オビ 企業物語1 (2)

◆Special Voice

歩く行為は皆同じ。

あらゆる人に、ウォーキングを通じた自己実現を

 

●株式会社Fashionista/ウォーキングディレクター 髙木真理子氏

◆取材:綿抜幹夫

 

モデルからウォーキング講師に転身した髙木真理子氏。長年のキャリアを通して、一流モデルや芸能人も多く教え子に持つが、現在はOLやサラリーマン、また知的障がいのある人たちやその保護者を対象にウォーキングの普及に尽力している。「ウォーキングはモデルに限らず、誰にとっても重要」と語る同氏の思いとは……。

 

◎モデルからウォーキング講師へ

株式会社Fashionista01株式会社Fashionista ウォーキングディレクター 髙木真理子氏

モデルという職業を誇りに

 身長の高さを活かせることから洋服が好きになったという同氏。純粋にファッションが好きという動機で、20歳のときモデルとしてデビューした。パリコレにも出演するなど広く活躍していたが、当時からモデルという職業の「潰しの利かなさ」を痛感していたという。

 「大学行ってないでしょ?とか、パトロンがいるんでしょ? 月にいくらもらってるの?とか、そういうことをよく言われました。モデルの地位ってすごく低いんだなって」

 ファッションショーの後のパーティの席で、面と向かって侮辱されたことは一度や二度ではなかった。しかし、そこでへこたれないのが同氏である。

 「モデルという仕事は、誰にも雇われず、自分が経営者。自分がオーディションで頑張って仕事を取り、その分のギャラをいただける。頑張ったぶんだけもらえる仕事だということを誇りに思っていました。だから、第一線を退いた後も、モデルというキーワードで行くと固く決意していました」

 

ウォーキングを教え始める

 30歳で出産、出産後2カ月で再開したのが、モデルになりたい人たちを相手にウォーキングを教える仕事だった。当時はウォーキングを専門に教える職業はなく、以前にも知り合いから頼まれ、モデル業のかたわら教えた経験があった。

 かつての生徒や、新たに同氏に習いたいという人からの要望に応える形で、プライベートレッスンを行う「M・R Walking Studio」をオープン。生徒たちが自ら、スタジオ探しやレッスン回数、料金設定まで助言するなど、開設に向け協力したという。その生徒たちの中の1人は男性だが、今でも通って歴史を一緒に歩んでいる。

 「歩き方を変えるだけで、人が変わっていくのが面白いと思った」と振り返る第二の人生は順調で、業界の中では知られるウォーキングインストラクターとしての地位を確立。月に400人ほどを教えていたという。しかし、半年から1年で生徒が卒業し入れ替わっていくことの繰り返しの中で、同氏は自分を見失ってしまう。

 「そうやってずっと教えているうちに、自分が何のためにやっているのか考えてしまうようになって。お金を稼げるとしても、自分の使命が何か分からない状態が嫌で。39歳のときでした。その時はすごく悩んで軽いうつ状態、2週間ほど何もしたくない、できない状態が続き、いったん仕事をストップしたんです」

 

一般人向けレッスンを開始

 使命ややりがいを感じられずにいた同氏にきっかけを与えたのは、知人らとの雑談だった。ざっくばらんな会食の席で、「一般の人にも教えられたらいいよね」という話が出る。そこから、人伝で生徒が集まり、一般人向けのクラスが発足。「日経ウーマン」で2000円の体験レッスン生を募集したところ20人のOLから応募があり、うち18人がその場で即入会だったという。「意外と、一般の人でもウォーキングを習いたいと思う人がいるんだな」という気づきを得たのが、転機となった。

 そこから少しずつ、いろいろな企業や団体からも依頼されるようになり、ウォーキングの重要性や必要性を感じ、同氏も自信や使命感を取り戻した。

 

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現役モデル時代に出演したコシノ ヒロコ(上)と、ヨウジ ヤマモト(下)のファッションショー

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◎モデルではない人にこそ

人の参考になる立場

 一般人向けに教えていると、モデルのウォーキングを一般人が教わる必要があるのか、という質問を受けることも多いという。しかし、ウォーキングに限らず、立ち居振る舞いや服装、表情といった要素は、どんな職業や人間関係においても重要だ。

 「洋服は誰でも着ているし、服装や姿勢、歩き方もそうです。たとえばこうしたインタビューの場でも、だらしない姿勢で『はい、はい……』と答えているのと、きちんとした姿勢で『はい、そうですね』と答えるのとでは、印象がまったく違いますよね。良い雰囲気の人にはまた会いたいと思うし、あまり清潔感がないなという人とはもう会いたくない。モデルに限らず、誰でも同じですし、意識さえすればビギナーにもできることだと思うんです」

 

自信につながる

 同氏の下に集う生徒たちは、自分に自信がない人が多いという。仕事にも意欲が湧かず、友人も少ない。自信を付けたいが、どうしていいかわからない、そんな生徒たちに共通するのは、身だしなみや姿勢に改善の余地が多いことだという。

 「服装もダサいし、靴もだらしない。髪はボサボサで、化粧もしない。ずっと恋人もいない。私は、男性にも言えることですが、女性には特に、まず靴を大事にしようと言うんです。靴にはその人の人格が写し出されていると思うんです。美しく磨かれた靴、そして低い靴から、徐々にヒールを高くしていく。そうすると、服装が変わり、ヒールによって姿勢が反るので、身体を起こさなければいけない。背筋が伸びて胸を張ると、今度は胸元を少し開けてみましょうよ、と着る服が変わってくる。すると、お化粧が必要になる。そんな風に、ヒールを履くことによって全身に連鎖していく。ズボンしか履かなかった人がスカートを履くようになるんです。ウォーキングに大切な美しい靴は、人を変身させる魔法の道具なんです」

 

モデルではない人にこそ

 靴や歩き方を変えたことによって、その人のすべてが変わっていく。同氏は「その人がだんだんキレイになっていくのがわかる」と語る。ウォーキングを習っていることを話していなくても、同僚から「最近キレイになったよね、変わったよね」と褒められる。「お化粧教えてよ」と声をかけられる。嫌だった仕事を好きになったり、人と会うことの多い営業職に転職したりする人もいる。出会った頃は他人と話さず伏し目がちだった人が、明るく積極的な性格になる。

 「そういう結果がどんどん生まれていますから、モデルじゃないから関係ないと思わずに、自分を変えてみて欲しいです」

 ウォーキングから連鎖して、人が変わっていく。一般人の方が、伸び代がある分、人生が劇的に変わることが多い。

 

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昨年12月20日に行われた「Fashionista Fashion Show & Party 2015」の様子。
大勢の観客の前でも臆することなく、全員堂々とランウェイを進んだ。

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メイクを施されているのはスマイルモデルのKurumiさん(ダウン症候群)。このとき撮影された写真は、同社発行のフリーマガジン「Just Smile!!」の表紙を飾った。

 

◎歩く行為は人類みな同じ

パーフェクトウォーキング

 同氏が教えるウォーキングは、歩くために必要な簡単な機能解剖学の知識を取り入れた独自のメソッドによるもの。生徒はOLなど女性のみだったが、現在は男性会社員も対象に、企業向けのセミナーや社員研修のプログラムとして「パーフェクトウォーキング」を展開している。歩き方が呼吸や健康に関係することが知られ、ウォーキングがモデルだけのものではないという意識が根付きつつあるのだ。

 さらに、同社認定のウォーキングインストラクターを養成する「Perfect Walking検定」も実施。たとえば理学療法士や作業療法士は、歩けない人を歩けるようにするのが仕事。しかし、その先を教えられる人材はいない。美しく歩くことは、あらゆる人に健康や利益をもたらすということを広めるべく、「歩きの知識」を持つインストラクターを増やすことが目的だ。

 

スマイルウォーキング倶楽部

 現在、同氏が力を注いでいるのが、知的障がい児やその家族、また障がいはなくても、主旨に賛同する子どもや家族を対象にした「スマイルウォーキング倶楽部」だ。

 「知的障がいのある子たちは、すごくエネルギーがある。言葉がちゃんと話せないとしても、彼らが思っていることも感じていることも、接しているとすごくよくわかります」と語る同氏。「スマイルウォーキング倶楽部」の根底には、「彼らのエネルギーを、彼らにできることで形に変えたい」との思いがある。

 「スマイルサポーター」として学生など20代のスタッフを集めているのは、10〜20代の知的障がいのある人たちを同年代の若者と交流させるため。彼らはウォーキングを通して、互いに何の線引きもなく接しているという。さらに、若者たちは互いに助け合って、雇用や収入を創出している。スマイルサポーターの若者には、わずかではあるが報酬を支払う。「やってあげる」とか「ボランティアだから」という意識を除いてもらい、責任感をもってもらうためだ。さらに、障がいのあるスマイルメンバーも、モデルの仕事を得るケースが出てきた。それも、彼らのエネルギーが純粋に評価され、障がい者というくくりではなく「障がい=個性」として、「モデル」の仕事を取り、外の世界に彼らのエネルギーを発信していく使命を背負っているという。「スマイルウォーキング倶楽部」は、まだまだ小さな社会ではあるが、ウォーキングによってノーマライゼーション社会を実現させようとしている。

 

本来の意味の「モデル」でありたい

 「心ないことを言われたとき、モデルというのは、人から憧れられる職業であると同時に、見下される職業でもあるんだなってショックを受けたこともあります。でも、『モデル』という言葉にはひな形とかお手本という意味もありますよね。私は、その役目を全うしたいと思ったんです。私の場合はウォーキングを、普通の人たち、モデルではない人たちに、もっと見てもらいたい。彼らにとっての『モデル』になること、それを自分の職業にしたいという気持ちがずっとありました」

 

 

 「歩く行為は人類みな同じ。障がいがある人もない人も、お年寄りも子どもも、みんな同じだと思っています」と語る同氏。ウォーキングを通じて、あらゆる人を幸せに、健康に。収入より使命感を優先する真っ直ぐな姿勢で、社会貢献の道を歩き続ける。

 

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昨年12月20日に行われた「Fashionista Fashion Show & Party 2015」の様子。

 

ノーマライゼーション社会の実現に向けて……

フリーペーパー「Just Smile!!」創刊!

「Just Smile!!」とは?

 『知的障がい者と健常者をつなぐフリーペーパー』をコンセプトに掲げ、知的障がいのある人をモデルに起用。日常に取り入れたくなるオシャレで楽しい情報を織り交ぜながら、知的障がいについての情報にも触れてもらい、ノーマライゼーション社会の実現をめざします。モデルとなる彼ら一人ひとりが広告塔となり、知的障がいのイメージチェンジ、協力機関の宣伝、日常を楽しく生きる姿のモデルとしての役割を担っています。

 本誌ターゲットは、知的障がいのあるお子さんとそのご家族だけでなく、20代の若者、学生、小さなお子さんを持つ親御さんです。日常に取り入れたくなる情報を楽しんでいただきながら、知的障がいについて知ってもらうことで理解と思いやりを持ち、支え合える環境が増えることを願います。

 また、本誌に出演するモデルにギャランティをお渡しすることも目的の一つです。仕事に向かう姿勢と責任感のあるプロフェッショナルとして、対価を受け取る喜びを実感し、自立のきっかけになることを願っています。

株式会社Fashionista08

●タイトル:Just Smile!!

 〜自分史上、最大の笑顔で生きる!〜

●年3回発行(2/10・6/10・10/10)

●発行部数:30,000部(予定)

●金額:無料

●配布地域

 東京、神奈川、埼玉、千葉、宮城(仙台)、山形、京都、兵庫(神戸)、福岡

●配布ターゲット:高校生〜20代

 小さなお子さんのいる保護者、保育、教育、医療機関で働くことを目指す学生

●企画・発行元:株式会社Fashionista

●協力企業・団体:伊豆修善寺 自転車の国サイクルスポーツセンター/BEC 行動・教育コンサルティング®

●広告掲載企業:パセラリゾーツ/S・Yワークス株式会社/リソル生命の森/VINGTANS/サカイクリニック62/こうざきクリニック/NPO法人ゆめ・未来・豊かな福祉会/株式会社マンション夢設計

企画ページ、広告掲載のお問い合わせは㈱Fashionista ☎03-6869-1434まで(担当:髙木)

 

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髙木真理子(たかき・まりこ)氏…福岡県出身。ファッションモデルとしてCOMME des GARCONSのコレクションでデビュー。翌年、issey miyakeに招聘されパリコレに参加。日本をはじめアジア、ヨーロッパでも一流デザイナーのコレクションに出演しモデルとしてのキャリアを確立する。現在はM・R Walking Studioを主宰し、講師として現役モデルやタレントの指導にあたるほか、独自のウォーキングメソッドを用いた「Perfect Walking」を通して知的障がいを持つ人たちの自立を支援する活動に尽力している。

 

株式会社Fashionista/代表取締役:佐藤雅臣

〒102-0074 東京都千代田区九段南1-5-6 りそな九段ビル5F KSフロア

TEL 03-6869-1434

http://fashionista.co.jp/

 

◆2016年4月号の記事より◆

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