オビ 企業物語1 (2)

【Human document】

「言葉で自分を、世界を変えてみませんか?」

自らの体験を、中国語学校という教育事業に集約!!

 

日本橋校に加え、外苑前校・十条校・鶴見校の3分校を2016年に開校「語学教室KEN」

SJ株式会社「語学教室KEN」代表取締役 権 燕淑(ケン・エンシュク)氏

◆取材:綿抜幹夫

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SJ株式会社「語学教室KEN」代表取締役 権 燕淑(ケン・エンシュク)氏

 

2000年に来日以来、多くの日本人と接し、日本文化にもたくさん触れ、日本人が素晴らしい民族であることを実感した権燕淑氏は、2011年に日本人のために、会話だけではない、言葉を使ったコミュニケーション能力を高める語学学校を設立した。どこにもない独自の学習方法が功を奏し、学んだ多くの人が語学を身につけて社会での活躍の場を広げている。日本人に必要な語学教育の実践に至った経緯や思いを伺った。

 

中国で学んだことが全く通用しなかった来日当時

 〝言葉で自分を、世界を変えてみませんか?〟というスローガンを掲げる語学教室KEN。主催する権燕淑(ケン・エンシュク)氏は、中国最北部にあるハルビン市に生まれ、ハルビン師範大学教育心理学科を卒業後、天津にある国有企業に勤務した。ところが、その国有企業では新聞を読んだり電話をとるような退屈な毎日。自分の人生の行き先に危機感を持ちはじめた同氏は、天津師範大学の姉妹校である茨城キリスト教大学に留学する道を選んだ。折しも中国では、キャリアアップを求めて海外に出て行き自信を身につける人が増えてきた時期だった。

 「自分の周りの人たちもどんどん外国に行って、戻ってくると凄く変わっている。それを見て自分も何かしないと、と将来を考えて決断しました」

 流暢に日本語を操りながら、当時を振り返る。

 

 さて試験に合格して晴れて来日。だが中国で学んだはずの日本語が全く役に立たない、という厳しい現実を突きつけられた。大学で授業を受けていても先生の言うことが一言も聞き取れないし、自分の思うことも伝えられない、会話もできない。毎日にように泣いていたという。

 

 それでも持ち前の意志の強さをもって日本語習得に臨み、しばらくすると少しずつ相手の言うことがわかって、自分の考えも相手に伝えられるようになってきた。友達も増え、様々な人とコミュニケーションができるようになってくると、考え方も変化してくる。劇的に変わっていく自分に驚きもした。

 「言葉というのは力がある。人と会話をしたり、自分の意見を言ったりして、コミュニケーションすることによって、自分を変えていける、世の中に対する考え方や見方も変えられる」

 そんな強烈な実体験があったからこそ、自身の語学学校を立ち上げた時に、〝言葉で自分を、世界を変えてみませんか?〟というスローガンを据えたのだ。

 

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鶴見校

 

日本人の語学教育をなんとかしたいという思い

 茨城キリスト教大学の文学部文化交流学科を卒業し、明治大学の大学院に進学した権氏は、さらに日本についての見識を深めていく。その頃には日本語でコミュニケーションをとることができるようになっていた。

 

 そこで同氏はふと考える。

 『日本人の場合はどうだろう? 日本人にも別の国の別の言語を理解してもらい、他の国の人たちと、もっともっとわかりあってもらう必要があるのではないか』と。確かに日本は伝統文化などを大切に継承してきた国で、いい面も沢山ある。一方で世界各国とのつき合い方は昨今の外交問題ひとつ取ってみてもお世辞にも上手いとは言えない。

 「世界はグローバルで、国という塊ではなく、これからはもっと広い範囲で人間の付き合いが広がっていくじゃないですか。そうした状況の中で今後の日本の人たちはどうなるのか。逆に心配になってきたのです」

 だから、同氏は大学院で研鑽を積みつつ、まず手始めに大手語学学校で日本人相手に中国語を教える講師になった。そこでは教材編集の仕事などにも携わった。JAS中国語教室の共同経営にも携わった。

 

 10年以上の講師経験を積み重ね、教えた生徒は、文部省、経済産業省、国土交通省など日本の中枢で仕事をしている人々、大手企業や中小企業の社員、そして中国に関心と興味を持った人など、数百人にもなった。その間に権氏は、「人に語学を教える職業は私にとても合っていると思いました。仕事は好きなことをやらないと長続きしないといいますが、私はとても教えることが好きです。教育事業に自分の一生を捧げたい」と思うようになり、ついに2011年、語学教室KENを開校するに至ったのだ。

 

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外苑前校

 

生徒も講師もお互いを高めあう存在

 日本には大手から個人教室まで、星の数ほど語学学校・語学教室がある。英語だけでなく、近年では観光客の増大も手伝って中国語を主体とした学校も増えてきた。授業料の安さを売りにするような同業他社も多い中で、語学教室KENはどのような差別化を図っているのだろうか。

 「具体的には、最初に体験レッスンを受けてもらいます。そうすると入学率がすごく高い。うちの語学レッスンに魅力を感じてくれるからだと思うのですが」

 その魅力というのはどういうところか。

 「まず中国語というのは何かということを説明して、あとは語学以外のことを話します。たとえば言葉の持つ力や人間の力、言葉を通じて自分の考え方を伝える、コミュニケーションの大切さなどですね」

 体験レッスンというと言葉の練習をすると思われがちだが、自分の考えを全面に押し出すことを得意としない日本人に何が必要か、語学を通して何ができるようになるのか、中国語会話を習得した未来の可能性について語りかけていく。未来の自分を描くことで、とかく後ろ向きになりがちな日本人もポジティブになれるという。これは教育心理学を学び、様々な経験や研鑽を積み重ねてきた権代表だから実践できる、やる気を喚起させる技なのだ。その後は個人個人の目標を聞き出し、その人にあったカリキュラムを組み、設定した目標を達成するためのサポートに徹する。

 

 もうひとつ語学教室KENには『講師が生徒のモデルになる』という大きな特徴がある。生徒が語学習得に頑張るなら講師も頑張る。そのために権代表は自ら経営のノウハウや体験などを学ぶためにパッションリーダーズや盛和塾に入会したり、ベストセラーとなったビジネス著『7つの習慣』の著者が主催するフランクリン・コヴィー社の研修にも参加している。また生徒と講師が一緒になってランニングなどを行いながら意志の疎通をはかり、成長していることを確かめ合う。

 「私たちは中国語を教えていますが、それ以上に人間の能力を引き出して、考え方を学べるようにしています。言葉を学んで意識を変え、考え方を変える。そこに重きを置いています」

 

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十条校

 

祖国への提言と日本への期待

 ゆとり教育の弊害からか、日本の今の若い人は子どもの頃にさほど勉強をせずに成長した。

 「今の中国の若い人は日本の若い人に比べて勉強しています。中国の人は子どもに対してお金を投資して勉強をさせています。けれども大人になると勉強しない。日本の場合は私たちの語学教室が成り立っているように、1度会社に入ってみて自分の足りないところを自覚し、再び勉強をして自分を磨こうとしますね」と権代表は日本人の向上心を評価する。反面中国人は成人したら勉強する人は少なく、そのまま年老いていく。

 

 中国人観光客の〝爆買い〟の様子を見る度に、物へ対して執着する姿に辟易しているともいう。

 「実はさきほど〝爆学〟という言葉を創ったのですが、中国人もこれからは日本人の学ぶ姿勢を見習って、〝爆買い〟ではなく〝爆学〟、もっと勉強すればいいじゃないですか(笑い)」

 人間にとって必要以上の物はいらない、生活に最低限の物があればいい。

 「物を所有するより価値があるもの。それは人間の本当の成長、心の成長だと思う」

 

 そういう同氏は尊敬する稲盛和夫氏の、人としての生き方〝人生哲学〟に共感している。その著書は全て読破した。昨年100キロマラソンに挑戦した時のエピソードでも、稲盛氏の著作に救われたと話す。

 「フランクリン・コヴィー社の研修に参加した際、『できると思った瞬間にできる』ということを学び、マラソン未経験の私を100キロマラソンへと駆り立てました」

 だが準備期間はわずか3カ月。膝を痛め、参加を取りやめることも考えた。ただ、自分が立てた目標を達成できないことに納得がいかなかった。どうすればいいか。その時に答えをくれたのが稲盛氏の著作だった。

 それまで「走れなかったらどうしよう」という考えに取り付かれていた同氏は、稲盛氏の著作から『本気で必死になって頑張れば、神様が登場して助けてくれる』という答えを得て信じた。「何があっても、絶対最後まで走りきれる」という考え方に180度変わって、なんと無事に100キロを完走してしまったのだ。この出来事は、まさに〝言葉で自分を、世界を変えることができる〟ことの証明となった。

 

 「私は日本の方に言葉を教えています。でもそれだけではない、言葉に含まれたその国のベースとなる考え方を理解することによって、日本の中で培われた狭い視野ではなくてもっと広い視野を持てるようになる。そうすると、日本はもっといい国になると思います」

 視野を広げるために言葉を学ぶ。学ぶ機会を提供する。日本人もすでに気がついていることだが、それを外の世界からやってきた人が実践していることに驚きを隠せない。語学教室KENの隆盛は、中国人であっても日本人の雰囲気をもっている権代表だから、なし得たことかもしれない。

 

SJ株式会社「語学教室KEN」01

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権 燕淑(ケン・エンシュク)氏…中国出身。ハルビン師範大学教育心理学科卒業後、中国天津国有企業で勤務。2000年来日、茨城キリスト教大学 文学部文化交流学科入学。2004年明治大学院進学 文学部日本近代史専攻 日清戦争を研究。同時に大手語学学校などで中国語講師アルバイト。2007年Jas中国語教室共同経営。2011年 語学教室KEN創立。2014年朝日テレビ池上彰「ニュース解説」インタビュー。2014年 パッションリーダーズに入会。2015年 盛和塾に入会。2015年帝国書院「階」NO29「言葉に思いを載せて」執筆。2015年「日中経営者交流会」主催。2016年「日中健康事業フーラム」共催。2016年 外苑前校、十条校、鶴見校3分校開校。

 

SJ株式会社「語学教室KEN」

〒103-0027 東京都中央区日本橋1-7-4 第一正明ビル2F 202号

TEL 03-3548-0507

http://www.jasplan.com

 

◆2016年4月号の記事より◆

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