オビ コラム

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!その14

企業の成長は、企業の「素人力」が担う

◆文:佐藤さとる (本誌 副編集長)

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4月になった。

電車の中や街中で真新しいスーツ姿の、いかにも新入社員という男女を見かけると、思わず目を細めてしまうのは、ワタシがすっかりオジサンだからである。彼ら彼女たちは、これからそれぞれの会社で、それぞれの職場で、戸惑いや焦り、不安と自信をないまぜにしながら、成功と失敗を繰り返しては、仕事のスキルを磨いていく。

 

で、いつか自分もNHKの「プロフェッショナル―仕事の流儀―」なんかに出て、「仕事とは…」とか語ってみたいと思っているに違いない。たぶん100人中28人くらいは。いや、もっとか。半分以上はいるかもしれない。いいな、若者。

そんな部下を持った上司や先輩は、「早く一人前になって欲しい」と願いながら、あまり急成長すると、「オイオイ、ワタシの存在を脅かすなよ」と笑顔を見せながら、「マジで」と心の中で懇願するものだ。

 

この「一人前」というのは、極めて感覚的な慣用句のように聞こえるが、明確な基準はある。よく「自分の給料くらいは自分で稼げるようになれ」とか上司や先輩が叱咤激励するが、それだけでは一人前とは言えない。利益というものが生まれないと会社は成長しないからだ。

だからと言ってたちまち先輩や上司分の給料何人分もまとめて稼ぐような新人は、上司にとって脅威以外の何者でもない。自分の席がなくなるからだ。難しいなぁ、会社ニッポン。

 

一方プロフェッショナルというのは、一人前に比べてかなり曖昧だ。「利益を出せるようになったらプロだ」という言い方もできるが、その程度では当然NHKからお呼びはかからない。番組に出ていたある年配者は、「プロフェッショナルとは?」と問われて、「次の仕事も来る人だ」と返していた。実に深い言葉だ。

 

「な〜んだ、当たり前じゃないか」と思ったら、それは仕事というものを勘違いしているだろう。

ふつう仕事は「次々と入って」来ないものだ。その投資額以上の価値を認めない限り、次の依頼、次の購入はない。「そんなことを言っても、毎日さ、次から次へとやることがあるのよ」と反論する方もいるかもしれない。

それは仕事のように見える「作業」であって、仕事そのものではない。もしその作業に「他ではできない何か」を誰かが感じているなら、それは仕事と言えるけど。

 

で、問題は仕事ができる人が集まれば、その企業がすごく伸びるとは限らないことだ。仕事ができる人とかプロフェッショナルな人には大きな陥穽があるからだ。

一時、いや、今でもそうだが、およそお客さまと接する業界ではCS=顧客満足度向上活動に余念がない。その合言葉は「お客さまの身になって」という魔法の言葉だ。お客さまの身になれば、お客さまが望んでいること、困っていることが自ずとわかるから、そこに応えればモノやサービスを買っていただけるというわけだ。

しかし、なまじプロフェッショナル意識が高かったり、キャリアを積んでいると、お客さまの望んでいることがわからなくなる。なぜか─。

 

「私がお客さまだったら、そんなことは思わない。そんなクレームは生まれない」と思ってしまうからだ。意識がその業界にどっぷり染まったまま、お客さまと立ち位置を替えただけでは、お客さまの望むものなど到底わからない。

実際ワタシがかつて関わっていた航空業界の中堅どころの方には、こういう考えの方も結構いた。中堅ともなれば、新人教育やキャリアップ研修なんかをする立場だったりするから、やっかいだ。別に航空業界に限ったことではない。多くの、いやほとんどのサービス産業ではあり得ることである。

 

だから、新人が増えた企業はチャンスなのだ。新人はもっともお客さまに近い人たちだからだ。プロフェッショナル意識がこびりついた頭にガツンと刺激を与えてくれる。お客さまはそんなことを望みませんよ、と。

 

日本にコンビニという仕組みを定着させ、いまなおトップを走るセブン-イレブンでは、新人の入社式にトップがこう語りかけるという。

「みなさんプロにならないでください。いつまでも素人でいてください─」

企業の成長はプロの技術とノウハウをもった素人が担っている。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

 

オビ コラム

2015年5月号の記事より
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