オビ 企業物語1 (2)

【この経営者に注目!】

多角的な戦略で地方の中小企業と中国を結ぶ

貿易のすべてに精通したエキスパート

 

株式会社ジャパン・エクスプレス・チャイナ/代表取締役
JXCコーポレーショングループ/代表 水野哲也氏

◆取材:綿抜幹夫

 
インターネットの発達により企業のグローバル化が進む昨今。しかし、中小企業にとって海外との取り引きはまだまだハードルが高いのも事実だ。そうした中、「The world’s local trading company(全世界の地方貿易会社)」をキャッチフレーズに地方の中小企業の販路開拓を支援し、地方自治体や国とも連携し地方創生に取り組み、入管や通関、物流、不動産手続きなどを含め、トータル的に貿易事業を手がける株式会社ジャパン・エクスプレス・チャイナが急成長を続けている。創業から7年、37歳という若さにしてグループ全体で100人以上を率い、100億円を超える年商を叩き出す水野哲也社長の手腕とは? その素顔に迫った。

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尾鷲の海産物を使用したフェアを開催するためマグロの仕入れを行う

 

 

大学受験失敗からの奮起

行政書士、通関士有資格者、宅地建物取引士、日商簿記能力検定一級……水野氏の名刺の裏には実にさまざまな取得資格が列挙されている。勉強家であることに違いないが、「もともとは大学受験に失敗したんですよ」と笑う同氏。挫折を味わった18歳の青年は、その後、産業能率短期大学に通う中でさまざまな資格取得にチャレンジしていった。

「大学に行った友人らに負けてたまるかという一心で勉強に明け暮れました。学校を卒業する頃、取得したいくつもの資格を眺めて〝ああ、頑張ったな〟と感慨にふけったものです」

その感慨はやがて大きな自信へと変わっていく。2000年春、二十歳になった同氏は短期大学卒業と同時に、取得した第一種情報処理技術者の資格を活かしてソフトウェア開発会社を起業した。
「サラリーマンになる選択肢はありませんでした。アルバイトをしながら頑張って取得した資格ですから、最大限に活用できるよう、勤務時間や給料に縛られずに働ける仕事がしたかったんです。それで起業という考えに至りました」

麹町本社(東京都千代田区)

麹町本社(東京都千代田区)

 

点と点が線になった仕事

最初は知人のつてから始まった。ひとつの仕事が認められると、また新たな顧客の獲得に繋がっていく。それはある種のビジネス的な成功とも言えたが、そこに企業理念はなく、生活のために、〝ただただ目の前の仕事をこなしていく〟そんな毎日でもあった。起業してから7年が過ぎた頃、「数々の資格をもっと有効に活用できないだろうか?」そんな思いが頭をもたげた。そこで取り組んだのが貿易の仕事だった。

実は、同氏はソフトウェア開発会社と並行して、行政書士(2012年4月15日登録)の業務も行っていた。そのため、在留資格や就業・就労ビザといった入管業務に精通していた。また、通関士の有資格者だったため、国際物流の手続きに関してはエキスパート。加えて、貿易には国境を越えた人の移動があり、案件によって不動産の取り扱いが必要な場合がある。そうした際には宅地建物取引士の資格が活かされた。もちろん、ネット販売や在庫管理を行うシステム開発の実績も強みであった。

行政書士の中には税理士、司法書士などダブルライセンスを持つ者も少なくない。しかし、海外での事業展開に必要なこれだけの業務を一手に引き受けるスキルを併せ持つ者はそうはいないだろう。同氏にとって資格といういくつもの点がひとつの線に結ばれた仕事、それが貿易業だったのだ。

西川口営業所 倉庫・物流事務所

西川口営業所 倉庫・物流事務所

 

外国をテーマに掲げたワンストップサービス

それにしても業務内容が多岐に渡ると、「信頼」が重要なビジネスの世界において、企業として煩雑なイメージが付かないだろうか? しかし、若い頃から経営者としての経験を積んで来た同氏には、そんな疑念を払拭するだけの確固たる自信があった。

「二十歳で起業した当初は理念なんてありませんでしたが、今の会社は理念の塊みたいなものです(笑い)。当社は〝外国〟をテーマに掲げているんです。すべての事業において何らかの形で外国との関わりがあり、それが特色になっています。また、貿易とは人、物、金、情報、これらが国境を越えて動くことを意味します。その貿易のすべてに精通しているエキスパートが日本にどれだけいるでしょうか。商品を海外で売るためには貿易法務をはじめ、厄介な手続きやトラブルが発生するものです。中小企業、特に地方のお客様からは貿易事業に関するすべての相談に対応できる当社のワンストップサービスが非常に喜ばれています」

中国国内の自社店舗、海外に積極的に出店予定

中国国内の自社店舗、海外に積極的に出店予定

 

優良な中小企業の商品を発掘する喜び

2009年7月、中国を対象とした貿易業を中心に株式会社ジャパン・エクスプレス・チャイナは産声を上げた。当初は輸入に力を入れていたが、輸入業務には重大なリスクが伴った。それは外国人が発する「大丈夫」という一言の危うさだ。
海外からある製品を輸入する場合、作っている環境に問題はないか、その商品自体に欠陥はないか、いくつもの段階で自分たちの目による厳重なチェックが必要となる。事実、取り引き先の「大丈夫」を鵜呑みにしたことで、不良品が送られて来てしまい、大きな損失を生んだケースが設立当初には頻発した。
「その点、日本製品のクオリティや安心安全に対する意識の高さは世界中の誰もが認めるところでしょう。円安へ為替が変化したこともあり、輸出中心の業務形態にシフトチェンジしていきました」

同社は大手企業と比べて規模が小さい分、小回りが利く強みを持つ。つまり、少数ロットであってもコストをかけずに日本製品を中国で販売することが可能なのだ。もちろん、広告を大量に打てる有名企業の商品に注文が集中するのは当然であるものの、中国における同社の信用が高まるにつれ、無名の、しかも地方の中小企業の商品であっても近年、受注が伸びているという。

「例えば、当社が扱う商品の中には盆栽があります。生け花芸術が盛んな日本の盆栽は中国で人気があり、販売数は年々伸びているんです。あるいは日本で無名な地方の民芸品やお菓子なども同じように受注が増えています。地方の中小企業と提携し、競争の少ない商品を販売することで利幅が確保できるため、少数ロットからの輸出も可能です。日本の優良な中小企業の商品を発掘して海外に輸出し、その結果、日本の地方経済の活性化に貢献できれば、日本人としてそれほど嬉しいことはありません。日本の商品を海外へ携帯アプリを利用して販売するという経営革新計画の承認を東京都知事より受けたので、さらに日本製品の販売を加速させるべく取り組んでいます」

 

多角経営を行う意義とは? 全体で地方創生へ

ところで、ふるさとプロデューサーなる肩書きをご存じだろうか。中小企業庁が行う「ふるさと名物応援事業」において、地域の産品の開発や販路開拓、ブランド化などの取り組みを進める中核的人材のことで、同氏は2015年度のふるさとプロデューサー育成対象者に選ばれている。研修先の三重県尾鷲市では、間伐材が売れなかったり、後継者不足などの理由から林業が衰退し、荒廃した山の土砂崩れが深刻な問題となっている。そこで尾鷲ヒノキの間伐材を入浴木として付加価値をつけて販売する「100のありがとう風呂」という企画が実施され、同社は独自の販売ルートを活かして、中国でのキャンペーンを展開した。

浅草に、年間5千億以上(観光庁)といわれる〝爆買い〟をする中国人観光客向けの免税店をオープン、中国国内においても日本製品を販売するための自社店舗を3つの地域でスタートさせた。加えて、飲食事業を手がけるグループ会社である株式会社MUZENの取締役会長に就任、渋谷、水道橋、神保町などで大型店舗の居酒屋も運営している。ふるさとプロデューサー育成支援事業では、三重県尾鷲市の商工会議所等との協力のもと、尾鷲の海産物を使用したフェアを飲食店で展開した。株式会社MUZENの経営する店舗は座席数で300席ほどあり、毎日1000人以上のお客様が来る。1カ月で3万人以上の計算であり、そのお客様に特定の地方の特産物を使用した料理のフェアを開催することで、地方の新しい食の魅力を知ってもらうことを通して地方を応援すると同時に、飽きられない店舗、何回も同じ客が足を運んでくれる店舗となっている。

また、経済産業大臣・金融担当大臣認定の経営革新等支援機関として地方企業の支援を実施している。経済産業省の中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業専門家派遣にも登録されており、経営支援にかかる謝金・交通費・宿泊費等は国費負担でアドバイスを受けることが出来る他、補助金を活用した支援プランには定評があり、小規模事業者持続化補助金、創業補助金等の中小企業者にとって使い勝手の良い補助金を活用した、お客様に経済的な負担を強いない経営支援コンサルティングを実施している。さらに国の地方創生に関する交付金を活用した地域活性化策を地方公共団体にアドバイスしたり、交付金の申請書を書いたりもしている。

もともと多くの業態を持つ同社であるが、さらなる多角経営に乗り出した理由には「仲間を増やしたい」という思いがある。
「誰が偉いということではなく、社員が主人公となり、みんなが一丸となって生き生きと働ける環境を作りたいんです。最初から質を求める、収支を高める経営方法もあり、そちらのほうがリスクは少ないかもしれません。ただ、当社はまだまだ発展途上の会社であり、その考えは現段階では馴染みません。質を求めるためにも、まずは仲間を集め、ワークグループをするなどしていろいろなアイディアを出し合い、私の知識・経験を全員に教えて、人材を社内で育て安定した地盤を築く必要があると考えています」

ふるさとプロデューサーの修了証

ふるさとプロデューサーの修了証

尾鷲フェアの新メニューを実際に試食する水野氏

尾鷲フェアの新メニューを実際に試食する水野氏

尾鷲フェアのメニュー表

尾鷲フェアのメニュー表

 

地域発コンテンツを活用した地方創生
日本文化の輸出へ

同社がおもしろいのは、一見、貿易業とは無縁に思える飲食業であっても、例えば、尾鷲や鹿児島の食材を使用したフェアを実施するなど地方創生事業と関連したサービスを提供している点だ。今後はさらに飲食業に注力し、貿易事業で培った物流ネットワークを活かして日本の地方の食材を活用した飲食店を中国国内でフランチャイズ展開する計画も進んでいる。

「人や物が行き来をし、国と国を繋ぐ。つまり、貿易業は世界平和のための活動だと思っています。戦争が起きるのは人や物や情報の交流が不足しているからです。日本も昔は、地域ごとに藩があり、お互いに争っていましたが、今は、争いがありません。それは交流を通じて国としての一体感が生まれたからであると思います。他国の人との交流関係が貿易を通じて広がったならば、地球人としての仲間意識を持ち、世界中から戦争がなくなる日がくるはずです」

また、2015年11月に地域経済活性化に資する放送コンテンツ等海外展開支援事業費補助金の交付決定を受け、12月7日にハワイ島のヒロ高校講堂・ハワイ大学ヒロ校にて「Sounds Of Peace」を開催している。このイベントでは、沖縄出身のメジャー歌手が、沖縄戦の悲劇を歌った「さとうきび畑の歌(沖縄方言版)」のコンサートを実施、広島県出身のハワイ大学教授の本田正文氏による日米関係の歴史に関する講義とセットで行われた。沖縄観光コンベンションビューロー・沖縄県物産公社の協力、沖縄県文化協会の後援を得るなどして実現した。

浅草にオープンした中国人観光客向け免税店「ECO浅草」

浅草にオープンした中国人観光客向け免税店「ECO浅草」

 

 かつて、資格といういくつもの点が結ばれて貿易業に帰結していったように、同氏はビジネスの世界で新たなる点を描きはじめている。そして国や地方自治体、他の企業も巻き込み、それらが次に結ばれるとき、誰もが予想しなかった大きな波を起こすのではないか。そんな期待を言葉の端々から感じるのである。

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みずの・てつや氏…

1979年、福井県福井市生まれ。産業能率短期大学を卒業後、ソフトウェア開発会社を設立。その後、2009年に株式会社ジャパン・エクスプレス・チャイナを創業し、代表取締役として現在に至る。飲食店を経営する株式会社MUZENの取締役会長も務める。

◎取得資格
行政書士(東京都行政書士会千代田支部所属)
申請取次行政書士(東京入国管理局)
通関士有資格者(財務省)
第一種情報処理技術者(旧通産省)
宅地建物取引主任者(国土交通省)
日本商工会議所簿記能力検定一級(日本商工会議所)
登録キャリアコンサルタント(厚生労働省)
第二種電気工事士(経済産業省)

 

株式会社ジャパン・エクスプレス・チャイナ
・資本金:3,000万円
http://www.jp2cn.jp

〈本社〉
〒102-0083 東京都千代田区麹町3-5-8 麹町センタービル5F
TEL 03-3380-8531

〈営業所・倉庫〉
〒332-0021 埼玉県川口市西川口3-23-14 JXCビル
TEL 048-299-7831

 

★グループ会社(一部)※誌面の都合により、特に地方創生に取り組む会社を紹介

株式会社永美ワールド(本社中野区)/代表取締役社長 傅 瑜
東京工業大学卒、外国人で唯一のふるさとプロデューサー修了生。これまでの個人輸出入及び代理購入などのビジネスから、日本製品を中国向けにローカライズして、プロデュースする新しい試みに挑戦。グループ代表とも共同で「尾鷲ヒノキの間伐材を利用した入浴木」の中国展開を実現した。これからも外交人面線で日本人も気付かない日本の魅力を探し出しプロデュースして中国へ紹介してゆく。

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株式会社MUZEN(本社新宿区)/代表取締役社長 黄建雄
株式会社MUZENでは、地方の魅力あふれる食材を使用したメニューを顧客に提供すると共に、地方の食文化を都会に提案する活動をしてゆきたいと考えます。単に、食材を仕入れるだけではなく、地方の人たちと都会の人たちとの交流の場、地方の特徴ある食材の首都圏展開の場や、海外展開のためのローカライズ(現地化)の場として活用できる店舗となっています。

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株式会社誠信物産(横浜市)/代表取締役社長 張 学斌
日本の商品の中でも、そのままでは中国の消費者で受け入れられないものがあります。それは商品が悪いわけではなく、パッケージだったり、説明だったり、商品の1個あたりの分量だったりします。そのような海外で需要のある日本製品をリパッケージするなどして海外展開できるように工夫して海外展開できる仕組みをつくっています。

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同社が開発したホタテの粉末

同社が開発したホタテの粉末

 

◆2016年5月号の記事より◆

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