司法書士九九法務事務所 尾形 壮一|『黄金株』について
『黄金株』について
◆文:尾形 壮一 (司法書士九九法務事務所)
『黄金株』と呼ばれている株式をご存知でしょうか。
ちなみに会社法上ではそのような名称の株式は存在せず、正式には拒否権付種類株式(会社法第108条1項8号)の使い方の一つがこれにあたります。誰がそう呼び出したのかまでは不明ですが、おそらくは『黄金並に価値のある株式』という趣旨で用いたのでしょう。少し大袈裟気もしますが、中身は確かにそれだけの価値があります。ただし、非常に強力な権利を得る反面、相応の注意も必要になってきます。そこで、ここではその内容、使い方、注意点等をご説明させていただきたいと考えております。
『黄金株』とは、株主総会(取締役会設置会社においては、取締役会も含みます。)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、拒否権付株式を有する株主の種類株主総会の決議を必要とする内容の株式になります。
もっと簡易に言いますと、いくら株主総会(又は取締役会)で絶対多数で可決した事案であっても、たった一人の『黄金株』所持者(たった1株であってもかまいません。)の鶴の一声によって、いとも簡単にその決定を覆せてしまうわけです。これは非常に強力な権利でして、「株式」という部分での数の論理をものともしません。ただし、もちろんながらすべてにおいてそれができるわけではありません。あくまで事前に定められた拒否権の内容の範囲内に限るものとなります。
一般的にはM&Aや役員(主に代表取締役)選解任等、会社にとっての重大決定であったり、もしくはそう思われる行為について限定的に定められるものです。より広範囲に定めることも現実的には可能ですが、そこまで会社の意思決定を拘束する理由はないでしょうし、むしろ無用な混乱を生む恐れがあります。
それでは、次にその使い方について具体案を交えてご説明させていただきます。
例えば会社を息子に譲りたい社長さんがいたとします。ただし、まだ息子は社会経験が浅くすべての決定権限を持たせるには一抹の不安が残る・・・とは言え、自身がいつまでも会社に居座っていては息子が自立できない等々・・・
そのようなお悩みを持っていらっしゃる場合、社長さんが『黄金株』を所持してさえいれば、仮に他の株式をすべて息子に贈与し会社の経営権を譲っていたとしても、息子が行う会社の存続に関わるような行為に対し、『待った』をかけられるわけです。ようするに、その旨の内容を拒否権として定めていれば、社長さんが知らぬ間に会社が合併されたり事業譲渡されたりされる心配はありません。必要以上に経営に口出しをしなくとも、最終的な決定権のみを保持し、その動向を俯瞰することもできるわけです。
尚、『黄金株』は登記事項となりますので、会社の定款に定めるのはもちろんのこと、管轄の法務局に対し登記を申請を行い、登記簿(会社謄本)にその内容を記載する必要があります。
これまでお話してきました『黄金株』ですが、非常に強力な権利故、万人に歓迎されているわけではありません。本来、『黄金株』は上場会社での買収防衛策としての利用が期待されていた一面がありましたが、今では『原則として黄金株の発行を控えるように』というのが東京証券取引所の見解のようです(ようするに将来的に会社の上場をお考えの場合は、あまり適した株式とは言えません。)。諸外国においても、その発行の禁止や廃止が訴えられているところさえ存在します。
『1株だけで会社の重要決議に関する拒否権を持つ黄金株の発行は、他の一般株主の権利をあまりにも不当に制限する』というのがそれらを招いた理由でしょう。
さて、最後にその注意点についてです。
仮にこの株式を発行される場合、最もご注意いただきたいのは相続についてです。不動産や預金等と同様に、原則株式についても相続の対象となります。その結果、意図していなかった相続人にこの株式が相続されてしまうことも考えられるのです。結果、相続人の能力等によっては会社経営は思いがけず停滞してしまうこともあり得るでしょう。
尚、この問題につきましては、『遺言書』を作成されること、もしくはこの株式を取得条項付種類株式として発行することによって解決することができます。遺言書については、それ自体、非常に有用な書面ですので、他の財産等と併せてご検討いただくのが賢明かと思われます。また、黄金株を取得条項付種類株式とする場合については、黄金株を持つ株主が死亡したことを条件に会社が当該株式を取得することができる旨を定款で定めることができますので、実質的には一代限りの株式とすることが可能です。現実的には後者を前提とし、場合によって前者を用いる方法をお奨めしております。
簡略ながら、以上が『黄金株』についてのご説明となります。
この諸刃の剣のような株式ですが、うまく使いこなせる自信をお持ちの方は、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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◆2014年8月号の記事より◆
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