◆柳田元気(金融経済ジャーナリスト)

 

はじめに

いま、中小企業金融議論は「政治(行政)、経済界、銀行」それぞれの立場でそれぞれの立場の主張がなされているが、どれも責任の押し付け合いで噛み合った建設的内容にはなりえていません。その中でどんどん経済の現状は混迷を深めています。

そもそも、不良債権の増加により自信を失った銀行が与信リスク(判断)を適正化しようと、金融庁の指導よろしく急速に信用格付けシステムを構築し、中小企業格付けにおいても、実質的に上場会社と同じ基準でのマニュアル化を進めました。行政が預金者の目を重視して、銀行システムの安定化を統一的に図るために債務者評価を格付け基準で一律評価させることにしたわけです。

本来、中小企業金融は債権者(銀行)対債務者(企業)で解決を図ることが市場原理であり、債務者である企業の評価は銀行によりまちまちであることが、銀行の個性発揮につながることかも知れません。そして、銀行が独自性をもつことは、当然、結果責任がより明確になるわけですから「債権者の銀行と債務者の企業側」が誠実で厳しい関係にあることが前提であり、どのようにしてお互いが自立性を確保していくかということになります。

中小企業の経営者は自分の会社の格付け評価が「どの水準で、なぜそのような評価になったのか」、「取引への影響は今後どうなるのか、どのような手を打つべきか」を認識しておくことが重要です。

本連載は、中小企業経営者の方が格付けの実態をよく理解し、その上で積極的に活用して健全な財務・経営戦略につなげて、活力を取り戻していただくことを期待して解説をしていきます。

 

 

1:銀行の貸し渋りについて

昔から、「銀行は雨の日に傘を貸さない」と言われますが、不良債権が増えると困るのは今も昔も同じです。大きく違うのは銀行に体力がなく、リスク許容度が低下していること。格付け制度が整備されマニュアル化が進展したことです。

貸し渋りの実態を銀行の立場に擦りかえると下記のような状況です。

 

【事例】

・貸出期日と同時に継続時に分割返済を要求する。

・返済を断られたら担保を要求する。

・預金による貸出内入れ返済を要求する。

・長期運転資金の折り返し反復支援を拒否する。

・折り返し反復支援の額を減らす。返済期間を短くする。

・総合取引状況を他行と同一にするよう要求する。

・今まで要求しなかった資料を求めて結果として貸出を断る。

・貸出の回答をぎりぎりまで引き延ばす。

・反復支援を含め、一切の新規貸出を止める。

・保証協会付き以外は貸出しない。

・金利引き上げを要求する。

・他行へ誘導する。他行と横並びの貸出姿勢にする。

・必要のない借入を迫る……などなど。

 

これらのような事例は、銀行としてはリスクを抑えるためやむを得ぬ行動であるのかも知れませんが、企業としては説明不十分、理解不十分、かつ準備不足が重なり「貸し渋り批判」として爆発してしまいます。

経済的側面から言うと、デフレ経済で結果として貸し過ぎ、借り過ぎとなってきたバランス調整の一環であるわけです。

いま、貸し手と借り手のミスマッチが実態として最も拡大していると思われ、次にその要因を銀行側と中小企業側の要因に絞って考えます。

 

 

2:貸し渋りミスマッチの要因

◉銀行側(資金供給サイド)の要因

  ①銀行の経営戦略が中途半端なこと

いわゆる大手都市銀行は生き残りのため合併して、収益拡大、資産効率化(不良債権処理、店舗人員削減など)を推進中ですが市場の評価は得られていません。

原因は事業領域と戦略がどこも横並びでそれぞれの将来像が見えにくいからだと思います。

大手銀行は「大企業から中小企業、個人まですべての品揃えをしてすべてに満足していただく」と思い込んでいますが、結局、顧客にとってはどれも中途半端で不満足な状況です。

業界は大手都銀から信金、政府系機関まで中小企業マーケットに貸出中心の営業を行っておりオーバーバンキングの状況が続いていますし、それぞれの特徴も少なくなっています(政府系機関の低金利を除いて)。

総合型戦略のままで効率化を進めると現場では満足な営業活動は無理なようです。

 

 ②取引先との真のコミュニケーション(実態把握)不足

いま、どの銀行もソリューション営業を表面に出し営業斡旋からデリバティブ、M&Aなどさまざまな提案をしています。確かに有効に活用している企業もあります。

しかし、大半の中小企業は「そんなことよりなにか他の……」と考えているのではないでしょうか。

本来のソリューションとは「大手銀行は取引先の事業の良き理解者であり相談相手、適切に物言う債権者である」ことです。それが出来なければ、消費者金融と同じように、一定の基準で薄く広く効率化した資金貸出に特化した方が有意義です。

 

 ③格付けマニュアル運用の問題

ここ数年間は格付け制度の充実に金融庁、銀行共懸命に取り組んだ結果としてマニュアル中心の格付け絶対主義が強くなり過ぎています。

企業評価は業績などにより毎年変わるものであり、将来性の見方なども銀行によって違うのが自然です。

格付けはイコール与信方針ではなく、方針を立てるための材料「リスクを図る尺度」でなくてはいけません。これが強すぎると与信方針が今年度は回収促進、次の年度は積極貸出方針と極端にぶれることになります。

これでは、企業は堪ったものではありません。笑い話のようですが現実です。

 

◉企業側(資金需要サイド)の要因

①経営内容に対する説明責任不十分

いま、上場会社では投資家に対し適切な説明(タイムリー、オープン)が出来ているかどうかが評価に直結しています。結果的に事業運営が低コストで出来る環境を作っているわけです。

しかし、非上場会社である中小企業は債権者である銀行に適切な説明が出来ているでしょうか。多分、決算説明すら多数の会社が経営者みずからが出かけていって説明されていないのが実状です。

そして、説明に行ったとしても儀礼的であったり、経理部長まかせであったりではないでしょうか。損益だけの説明、数字のない事業計画の口頭説明ではなかなか銀行側に理解してもらえません。

また、経営者が説明に行かなくても、常日頃より、経理の担当者が数字のことは説明しているから、銀行との関係は何も問題は起こっていないと考えていると危険です。

銀行の担当者は大変忙しくまた、経理の担当セクションもオーバーバンキングに慣れているので、事業と財務がリンクした説明などなされていないのが実状です。

そのような中で、あなたの会社が評価されています。大丈夫でしょうか。

 

 ②資金調達する際の説明不十分

資金計画や返済計画もなく、何故資金が必要か、説明不十分な状況での借入申し込みが意外と多く見られます。

理由は、脇が甘い銀行の貸出競争に乗り、適当に答えておけば銀行が貸してくれるという居心地の良い関係に慣れ過ぎたからです。

業績が良い、担保が十分にあった時代はそれでも落ち着いたのかも知れませんが、いざ、本当に必要な資金を借りたい時はそうはいきません。

事業融資とは資金の使い道の事業性(収益性、社会性)を検討して融資するわけですから銀行に価値観を共有してもらえないとどうしようもありません。

銀行を理解させる説明が実施されていますか。

 

 

【この問題の総括として】

バブル崩壊からデフレ経済へと資産の調整は進みましたが、最後まで残ってしまったのは脇が甘く無責任な精神構造であったのかも知れません。

資金がタイトな1960〜1980年代は貸し手も借り手も懸命でした。限りある資金をどうして手当てするか、有効に使うか、考え、話し合ったのです。

その結果、十分な借り手と貸し手の責任がうまれ、信頼関係に繋がっていたのではないでしょうか。

需給関係が逆転しても、互いに依存し過ぎない対等で緊張感のあるビジネス関係を保つように努力することが、貸し渋りのミスマッチを解消する近道です。金融は「事業活動の手段であり、目的ではない」ことを企業も銀行も顧みるべきです。

そして、企業と銀行の信頼関係構築のために、格付け制度を銀行側の債務者評価手段に止めず、希望する債務者には積極的に開示して認識を共有し経営改革に活かすことです。

また、制度的な面では大企業と一律的な格付け制度を中小企業用に工夫を加えて見直しを行うこと、急激なデフレ調整過程の準備期間としての時間的余裕を与える政策を政府がとること、であると考えます。

 次号は、本題の格付け内容について説明します。

 

オビ コラム

2015年8月号の記事より
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