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Business Column イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ! その8

“氷山の一角”マーケット

◆文:佐藤さとる (本誌 副編集長)

 

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「イノベーター理論」。いまや市場のすべてがこの理論で説明できる。まさに万能理論だ。見識の高い読者の皆さんはもちろんごぞんじであろう。えっ?知らない? じゃ、ワタシが教えてあげよう、もちろんタダで。

一般に市場には感度の違う5つのタイプの人間がいて、新商品などを出すとこの5つのタイプの人達が順を追って反応し、広がっていく、らしい。それがイノベーター理論。この論によると5つのタイプの比率は決まっていて、順に2・5%→13・5%→34%→34%→16%と転移する。

順に解説すると最も早く飛びつく上位2・5%が「革新者=イノベーター」と呼ばれる人たち。商品への関心が高い、いわゆるマニア層である。

次が「初期採用者=アーリーアダプター」。情報に敏感だが、行動は革新者の反応を見て「よさそう!」と思ったら積極的に購入するタイプ。

その次が最もボリュームの大きい「前期追随者=アーリーマジョリティ」。すぐには飛びつかず、比較的慎重な対応をする層。

その後に反応するのが「後期追随者=レイトマジョリティ」。懐疑的で周囲で使われ出したのを確認してから購入する。周囲に追随することから「フォロワーズ」という言われ方もされたりする。

最後に反応するのが「遅滞者=ラガード」と言われる人々。購入に対しては常に懐疑的で最も保守的な層だ。変化を好まず、新製品に無関心な層。歴史伝統性を重んじるタイプなので「伝統主義者」とも言われる。

新製品が売れるかどうかは、最初の革新者ではなく、だいたい初期採用者の反応で決まると言われている。ここを超えて前期追随者が反応すればよし。そうでなければ、商品も売れていかないし、市場も広がらない。

 

だがよく考えるとこの理論は所得も反映している。出始めの新製品はお値段がお高い。でも量がはけてくると市場価格もぐっと下がる。データはないが初期対応者の可処分所得は、後期追随者のそれより高いだろう。

そんな消費者を相手にする企業も大変だ。技術革新が進んだ現代では、大量生産はいとも簡単にできるし、大量に出回ったものはすぐ陳腐化する。新製品が市場に広がる前に、次の商品が投入されてしまうこともある。しかも売れそうとなれば、ライバルがどんどん似た商品を出してくる……かくて開発費の回収もままならないまま、なんか永遠の自転車操業を強いられているのが企業…ああ、市場ってイヂワル!と、拗ねてみたくなるが、そんなことで拗ねるのは、先進国に暮らす人間の傲慢さなのかもしれない。

というのもこれまで想定していた「市場」とは、ヨーロッパや北米、日本などのいわゆる先進国に限定されてきたからだ。

BOP=ボトムオブピラミッドという言葉を聞かれたことはあるだろうか。この地球上には約70億人がいるとされるが、この70億人は所得層別にピラミッドを構成していて、そのボトムにあたる層を指す。

この70億ピラミッドを眺めていくと我々が「市場ってイヂワル!」と騒いでいたのは、上のほうのほんの僅かな部分に過ぎないということが分かる。

ちょっと前はBOPの上にある「ボリュームゾーン」という、人口比で最も多くを占める層が話題となっていた。BRICSやそれに続くVISTA=ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン=あたりの中間層あたりが対象だった。イノベーター理論でいうところのアーリーマジョリティあたりだ。これが一気にボトムまで対象になってきたのだ。

 

「大量生産の時代は終わった、これからはひとりひとりの好みに対応したONE TO ONEマーケティングの時代だ」と言われて久しいが、この言説も、世界的にはアーリーアダプターあたり、いやイノベーターあたりでぐるぐる回していたに過ぎない。

見えていたのはつまり「氷山の一角」だけだったのだ。

 

今後世界の企業は、この水面下にある氷山の大部分を相手にすることになるわけだが、従来のマーケティングや商品開発は通用しなくなる。水面下に沈んだ氷山にアプローチするには、まずは冷たい海水に潜らなければならない。

科学の粋を集めた高価なウエットスーツを使うのか、それとも極寒の海で活動できる強靭な体をつくり上げるのか。アプローチ方法はさまざまだ。

知恵と体力、そして強い信念が、いまこそ経済人に求められる。

イマドキのビジネスは、だいたいそんな感じだ。

 

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2014年10月号の記事より
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