い繋がりがあり、より元気に、より健康になっていただくための科学的根拠に基づいた運動プログラムを提供しています。利用者様ひとり一人に合った運動を繰り返し行っていただき、習慣化させることで運動機能を維持・向上させる、言わばフィットネスジムのようなデイサービスを目指しています」

 

同社の運動プログラムがどれだけ効果的なのかを示す一例が事業所評価加算だ。現行の介護保険制度では、施設利用者の7割以上が介護度の維持、もしくは改善されている事業所について、介護報酬を加算する仕組みがある。

現在、東京都内で介護予防を謳っているデイサービスは3117施設。そのうち、事業所評価加算が適合となった施設は2015年度は278施設、つまり、全体の9%にも満たない。

 

「当社の都内直営施設は合計9店舗ありますが、そのすべての施設で事業所評価加算の適合を受けています。1号店がオープンしてからそろそろ10年が経過しますが、当時80歳だった方が90歳近くになっても元気に通い続けている、そんな利用者様がたくさんいらっしゃいます。

大学の先生方と構築した運動プログラムによってきちんと結果を出していること、それは当社の強みとなっています」

 

 

若きエースに課せられた 3つのミッション

waseda02(写真上から)利用者とスタッフのコミュニケーションがサービスの根幹/レッドコードでストレッチ&体幹トレーニング/運動の成果をスタッフと喜び合う

同氏が3代目の代表取締役社長に着任したのは、設立から10年目を迎えた2014年暮れのこと。同社が介護予防サービス事業者として新たなフェーズに突入した時期でもあった。

 

「初代社長は介護予防の研究や啓蒙に尽力した方でした。2代目は当社の効果的な運動プログラムを全国に普及させるべくフランチャイズ展開を行いました。私が着任した年はすべての団塊の世代が65歳以上となり、著しく高齢者の数が増えた年です。急激に増す社会的なニーズに応え、企業としてもさらなる飛躍が求められる、そんなフェーズを迎えた時期でした」

 

着任当時38歳であった若き社長に課せられたミッションはフランチャイズの拡大、サービスの質の向上、保険外の事業展開、この3つだった。

 

「いずれも現在、まさに取り組んでいる真っ只中です。まず、フランチャイズの拡大についてですが、今までは個人様による加盟が大半だったところ、現在は個人様と平行して、それぞれの地域の企業様による加盟にも力を入れています。実際にいくつかの県で、その地域で有名な企業様との契約が進行中です。

2つ目のサービスの質の向上については、利用者様がもっと元気になるため、もっとモチベーションを高めるため、自宅でも運動が行えるような仕組みづくりに取り組んでいます。健康を維持・向上させるためには、週に数回のリハビリだけではなく、日常的に運動習慣を身につけることが大切です。

そこで、当社の運動プログラムを自宅で実践するためのガイドブックと体調や運動の状況を記録するための手帳を利用者様にお渡しするようにしています。さらには、リハビリテーション専門職の資格を持ったスタッフがその記録をチェックし、次の運動や頑張りに繋がるようなコミュニケーションを必ず取るようにしています。

そのほか、早稲田大学の先生をはじめとした介護予防にまつわる専門家の方々の講義を施設内のテレビで見られるようにしたり、そうした先生方の記事が読めるオリジナルの雑誌を発行したりするなど、科学的に正しい情報を発信することにも注力しています」

 

この春からはGEヘルスケア・ジャパン株式会社と共同開発した歩行評価を数値化するウェアラブルデバイス「AYUMI EYE(アユミ アイ)」を全国の施設に導入した。デバイスを身につけ、短い距離を歩くだけでその人物の歩行バランスなどがスコア化され、より適切な同社の運動プログラムの提供に結びつけることができるというものだ。

 

「効率的な機能回復や日々の運動のモチベーション向上に繋がり、当社の新たなアプローチとして、ご好評をいただいています」

 

 

介護予防から 〝脱介護〟という考え方へ

そして、3つ目のミッションである保険外の事業展開について、同氏は「脱介護」というキーワードを口にする。

 

「現在、我々は利用者様にいつまでも元気で健康に過ごしていただけるよう、介護度を改善していき、最終的には介護保険を利用しなくてもいいような体づくりを目指す〝脱介護〟をテーマに掲げています。

また、要支援、要介護の認定を受けていない方であっても、現状の健康状態を維持していただくために、当施設の運動プログラムや各ツールを利用していただけるような取り組みを広げていきたいと考えています。

介護保険制度に頼らない保険外サービスの提供を含め、〝脱介護〟は現在の当社にとって重要なキーワードとなっています」

 

 

制度がはじまった2000年度の介護保険の総費用は約3・6兆円であった。それが現在では10兆円を超え、2025年には20兆円を超えるものと予想されている。巨額の財政赤字が続く日本にとって、この数字は決して見過ごせるものではない。

同氏に課せられた3つのミッションは、同社が企業体としてさらなる高みへと上りつめるために必要な課題である。しかしながら、急激な高齢化が長期に渡り進行し続ける日本社会においても重要な意味を持つものであろう。

同氏は今年で40歳を迎える。実力、気力ともに脂の乗った男の手腕が今、試されている。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール/つつい・よしとも氏

1976年9月、福岡県福岡市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、銀行に入行。その後、医療コンサルティング会社に勤務し、2002年、株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団の前身である医療法人相生会に入社。CRO事業を行う関連会社の上場準備に携わるなどの経験を経て、2014年、早稲田エルダリーヘルス事業団の3代目代表取締役社長に就任、現在に至る。

 

株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団

〒108-0074 東京都港区高輪4-24-58

TEL 03-5447-5470

<早稲田イーライフ> http://www.waseda-e-life.co.jp/

 

 

 

◆2016年7月号の記事より◆

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから