シチリアの農場より直送されるオリーブオイル。仕掛け人は現役慶応大学生
シチリアの農場より直送されるオリーブオイル。仕掛け人は現役慶応大学生
◆取材・文:加藤俊
親子三代、民間の芸術交流から生まれた極濃オリーブオイル
「シチリア農家と直接契約!単一種100%の搾り立てオリーブオイルをお届けします!」。クラウドファンディングサイト『kibidango』(きびだんご)で上記のタイトルで衆目を集めているプロジェクトがある。
和食に合うオリーブオイルをコンセプトに、プロジェクトが達成すればイタリアはシチリアよりオイルが直送されるのだという。仕掛け人は現役の大学生。慶応大学4年の鎌田浩嗣さんだという。
▼プロジェクトはこちら▼
■日本のオリーブオイルとイタリアのそれは別物
イタリアには『オイル、酢、胡椒に塩さえあれば、ブーツだっておいしくなる』(Olio, aceto pepe e sale, sarebbe buono uno stivale.)という諺がある。古来よりオリーブオイルは珍重され、イタリアのみならずヨーロッパの家庭の食卓には欠かせない調味料だ。いや、近年は日本でも大抵の家庭で一本置かれるぐらいには一般的になっている。
ただ、日本の家庭で食されるオリーブオイルは現地のそれとは大きく異なっている。それこそ食され方からオイルの品質まで異なるというのだ。端的に言えば日本で食されるオイルはイタリアで食されるオイルに比べて美味しくない。
■日本のオリーブオイルが美味しくない3つの理由
それには3つの理由がある。
1つは、日本のスーパーに並ぶオリーブオイルは、大量生産品が多いため。つまり、オリーブを複数種類混ぜたものが多いのだという。これらはブレンドオイルと呼ばれ、その年の市場動向や収穫高から大量に確保できるオイルを主なものとして、様々な生産地のオイルをブレンドして毎年均一なクオリティで製品化されているものなのだ。
これに対し、イタリアでは生産者が誇りを持って自らの手で育てたオリーブだけを原料に作ったシングルエステートのオイルが普及している。
2つ目がバージンオリーブオイルの表記方法。そもそもバージンオリーブオイルとは、粉砕や圧搾といった加工以外に化学的な処理を施されずに抽出されたオリーブオイルを指す。その最高峰として、完全な食味と香りを保っているものと認められた「エクストラバージンオリーブオイル」がある。
しかし、エクストラバージンでも各製品によってオリーブの種類も違えば抽出方法も異なっており、詰まるところ製造過程や原料など実態は様々なのだ。場合によっては、大量生産やコスト削減のためにオリーブ本来の風味や滋養を損なっているものもあるのだという。
そして3つ目は、オリーブオイルのデリケートさ。オリーブオイルは魚と一緒で鮮度が命。極力空気に触れて酸化を進めないようにしても、時間と共に風味は劣化していくのだという。
こうした点により、同じ「エクストラバージン」という名称であっても、日本とイタリアではその内容に大きな隔たりが生まれ、それは食べ比べれば瞬時に判別できる程だという。
クラウドファンディング「きびだんご」で鎌田さんが仕入れようとしているオイルは、普段日本人には口馴染みのない単一種100%の搾り立てオリーブオイルなのだという。
■マルシェで絶賛されたオイル
2015年12月。“都会のまんなか”勝どきで都市型最大規模のマルシェ『太陽のマルシェ』が開催された。冬晴れの空のもと多くの農家が旬の野菜や果物を出店するなかで、一際香ばしい香りを漂わせる屋台があった。
「coricco car」と命名された白く可愛らしいそのキッチンカーでは『安納芋をオリーブオイルで揚げたフリット』や『ポルチーニスープ』が提供された。オリーブオイルをたっぷりとかけて風味の増したスープは多くの人から「美味しい!」と絶賛された。
調理しているのは現役の慶應大学生鎌田浩嗣さん達、クォーレ・インターナショナル株式会社の面々。立ち上げは2009年。鎌田浩嗣さんの父鎌田崇裕さんが立ち上げた会社だ。
鎌田浩嗣氏・クォーレインターナショナル株式会社 代表取締役
このマルシェへの参加はオリーブオイルの販売を目的としたものだが提供されたオイルには面白い物語があった。
■オリーブオイルとの出会い
鎌田さんの実家は福岡県博多で産業機器のメーカー「株式会社 カマタテクナス」という会社を経営している。同社の圧縮空気清浄器「WELL AIR」は、国内はもとより世界でヒットしている製品。
同社は、浩嗣さんの祖父鎌田崇暉現会長が創業した会社だが、その崇暉さんは産業機器メーカーの経営の傍ら書家としても有名な方なのだ。何を隠そう、遠く離れたイタリアの地のオリーブオイルとの巡り合わせを生んだのも、この崇暉さんの書家としての歩みがあってこそ。
それは2006年イタリア貴族の名家・ボルゲーゼ家に崇暉さんが招かれた時まで遡られる。
鎌田:祖父が書道家をやっていまして、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の胸像を作るなど世界的に著名な彫刻家、奥村信之さんに見出されたのがイタリアとの出会いでした。
奥村さんよりローマの宮殿を紹介され、祖父が一筆書きに行くことになったのです。そこに父も同乗し、ある1人の貴族の女性の方、後に父とパートナーになってイタリア法人を立ち上げる方との出会いがありました。
それで女性の親戚が大勢シチリア島にいました。実はシチリアというのは食の宝庫。そこらにオリーブ畑があって、気候も育てるに向いていて、ヨーロッパでも最高の土壌です。日本で言う北海道のような土地なのです。
何軒か農家を紹介され歩き回っているうちに、地域に根ざした伝統的な食文化や食材を見直すスローフード運動はイタリアが発祥の地なこともあり、父はとても気に入ったらしく、日本に食材を紹介できないかと探し見つかったのが、オリーブオイルだったのです。
■どんな食べ方が合うのか
―仕入れるにあたって、苦労も多そうだが。
確かに、当然現地の農家の方とは言葉があまり通じません。でも1日中一緒にいて同じ食事をとって、良いものを作りたいと思う気持ちは言語を超えて伝わるんです。元々先方も日本に出店したい要望があったことにも恵まれました。
農園の方々と意気投合し、日本人の口にも合うようにオリーブオイル独特の苦味を抑えて、比較的まろやかな味に仕上げることができています。100%単一品種、単一農園から採取したオリジナルオリーブオイルの味をご堪能頂けると思います。
―それで過去2回クラウドファンディングでオリーブオイルのプロジェクトを行ったと。今回のプロジェクトで3度めとのことだが?
はい。これまでは父が主導的に2年間やって、今年の3回目のプロジェクトから僕が引き継ぎました。
―何故参加したのか?
横で見ていて楽しそうだったからです。海外進出って大きな会社がするイメージだったのですが、当社のように小さな会社でも乗り込んで信頼さえ勝ち取れば、越境の商売ができるのだと。
―鎌田さん自身が学生団体で色々やっていたのに、こちらに魅力を感じた理由は?
父や祖父など身近なところで経営者がいたので、小学生の頃から起業したいと思っていました。オリーブオイルを作って仕入れて売るというのは、とてもシンプルなことで僕でもできそうだなあと思ったんです。実際やってみると大変なことだらけなのですが(笑い)
それでも毎日は充実しています。
―このプロジェクトで大切にしていることは?
大切にしていることは、直接お客様に届けたいということ。スーパーなどに並んでしまうと他の商品と比べられてしまう。どれだけ美味しいオリーブオイルでも食べてもらわなければ違いを感じていただくことはできません。
―他社のオリーブオイルとの違いは?
大きな違いは全く混ぜ物をしていない、無濾過であること。和食にも合わせやすいようにオリーブオイル独特の苦味を抑えて、渋い中にも甘みのある味わいが特徴です。クセのない優しめのマイルドな味にブレンドをお願いしています。
今回はビアンコリラ種というとても爽やかな青い香りと軽快な味わいを持つ品種の単一100%のオリーブオイルです。
また容器も他社とは異なります。空気に触れることでの酸化を徹底的に防ぐことで味の劣化を防げるボトルを活用しています。注ぎ口に逆し弁(エアバックしないように)を取り付け、2重構造の容器で液体の入った袋だけが潰れていくので空気に触れることがないものです。
それでいてオリーブオイルの粘度にも耐えることができ、最後の一滴まで使用することができるボトルです。
ぜひ、農園で精製された現地の味を損なうこと無く取り込めたオリーブオイルの風味を楽しんで頂きたいです。
―どういった食され方が望ましいのか?
やはり、サラダや生魚に塩と共に振りかけて頂く食し方が一番シンプルにして、素材の味を引き立てます。もともとイタリアにはサラダを食べる際、日本と違いドレッシングというものを使う習慣がありません。現地ではエキストラバージンオイルとバルサミコ酢と塩・胡椒だけで食べるのが通例なのです。
また、最近は地中海式和食と言って、和食を基調としながらもそこにオリーブオイルを取り入れていくという食べ方もおすすめです。
個人的には納豆に醤油とオリーブオイルという組み合わせが意外と合うので、一度騙されたと思ってやってみて頂きたいです(笑い)豆腐にかけたり、焼き魚にも合います。
―課題は?
やはり食べていただかないと、この美味しさは伝わらないので、食べ方も含めて提供の場を考えていかなければならないことです。
マルシェやファーマーズマーケットに出店して食べ方から伝えていかないと、正しく理解されないと思っています。この先もファストフード、屋台、立ち飲みのようなもの、オリーブオイルを軸に展開していこうと考えています。
食の豊かさ、人の交流から生まれる豊かさをどうしたら実現できるか、自分のブランドとしての思いと、オリーブオイル自体の良さをメニューにできるか。それが課題だと思っています。
―ありがとうございました。
◇
最後に鎌田さんの説明を聞きながら、オリーブオイルを滴らせ、そこにパンを浸して一口食べさせてもらった。特徴はトロトロのまろみ。口に含んだ瞬間、草の優しい香りが鼻腔をくすぐっていく。これが現地の農園で食べる味に近いらしい。
「風味が全然違う。こればかりは食べないとわからない」。筆者の率直な感想である。
オイルと真実は表に出る(L’olio e la verità tornano a galla.)。クォーレ・インターナショナルの本当に美味しいオリーブオイルが世にでる日は近い。
口にできる貴方は幸せである。
鎌田浩嗣…慶応大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部4年。クォーレ・インターナショナル株式会社 代表取締役CEO。
クォーレ・インターナショナル株式会社
http://www.solo-naturale.com/