オビ 企業物語1 (2)

株式会社ワイズ – 介護保険制度の在り方に一石を投じる 新しいリハビリ・ビジネスへの挑戦

◆取材:綿抜幹夫 /人物撮影:高永三津子

 

株式会社ワイズ/代表取締役会長兼CEO 早見泰弘氏

株式会社ワイズ/代表取締役会長兼CEO 早見泰弘

 

 ターゲット層は60代以下

脳梗塞のリハビリに特化した事業を展開する株式会社ワイズが元気だ。創業2年目にして脳梗塞リハビリセンター5施設をオープンさせ、今後もエリア拡大を計画している。

大小さまざまな企業が高齢者市場に参入して久しいが、介護施設は増加するいっぽうで、近年では老人福祉事業者の倒産も増えている。超高齢社会の日本における介護関連ビジネスの未来は手放しに明るいとは言えない状況の中、同社が提供する新しいビジネスモデルはどのようにして生まれたのか?

代表取締役会長兼CEOの早見泰弘氏に伺った。

 

日本でただ1つの脳梗塞に特化した自費リハビリ施設

株式会社ワイズ (1)脳梗塞リハビリセンター

リハビリ・ヘルスケア事業を行う株式会社ワイズが現在、もっとも力を入れているサービスが脳血管疾患後遺症特化型リハビリ施設「脳梗塞リハビリセンター」である。その名の通り、脳梗塞などの脳血管疾患により後遺症を患った患者のためのリハビリ施設だ。

保険制度を利用しない、いわゆる自費による脳梗塞に特化したリハビリ施設は日本において同施設しかない。

さらに特徴的なのは、主なターゲット層を60代以下に設定している点である。60代以下とはつまり、現役で働いている世代を指している。

 

脳血管疾患の総患者数は現在、117万人を超える(「平成26年 患者調査の概況」厚生労働省)。脳血管疾患は一命をとりとめても身体の麻痺や運動機能低下、言語障害などの後遺症が残るケースが多く、脳出血を含めた脳卒中全体で後遺症を持つ患者数は発症者の約6割と言われている。

それらの後遺症に対しては保険制度を利用し、病院やデイサービスなどでリハビリを受けるのが一般的である。

しかし、そうした施設ではADL(日常生活動作)の改善や維持に向けたリハビリは行われるものの、それ以上の機能回復が見込めないケースが多い。ADLとは食事や排泄、着替え、入浴といった日常生活を営むための基本的な動作を指し、要介護者や障がい者が自立的な生活をどの程度送れるかを評価する指標でもある。

 

ところが、ADLが改善されたとしても、それが社会復帰とイコールで結ばれるわけではない。パソコンを操作する、道具を使って作業をする、ビジネス文章を読解し自分の考えを相手に伝える等、仕事をする上で欠かせないこれらの動作にはADL以上の機能回復が必要だ。

同施設は、自費だからこそ可能なサービスによって「社会復帰」という埋もれたニーズに応える、まったく新しいビジネスモデルといえる。

 

 

大病をきっかけに新たな起業を決意

株式会社ワイズ (7)脳梗塞を発症し、右半身麻痺となった理容師の男性(50代)。週に1回リハビリセンターに通い続け、最初は持つことさえできなかったハサミが少し動かせるようになってきたという。「早くカミソリも使えるようになりたい」と今後の目標を語る。

2000年に介護保険制度が施行されて以降、大手企業を含めて、さまざまな事業者が介護サービス分野に参入し、競合がひしめき合う現在、同社のサービスはどのようにして生まれたのか。それは早見氏が40歳のときに体験した大病がきっかけだった。

 

「1996年、大学を卒業した年にインターネット関連の会社を立ち上げました。いわゆるITベンチャー企業の走りとでもいうべき世代に当たり、当時は大手企業から出資を受けるなど、それなりに大きな会社へと成長させました。それから約20年間、インターネット業界のトップランナーとして走ってきた、そんな自負を持って仕事に取り組んできましたが、3年前、40歳になった年に腰椎椎間板ヘルニアで入院してしまいました。手術後、寝たきりの状態になり、病院のベッドで過ごしながら、気持ちがどんどん落ち込む毎日でした。

しかし、その状況を変えたのがリハビリです。少し歩けるようになると、少し気持ちが前向きになる。そんなことを繰り返すうちに、やがて歩けるまでに回復し、再び職場に戻ることができました」

 

「もっと世の中の役に立つ仕事ができないか」そんな思いを心の片隅に抱いていたタイミングでの大病であり、リハビリによる歩行困難からの回復であった。

「偽善的にも聞こえるかもしれませんが、〝歩く〟という今まで当たり前だったことさえできなくなった私にとって、リハビリによって社会復帰できたことは大きな感銘でした。そこでリハビリに関する事業が何かできないかと思うようになったのです」

 

 

高齢者施設に集まったのは予想よりも若い世代

株式会社ワイズ (8)同社では、リハビリ期間が1週間〜1カ月の「短期集中リハビリプラン」も行っている。通常2時間程度のリハビリを、徹底して1日5時間、じっくりと時間をかけて行う。また、短期間に見合う目標を設定し、リハビリ前後にデータを取ることで改善状況を分かりやすく説明してくれる。

大病を患った翌年の2014年、同氏は株式会社ワイズを設立する。最初に行った事業は高齢者を対象としたデイサービス「アルクル」だった。

「内装のデザインなど施設の雰囲気を若々しくしたり、リハビリのプログラムを充実させるなど他社との差別化を図りました。おかげさまでご好評をいただき、施設はあっという間に利用者様で埋まりました。しかし、予想外のことが起きたのです。アルクルは介護施設として開設したわけですが、蓋を開けてみると60代以下の若い世代の利用者様がとても多かったのです」

 

はじめはその理由が分からなかった。デイサービス開設当初に送迎の運転手をしていた同氏は、ある利用者の女性と会話を交わすようになり、彼女の言葉にその理由を見つけるのであった。

「その方は私と同い年で、いわゆるキャリアウーマンでした。ところが脳出血で倒れ、要介護5という最重度の介護が必要な状態になってしまったのです。病院でのリハビリは保険制度の関係から180日間という期間の制限もあり、結局、思うような機能回復が見込めなかったそうです。『どうしても職場復帰をしたい』というその思いから当施設に通われていたのでした」

 

前述のように、現行の保険制度によるリハビリはADLの改善や維持が目的であり、それは言わば、現役を引退した高齢者のための制度である。確かに脳血管疾患は高齢者がかかりやすい病気ではあるが、30代でも発症することがある。そうした勤労者世代にとって病院などでのリハビリには限界がある。

アルクルはリハビリに特化したデイサービスだ。何らかの後遺症を抱えながらも職場復帰を目指す勤労者世代がその噂を聞きつけ、自然と集まって来ていたのであった。

 

「脳梗塞などで手術をして退院したら、病院の外来に通うか、デイサービスなどの介護施設に通うか、訪問リハビリを受けるか、現在のリハビリ環境にはその3つしかありません。いずれも保険制度を利用したもので、社会保障という点では素晴らしいことかもしれませんが、勤労者世代にとっては期間や時間が制限されたリハビリしかできないことや、高齢者に混じって、高齢者と同じメニューを行うしかないのが現状。

それでは当然、職場復帰を目指すのは難しくなる。そこでマンツーマンで個別のリハビリニーズに応えられる、社会復帰を目指す方へ向けた脳梗塞リハビリセンターの開設を構想しました」

 

 

保険適応外だがマンツーマンでの徹底したリハビリを実施

株式会社ワイズ (9)脳梗塞で右下肢麻痺となった70代女性。短期集中プランを利用し7日間連続でリハビリを受けたところ、杖なしでトイレまで歩けるようになり、椅子からの立ち上がりもスムーズになった。

現行のリハビリ環境では、週に1回40分程度の病院外来リハビリ、あるいはデイサービスでのグループリハビリが主に行われている。いっぽう、同施設ではリハビリの専門職である理学療法士、作業療法士や言語聴覚士らが利用者の症状に合わせてマンツーマンで2時間のリハビリを徹底して行う。

また、世界保健機関(WHO)が脳卒中の後遺症への効果を認める鍼灸を取り入れていたり、個人の仕事に必要な道具を用いて訓練を行ったりと、社会復帰を目指すためのプログラムが取り揃えられている。

いずれも保険の適応外であり、基本的に1回のリハビリには1万5000円の費用がかかる。しかし、同施設を〝卒業〟した利用者は一様に「安かった」と言うそうだ。

 

「保険制度を利用しない分、どうしても費用はかさむ傾向にあります。しかし、症状の程度やリハビリ頻度にもよりますが、6カ月のリハビリで目標まで改善するケースが多いのも事実です。

その場合の費用は40万円前後になりますが、この金額で社会復帰できるのであれば必ずしも高くはない、とご判断される利用者様も少なくなく、実際にいらっしゃっているのは富裕層の方ばかり、という訳ではありません」

 

 

2度目の起業だからこそ社会的意義を果たすために

同施設では目標設定とともに目標期間も定めるという。保険などの行政からの支援を受けない分、事業運営側も、自費で通う利用者も〝卒業〟を目指している。

 

「確かに安くはないかもしれませんが、その代わり漫然としたリハビリではなく、卒業へ向けて最短で最大の成果を出す努力をしています。現在、東京、千葉、神奈川に当施設はありますが、2014年9月に最初のセンターを開設して以来、利用者様は全国から集まり、その数は増加傾向にあります。

利用者様を年代別に見ると働き盛りの世代が大半を占め、ご高齢の方であっても、皆さん、夢や目標を諦めていない方たちばかりです。そうした方々をサポートする、その社会的な意義を果たすことこそが2度目の起業の意味だと思っています」

 

同社では今後、全国的に同施設を増やしていく予定だという。また、山間部など物理的に施設に通えない利用者へ向けて、過去の経験からITを利用したリハビリのプログラムも検討しているそうだ。

WHOによれば、日本人の平均寿命は84歳である。同社の事業は第2、第3の人生をより明るく照らす取り組みであり、勤労者世代が職場復帰することは日本経済にとって歓迎すべきことである。現行の保険制度によるリハビリの在り方に一石を投じる意味においても同施設の存在意義は果てしなく大きい。

 

【脳梗塞リハビリセンター】

フリーダイヤル 0120-251-108

http://noureha.com

 

【別掲】病院ともデイサービスとも異なる、まったく新しいリハビリサービス

病院では体験することのない「理学療法士によるアプローチ」、東洋・西洋の枠を超えた本物の「鍼灸」、なぜできないのかを見極め、リハビリ効果を増幅させる「言語聴覚士によるアプローチ」、日常作業での上肢の動かし方を思い出させて学習する「作業療法士によるアプローチ」。

これらの他にも、身体を動かすことでリハビリの効果を定着させる運動療法や、反射区を通じて脳を刺激する「脳卒中リフレクソロジー」など、様々な脳血管疾患による後遺症リハビリを完全マンツーマンで受けることができる。

株式会社ワイズ (2)

理学療法士によるアプローチ

 

株式会社ワイズ (3)

鍼灸

 

株式会社ワイズ (4)

言語聴覚士によるアプローチ

 

株式会社ワイズ (5)

作業療法士によるアプローチ

 

株式会社ワイズ (6)

レッドコード等を用いたトレーニング

 

 

オビ ヒューマンドキュメントプロフィール

早見泰弘(はやみ・やすひろ)氏

1972年、千代田区神田生まれ。1996年、法政大学経済学部卒業後にWebマーケティング会社を設立、代表取締役社長に就任する。大手企業との取引を中心に業界有数の会社へと成長させ、2004年には東証一部上場企業と統合、インターネット部門等の責任者として従事。2014年2月、株式会社ワイズを設立、リハビリ・介護を中心とした事業を展開し、現在に至る。

株式会社ワイズ

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