次世代の産業を担う【中小企業】初めて明かされる秘話
日本再生の鍵を探せ 企業x学校物語

株式会社イノフィス – 産学連携の成果、ここにあり! 「マッスルスーツ®」で世の中に貢献!!

オビ 企業物語1 (2)

〈この経営者に注目!〉

株式会社イノフィス – 産学連携の成果、ここにあり! 「マッスルスーツ®」で世の中に貢献!!

◆取材:綿抜幹夫

obi2_human

 

突然だが「マッスルスーツ®」をご存知だろうか。これは人が身につけることによって、動作を支援し、ラクに動けるようにすることができる「ウェアラブルロボット」のひとつ。高齢者や身体障害者の介護のほか、重量物を扱う業種などへの利用が期待されている。このマッスルスーツ®の開発・販売を一手に引き受けるベンチャー企業が、株式会社イノフィスだ。代表取締役社長の藤本隆氏にこれまでの経緯や今後の展望を伺った。

 

株式会社イノフィス/代表取締役社長 藤本 隆氏

〈東京理科大学発ベンチャー〉

株式会社イノフィス/代表取締役社長 藤本 隆氏

 

■大学発の技術で、人生を豊かにしたい

 メガネ型や時計型など、身につけて使用するウェアラブルコンピューター端末が注目される昨今、身体機能を補助、改善、拡張させ、人を支援するウェアラブルロボットの開発も進んでいる。その中で早々と2014年11月から法人向け販売を開始し介護分野で注目されているのが、マッスルスーツ®である。これまでにも物理的に人を支援する介護福祉機器は開発がされているものの、実際にはコストや安全性、総重量、人との親和性などの面から、実用的な普及にはほど遠いものがあった。そうした問題点をクリアしたのが、東京理科大学・小林教授が研究開発したものを商品化したマッスルスーツ®。基本構造は圧縮空気の出し入れにより人工筋肉を伸縮させて駆動させる仕組みを採用していて、低コスト、かつパワーと安全性が担保されており、着脱も容易で、幅広い用途・ユーザーの利用を可能にしている。ではこのように大学で研究されていた技術が、商品として一般に販売されるまでにはどのような経緯があったのだろうか。

 

 現在イノフィスの社長を務める藤本氏は、もともと三菱化学株式会社で研究開発に携わっていた。サラリーマン生活が馴染んだ頃には『いつしか自分の開発したもので、社会に貢献したい』との思いを抱くようになる。

 

 というのも、30数年在籍した間に手がけた様々な研究や技術の中に吸水ポリマーといわれる素材があった。水を吸収して何十倍もふくれる、今では当たり前に紙おむつなどに使われている素材だが、開発当時はまだどういう分野に活かすことができるかは未知数だった。

 

 「紙おむつに使えることすらわからなかった時に、食料のない砂漠地帯の土壌を保水状態にし野菜や果物などを育てることができることに気付き、砂漠の緑化をはじめとして『世の中のためにいろいろ使える』と思いました。世の中で具体的に役立つ商品づくりこそが、自分のライフワークになると直感しました」(藤本社長、以下同)

 

 その考えのもと、東京理科大学で産学連携のキーマンとして活躍した科学技術交流センター長時代には、大学で研究され開発されている技術の中から、少し手を加えたり後押しすれば世の中に売り出していけるものを掬い採るような活動に尽力した。中でも興味を引いたものは工学部機械工学科の小林教授が研究開発していたマッスルスーツ®だった。その高い技術力はもとより、小林教授が掲げた『障害者の方やお年寄りなど自立が困難な方に、テクノロジーを使って自立していただく』という基本理念は、藤本氏の『自分の考案した技術で世の中に貢献したい』という思いと一致していたからだ。

 

 そこで持ち前の行動力と人脈を駆使し、多くの企業にマッスルスーツ®を紹介していった。ところが、どの企業も興味は持ってくれるものの、自らの事業としては受け入れてくれない。欧米と異なり、新しい技術に関しては様子見をする傾向にある日本の企業体質がネックになった。それが今から7、8年前の話。

 

 「こういう技術こそ大学できちっと暖めて、日の目を見ないままで終わらせてはいけない。商売として軌道に乗るまでは一緒にやっていこう」と覚悟を決めた。とはいえ、世の中に出すためのスピード感もなく資金面でも先の見えないスタートだった。

 

介護業界などから絶大な期待が寄せられているマッスルスーツ®

介護業界などから絶大な期待が寄せられているマッスルスーツ®

 

■世の中の環境を味方につけて

 産学連携の事業として、マッスルスーツ®が商業ベースに乗る背景を見てみよう。

 

 1つは、いわゆる少子高齢化と労働力不足といった社会現象によりマッスルスーツ®のようなものを必要とするニーズが高まってきていること。2つ目はアベノミクスの成長戦略の柱のひとつとして〝ロボット革命〟があり、政府を含めて後押しをする環境が整ってきていたこと。そして3つ目が1番肝心なことで、実用レベルまでに技術が進化したことだ。昔から各大学で様々なロボットが開発されてはいるが、そのほとんどは研究のための研究。要素技術の開発は、それはそれで必要だが、でき上がったロボットは実際には使い物にならない、実用化に向かないものばかりだった。ところが最近はようやく実用化に近いところのレベルで技術の開発が成熟し、進化してきた。この3つの要素が重なって、2013年12年に大学発ベンチャー企業として株式会社イノフィスが設立されたのだ。

 

 またベンチャー企業を経営していく上で重要な要素が資金と人材だ。イノフィスの場合、資金面では運良く株式会社菊池製作所や株式会社産業革新機構などの支援を取付けることができ、今後の更なる開発や改良、販売に向けてのアクションがとれる資金を調達できた。人材的にも、大学発ベンチャーが陥りがちな経営経験のない大学教授の陣頭指揮により失敗するという轍を踏むことなく、菊池製作所の社長以下、長年モノづくりの現場や営業を知っている人など経験豊富な優れた人材を確保することができた。その甲斐もあって2014年の発売以来、マッスルスーツ®の出荷台数は1000台を突破した。

 

 それでも「まだまだ満足していないし、販売に関しては苦戦しています」と藤本社長は本音をもらす。その理由は、まず今まで作業できているから、すぐに必要はないと思われがちなこと。1台60万円という価格も、法人向けになればネックになる。たとえば経営トップが『導入は先行投資、最先端技術の採用を雇用確保の戦略に活かす』という積極的な考えを持っている場合はいいが、まだまだ様子を見ている企業もあるからだ。もう1つは自転車を乗りこなすことと同様に、マッスルスーツ®を使いこなすには多少のトレーニングが必要で、マニュアルを理解して確実に使いこなせるかの実証についてはまだ発展途上の部分がある。各現場でエンドユーザーと一緒になって、ノウハウを作り上げていく必要があり、それにはある程度時間がかかるという認識だ。

 

マッスルスーツ®の装着例。圧縮空気の出し入れにより人工筋肉を収縮させて補助力を得る。

 マッスルスーツ®の装着例。圧縮空気の出し入れにより人工筋肉を収縮させて補助力を得る。

 

■商品認知と市場醸成が急務

 ベンチャー企業だからこそ、認知も市場の育成もスピードアップしたい。しかし組織の中で一歩一歩確実に進めていく必要もある。そのジレンマの中でも、マッスルスーツ®の売り出しに余念がない藤本社長。

 

 「直立歩行をし始めた人類が抱えている共通の問題は、まず腰痛です。これは人体の仕組み上、仕方ないことなんですね。大昔から腰痛に悩まされてきた人はとても多く、これまではマッサージやコルセットなどでなんとか耐えてきた。そういう意味では大昔から、マッスルスーツ®のようなものがあったらいいというポテンシャルマーケットは大いにある」

 

 確かに利便性やコストパフォーマンスなどがマッチしたら、市場は間違いなく大きなものになるだろう。実際に訪問介護入浴サービスや工場、物流施設向けのモニター販売では、絶大なる期待感を持って迎えられた。

 

 ニーズとして考えている分野は?

 

 「現在先行している介護業界はもちろんですが、次に重要視しているのは物流や工場関係。たとえば物流の場合は倉庫でピッキングする、いろいろな重量物を持って作業する。工場も自動化されているライン以外に入口出口の所はやはり人手が必要です。特に中小企業や零細企業には。それから農業分野ですね。農家の方はますます高齢化が進むでしょう。腰をさすりながら作業するのではなく、マッスルスーツ®を使って楽に作業してもらいたい。建設現場にだってニーズがありますよ」

 

 最近では豪雪地帯での雪かきテストも行う。加えて市場の多角化も視野にある。

 

 「人間の動きは非常に複雑で細やかですから、1つの運動ばかりをしているわけではありません。人を抱える、荷物を持つ、大きさも重さもいろいろある。人間の動き全てに適用し活用できるマッスルスーツ®にしていくことが次の課題です」

 

  今のマッスルスーツ®をさらに改良するのだろうか。

 

 「改良というより、使い方に合わせたアプリケーションのラインナップを増やすことですね」

 

 現状では法人向けの販売およびレンタルのみだけだが、近いうちにはサポート体制を整えてインターネット販売も含め、個人向け販売も開始する予定だ。20数社の販売店ともフランチャイジー契約が進んでいる。

 

 「人間が持つ腰痛などの身体的な悩みは世界共通ですから」という藤本社長の視線の先には、海外への進出も見えている。大学発ベンチャー、イノフィスの事業は、課題をクリアするごとに成功への道を歩むことになるだろう。

 

雪かきでは、除雪する際にかかる腰への負担を大幅に低減。ベランダや屋根など除雪機が使用できない作業も楽に行える

雪かきでは、除雪する際にかかる腰への負担を大幅に低減。ベランダや屋根など除雪機が使用できない作業も楽に行える(上)

マッスルスーツ®のニーズは重量物を扱う物流倉庫や工場などにも(下)

マッスルスーツ®のニーズは重量物を扱う物流倉庫や工場などにも

obi2_human

 

プロフィール

 

藤本 隆(ふじもと・たかし)氏…

1947年9月23日神戸生まれ。

大阪大学修士課程終了後、三菱化学株式会社入社。主に研究開発、事業開発・企画、事業経営、会社経営に従事。

2003年以降、東京理科大学において、産学連携部門の立ち上げおよび運営業務に携わり、科学技術交流センター長に就任。企業との共同・受託研究をはじめ、技術移転に関する契約交渉、事業化プロジェクトを多数手がける。

2013年12月に株式会社イノフィス設立、2015年8月代表取締役に就任。

 

株式会社イノフィス(東京理科大学発ベンチャー)

〒162-0825 東京都新宿区神楽坂4-2-2

東京理科大学 森戸記念館3階

TEL 03-5225-1083

https://innophys.jp/

 

◆2016年2・3月号の記事より◆

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから

お問い合わせ

本記事に対する、ご意見ご感想をお待ちしております。
BigLife21に対するご感想などもお気軽にお問い合わせ下さいませ。
※メールアドレスが公開されることはありません。

最新号ご案内

詳細を見る »

こちらからご購入いただけます

 

アクセスランキング

立ち読み

「BigLife21」の記事の一部をPDFで立ち読みすることができます。

読者プレゼント

Top