オビ コラム

「地元」で就職する若者達

◆文:池島香輝(慶應義塾大学環境情報学部1年)

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内向き志向な若者達

「もっと外に飛び出そう」

「若いうちに海外で働こう」

ここ数年で目にするこのような若者への言葉は、日本の若者が内向き志向でそれを大人達が危惧しているかのようだ。国際化が進む中で、日本の若者は世界に取り残されていくとともに、日本そのものが世界から取り残されていく。そんな不安がもしかしたらあるのかもしれない。ただ、そんな大人達の不安は全く耳に入っていないかのように、今地元で働く若者が増えている。

 

実際、僕の地元を見てみても、地元に就職し生活を送っている友人達が多くいる。大学に進学した同級生のほとんどは、そのまま地元に就職が決まっている。なぜ、そこまで地元で就職したがるのだろうか。正直、地元では絶対に就職しないと腹に決めている僕からすれば不思議で仕方がない。

もちろんそれぞれに様々な理由があり、一言でわかったような口調でかたづけられないことは確かであるが、僕はどうしてもその理由を知りたくて少し調査してみた。

 

 

地元で働くことの意義

実際に地元で働く若者に話を聞いてみると様々なことがわかる。単に内向き志向な若者を外向き志向に変えようという考えだけでは、この状況を理解することはできないということにも気づいた。

 

僕の地元の友人達を例にとると、地元に就職する若者にも大きく分けて2つのパターンがある。一つは「学校を卒業後も、地元から一切出ていない人達」、もう一つは「大学などで地元から出たが、結局地元に戻ってきた人達」である。

後者は一度地元の外に出た分「地元に貢献したい」という思いを持つ人が多いが、ここではこの2パターンの人達を両方、「地元で働く若者」ということにする。

 

まず彼らの「働くこと」そのものについての意識を聞いてみた。地元に就職した理由を聞けば、「みんなが地元に就職するから」や「生活が楽」、「お金が貯まりやすい」など金銭的な理由も挙げられた。

金銭的な理由で地元に就職している若者はもちろん多く、実家に暮らしていれば、都心に住むよりもはるかにお金を貯めやすい。僕は都心で生活出来る恵まれた環境に感謝したとともに、友人が就職を選ぶ際の基準になっていることに驚いた。

 

実際、同じ職場に学生時代の同級生がいるということは珍しい話ではなく、結婚も地元の同級生とする人も少なくない。週末は気の知れた友人達と車で近所のショッピングセンターに行ったり、集まってスポーツをしたりする。

僕の友人達も毎週集まってみんなでフットサルをやっている。同じ友人達と同じことを決まった場所でやるということは、都心ではなかなか見られないような気がする。「久しぶりだな、一週間ぶりじゃない?」そんな驚くような会話も交わされたりする。

彼らのコミュニティは頻繁に確認作業が行われる。しかし、彼らはそのコミュニティを広げずに、外部のものを入れないわけではない。地元に帰ると、なんでそことそこが知り合いなのかと驚くことが多い。

 

また、友人だけでなく仕事に対しても彼らは真剣であり将来を見据えていることが多い。すでに仕事に就いている友人が、これから仕事に就こうとしている仲間に厳しくアドバイスをすることも稀ではない。何年までには結婚し、そのためにはいくら必要か、そのためにはどのくらい仕事をするのか…。彼らの将来設計はしっかりしており、もう子供ではないという自負心が読み取れる。実家に暮らしているものもいるが、都市部に一人暮らし、恋人と同棲というものも多い。

 

 

若者達が見つけた新しい「働き方」、「生き方」

去年「マイルドヤンキー」という言葉が流行った。地元志向が強く内向的な若者を指す言葉である。東京の目線で地元を見下しているという反論もあったが、実際に地元に就職する日本のリアルな若者達は、このようなマイルドヤンキーに定義されるのではないかと感じる。

別に良くも悪くもなく、若者が新しい働き方を見つけている結果なのではないだろうか。むしろ「働き方」というよりは、新しい「生き方」であり、それにただ「働く」ということが必要不可欠であるから付随しているだけのような気がする。

 

これからも地元で働く若者は増えるであろう。そして地元が好きという若者がもっと増えていくように感じる。僕は彼らに会うたびにとてつもないパワーを感じる。なににも左右されない、いわゆる「絆」のようなものであり、都心では感じることのできない心強いなにかがある。

日本の若者は新しい幸せのベクトルをもう見つけているのかもしれない。

 

オビ コラム

池島香輝池島香輝…慶應義塾大学環境情報学部1年

 

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