株式会社GoodMoneygerグッドマネージャー清水俊博が変える、日本の「投資観」
株式会社GoodMoneygerグッドマネージャー清水俊博が変える、日本の「投資観」
◆取材:加藤俊 /文:菰田将司
2015年4月に設立した株式会社GoodMoneyger(グッドマネージャー)は、ウェブで簡単に登録、投資のサポートをしてくれる『資産運用AIアドバイザー VESTA(ベスタ)』という投資ツールの提供と、投資家および学生向けの金融セミナーを主催している。
設立者清水俊博氏は、「金融危機への対応を知らずに投資をするのは、交通ルールを知らずに自動車で運転するようなもの」と言う。彼は日本の「投資」に対する見方を、今、根本から変えようとしている。
ギャンブルではなく、戦略
主力サービスは、ロボ・アドバイザーという、近年アメリカで人気が出てきている資産管理サービスだ。ウェブで自分の資産・家族構成など基礎情報を入力すると、人生で必要な資金などを算出、それに合わせて資産運用のアドバイスをしてくれる。
「私の世代は、”年金が貰えない初めての世代”になるのではないかと心配しています。そのため、資産を自分で準備する必要性はこれまで以上に高くなっていると思います。
ただ、金融のノウハウも分からないのに投資に手を出すのは、交通ルールも分からないのに自動車で運転するようなものです。
私たちの提供するサービスは、個人投資家が自動車を運転する際のアシスト役、クルマのブレーキ補助と考えていただければと思います。普通の人が目一杯ギリギリまで走らせてしまうところを、プロが危険を知らせてくれる、というようなイメージです。
日本では投資家の半分以上は投資に失敗しているといわれています。これまでは私の周りでも、うまく投資できていない方はいらっしゃいました。自分のカンで勝負していたり、身の丈以上に大きな金額で投資をしていたり。そうした状況こそ、投資がギャンブル的だと思われている原因ではないかと思います。
しかし、知識があれば戦略が立てられます。私たちは、できるだけ投資での失敗が減るように、ストラテジーを提案しています。」
トレーダーならば、他人よりいかに儲けるかを考えるだろう。しかし、一般の人にとってはそれよりまず、できるだけ損しないことが大事だ。だから「どの銘柄が儲かるか」ではなく「どう危機に対応し、中長期的な視点で資産を形成するか」に焦点を合わせている。
「ウチの優秀なスタッフとともに『不必要にリスクを取らない、不要なリスクは避ける』というストラテジーを考えています。リーマン・ショックといった経済危機やマーケットの大きな下落などが予測される時に、お客様に情報を事前にお伝えしていきたいと考えています。
台風が近づいてきているのに海へ遊びに行くと危険ですよね。投資も同じで、マーケットが暴落する可能性が高まっている時にリスクを取って投資するのは得策とは言えません」。
プロだからこそ気づくマーケットの変化を伝え、危機をできるだけ回避する。もちろん、危機の大きさや、暴落などが起きる正確な日時まで全てを完全に当てることはできない。しかし「そろそろ危ないな」という兆候を捉えることは可能だ。
「天気予報のように『今日の市場の予測』もFacebookでお知らせしています」。清水社長の目は、常に個人投資家に向けられている。
「投資で損してしまう人を減らしたい」
「会社が潰れるってこういうことなんだな、と実感しましたね」
清水氏が京都大学経済学部を卒業後に入社したのはリーマン・ブラザーズ証券会社。2008年4月のことだった。当時、全米第四位、会社の格付けもAAAだった押しも押されもせぬ大手金融会社の破綻が日本経済に与えた影響は言わずもがな。
清水氏が入社した際には、既にサブプライムローンの焦げ付きに端を発する不安感が高まっており、先行きが怪しくなっていた。
「4月から研修期間だったのですが、その時から既に会社が危ないのではと言われていましたね。私自身はトレーディング業務とは無縁で、サブプライムローンなどを扱うような部署でもありませんでしたが、全社的に退職する人も増え、お客様からも、「お宅は危ないから」と言われて取引を断られることもありました」。
そして新卒入社から半年後の9月15日。アメリカ本社で6〜8月期の純損失39億ドル、赤字決算が公表されると、事態は急転直下。負債総額約6000億ドルという史上最大規模の倒産となった。
リーマン・ブラザーズと取引のあった会社にも、連鎖的に倒産の影響が波及。その後アメリカ経済への不安から、全世界同時不況、百年に一度ともいわれる「リーマン・ショック」を引き起こす。
「それまでも、いつ倒産してもおかしくない、という状況ではあったので予感はありました。9月15日は祝日で会社が休みだったんですが、あの朝、同僚から連絡があって「ニュースを見ろ」と。
そこでテレビをつけたらアメリカ本社が映っていて「倒産した」とのニュースが。唖然としましたが、とにかく情報をと頭を切り替えて出社し、社員を集めた集会に出席しました。
しかし、集会では、ただ「倒産ということになりました」と。……その日から全てが変わりました。急にバイク便など法人契約払いだったのものが、個人の現金立替払いになるんですよ、倒産したら。社内にあった無料ドリンクコーナーが現金払いになったり。
あとは、これまでのお客様へのご迷惑を最小限にすべく、お客様へのご説明や引継ぎなどにお伺いしたのを覚えています。新卒で担当した仕事が倒産後の引継ぎ事務というのもなかなかないと思います。
やはり社会にご迷惑をかけたので、色々な方からお叱りをいただくこともありました。その時は本当に申し訳なく思いました。
最終的には野村証券さんがリーマン・ブラザーズの日本事業を引き受けてくださることになったのですが、それが確定するまで、今後どうなるのか全く見当もつきませんでした。次の仕事を見つけようにも、景気が劇的に悪化する中、研修程度しか業務経験のない新卒1年生に仕事のオファーをくれるところはなかなかありません。
色々なお叱りを受けながら、引継ぎなどの仕事をこなしつつ、次の仕事を探すのは、とても不安で精神的にもなかなか辛い体験でした。」
自分の働く会社の倒産。なかなか無い経験を、清水氏は新卒入社後、わずか半年で味わうことになった。
「一番堪えたのは、個人投資家など、リーマン・ショックのために大きな損を出されてしまったり、困った状況に陥ってしまわれたりする方が多数いらしたことでしょうか。金融というものの恐ろしさ、影響の大きさを痛感しました」。
リーマン・ショックは多くの方を傷つけることになってしまった。特に、個人投資家で損を被った方は多いのではないだろうか。こうしたケースが避けられるならそれに越したことはない。
そのため、投資家一人一人も金融リテラシーを高めていく必要性は理解できる。リーマン・ショックにも前兆はあったはず。知識があれば、避けることもできたのではないか。
「金融は稼げるなら良いというものではない。如何に大切な資産を守るか。増やすだけでなく、危機に備えることも考える」
ある意味虚業です、と清水社長は言う。金融は、実態として掴みにくいということをキモに命じておかないと非常に危険ということを実感した、貴重な経験だった。
投資を教えるということ
「日本の投資家の多くが失敗している大きな理由の一つは、ルールを学ぶ機会がないこと。アメリカでは大学のローンや401K(確定拠出年金)など、金融が身近にある。アメリカの人口の約50%は投資などの経験があるとのデータもあります。
そのため学校や民間でも金融教育を行っている機関がたくさんあります。それに対して『教習所も無いのに良さそうなクルマだけが出回っていてすぐに運転してしまう』のが日本。
そして、失敗するもう一つの理由は『良いクルマに見えて実は悪いクルマも数多く出回っている』こと。金融商品の売り手から、都合のいい情報しか与えられず、売りつけられて、損してしまっている方もいらっしゃるかもしれません」
金融商品の売り手の多くは手数料で利益を得ているので、実際に運用益が出ているかどうかは関係ないことも。そのため、預けた資産は減っているのに、業者だけ儲かっているということも多々ある。
「だから、若い時から金融の知識をしっかり持つことが重要だと思い、トランプのようなカードを使って勉強できるものを考えました。ゲーミフィケーションとして遊びながら金融を学ぶことができます。
401Kなんて、私も新卒の時に教えてもらっただけなんですが、自分の退職金を自分で運用するというとても大事なことなのに、何も知らない個人に丸投げにされてしまう。
そうした事態を改善できればと思い、ゲームを通して投資に触れていただくことを始めています。また、Z会さんの関連会社や、リンクアンドモチベーショングループのモチベーションアカデミアさんと協力して中高生に使っていただく取り組みも行っているですが、社会勉強にもなると思います」。
早く販売して多くの人に知ってもらいたいのですが、問題は、講師の人がしっかり教えないとただのゲームになってしまうこと(笑い)。
それでも十分役に立つとは思いますが、折角ならしっかりと知識を身に着けていただきたいので試行錯誤を続けています。また、次々出てくる新しい時事問題に対応し、随時アップデートしてバージョンアップ版を流していく必要もあると思います、と清水氏は語る。
「投資をギャンブルと考えている人は多いし、投資の雑誌や情報サイトも、いかにリターンを出すか、と考えている。ただ、投資の本質はリターンだけではないとは言えませんでしょうか。
日本人は”ペイフォワード”というか、何かのために先行投資する、ということがあまりうまくないのかなと思います。資本主義の発端である、必要とされることに投資をする、という文化が弱いのかなと。それを理解するだけでも大きく変わるでしょう。
資本主義経済は常に拡大し続けていて、とどまることがない。だから経済を知っておくことは本当に大事だと思います」。
海外では学校の他にも、金融のNPOスクールなどもあり投資を学ぶことができる。将来的には私たちもそうしていきたい、と語る清水氏に、今後の課題は?と尋ねると、
「私たちのストラテジーには自信があるのですが、やはり信頼・認知度という点ではまだまだです。投資に関わる他のサービスとの違いを分かっていただくことができればと思っています」
……リーマン破綻の後、幾つかの金融会社で働いていた清水氏は、その時の仕事にそれなりにやりがいを感じていたという。
では、なぜ起業したいと思ったの?と尋ねると「これまでの金融の会社では、週に120時間ほどハードに働くことも多かったのですが、本当に自分の仕事が社会の役に立っているのかと疑問に思うこともありました。
自分で何かを生み出す仕事がしたい、という思いが胸のコップの中に少しずつ溜まって、それが溢れたんです」と、微笑んだ。
清水俊博(しみず・としひろ)氏…1984年8月 兵庫県生まれ。京都大学経済学部を卒業後、リーマン・ブラザーズ証券に入社し、M&Aアドバイザリー業務に従事。外資系証券会社、プライベートエクイティファンドなどで、金融ならびに経営に関する幅広い業務を経験。2015年、株式会社Good Moneygerを創業し、現在に至る。
株式会社Good Moneyger
東京都港区南青山1-1-1