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特許出願のデメリットとは?

◆文:弁理士 吉田 みさ子 (R&B特許事務所 所長)

 

そもそも特許権とは何か?

ひらめき一言でいうと、これは「発明を独占的に使用できる権利」です。「特許権を取得した」というと、「凄い技術だ!」とか、「技術が優れている」と感じるかもしれませんが、それは違います。特許権は、新しくて有用なものであれば取得することが可能であり、技術の優劣とは関係ありません。特許権の価値は、「その特許権によって、事業が守れるか否か」に基づいています。あくまで、「模倣を防止するためのもの」なのです。

 

また、特許権には権利範囲(請求の範囲といいます)というものがあって、特許出願する人が権利範囲を決めて特許庁に権利をくださいとお願いします。これが、いわゆる出願の手続です。権利範囲を狭くすると、それだけ特許権は取りやすくなります。ただ、その分事業を守るのも難しくなります。

なぜなら、権利範囲から外れる範囲は、模倣が自由なのです。つまり、権利範囲の狭い特許権にはそれほど価値がありません。巷には、「うちの会社は○○件特許を持ってるんだよ~」と自慢する社長さんもいますが、その特許権に本当に価値があるかは、甚だ疑問です。

 

さて、その特許権ですが、大きなデメリットがあります。

 

 .特許出願をすると、公開される。

 .特許権を取得して、模倣している第3者(侵害者と呼びます)を誰も取り締まってくれない。→特許権者が侵害者を見つけ、交渉・訴訟を行う必要があり、侵害しているという証明を特許権者が行わなくてはならない。

 

つまり、特許権を取得しても、侵害者が特許権を侵害していることを証明できなければ、権利行使されません。こうなると特許権の意味ってあるのでしょうか。要するに、やみくもに特許出願を行うと、守るべき技術をかえって公にしてしまい、模倣を助長させることに繋がりかねないのです。

 

話は変わります。皆さん、「ノウハウ秘蔵」という考えをご存知かと思います。文字通り、ノウハウを隠し通すという意味です。この「ノウハウ秘蔵」、大変有効です。コカコーラは特許権を持っていません。でも、「ノウハウ秘蔵」によって、自社の味を100年以上守り続けています。ケンタッキーも同じです。このように、「ノウハウ秘蔵」を行うことにより、半永久的に自社の市場を守っている例もあります。

そう、「特許権」は出願から20年で権利が満了します。これに対して「ノウハウ秘蔵」はばれるまで。ノウハウをしっかりと管理すれば、最強のツールになり得るのです。

 

せっかく出した新製品、模倣されると腹が立ちます。でも、そもそも、独占禁止法なんていう法律があるくらいで、産業において模倣は法律上認められた権利なのです。ただ、考えるのは大変だけど模倣は簡単、それでは考えた人があまりにも気の毒なので、「特許権」があるのです。つまるところ、「特許権」は模倣自由の例外規定なのです。せっかくの新製品を模倣されるのは腹立たしいですよね。だけど法律上は、模倣は自由です。だからこそ、特許権とノウハウ秘蔵を上手く組み合わせて模倣をさせないようにすることが大切なのです。

 

 では、出願すべきものと出願すべきでないもの、どうやって判断すればいいのでしょうか?

私はそういったコンサルティングを行っていますが、事業の規模や業界の状況、事業展開の予定や予算などなど、様々な要素を考慮した上で判断を行います。ここでは、基本部分のみについて記載します。

 

<出願すべき発明>
 ・製品を見たり、解体・分析したら、内容が比較的簡単に分かる発明
模倣を発見するのも、模倣を証明することも簡単

 ・パンフレットに記載して効果をアピールする予定がある発明
どうせばれるのだからデメリットはない

・誰でも思いつきそうな発明
公開するデメリットは小さいが、権利取得できたときのメリットは甚大

・理論的には製造可能だが、実際にはノウハウなしでは製造できない発明
本当に技術が必要な部分が分からなければ模倣できない

 

<出願してはいけない発明>
・製品を見たり、解体・分析しても内容が分からない発明
内容が分からないのならば、そもそも模倣もできない、技術を教えるだけ

・試行錯誤して得た情報
製造条件などの大切なノウハウを教えてしまうようなもの

・別のものに置換しても、同じ機能を有する製品が簡単に作れる発明
そもそも権利としての価値がない

 

もちろん、特許権を取得することにより、融資が受けやすくなったり、営業がし易くなったりする模倣防止以外の効果もありますので、出願すべきでない発明でも出願することは良くあります。また、他社に特許権を取得されてしまうと面倒なので、公知化するために敢えて特許出願を行う場合もあります。

 

 ところで、中国や韓国では、日本の公開特許を研究する専門のスタッフを雇っているのを知っていますか?

彼等は、日々日本の技術を盗むべくある意味多大なる努力をしています。ムダに情報を開示することは、企業及び日本の産業にとって好ましくないことなのです。世間には、特許公開と同時に模倣が始まったなんていう話があるくらいです。特許出願を行う場合であっても、特許権の取得にどうしても必要となる情報は開示しなくてはいけませんが、それ以外の情報はできる限り開示しないことが好ましいのです。

 

予想通り、随分と小難しい話になってしまいましたが、本当に意味のある特許権だけを厳選して取得することで、特許権に係るトータル費用のコストダウンも可能となります。特許出願は、事業戦略の一部です。事業を行う中で、どのような特許権を取得し、事業を守っていくか、そういった観点から検討して戦略的に特許権を取得することが、非常に重要なのです。

 

さて、最後に少しだけ一般論です。弁理士は、出願して初めて料金が発生するシステムになっており、通常依頼を断ったりはしません。あくまで特許権を取得する専門家にすぎず、クライアント企業の事業のことまで考えて、上述したデメリットを指摘することはないようです。結局、どのように特許権を取得するのかといった戦略や、どの情報まで開示するかを決めるのは、あくまでクライアントです。上記を踏まえた上で、しっかりとしたご判断をされることを強くオススメします。ご拝読ありがとうございました。

 

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吉田みさこ氏

プロフィール
吉田みさ子(よしだ・みさこ)…三重大学大学院 生物資源学研究科修了。専門分野:電気・機械・化学。

2007年に弁理士登録

株式会社ソニーより優秀起稿者賞を受賞(2008年度)

特許事務所設立(2012年)
知財を活用した事業戦略コンサルティング会社R&Bディベロップメント設立(2013年)

 

R&B特許事務所
〒105-0004 東京都港区新橋2-20-15 新橋駅前ビル4F PhilPort
http://www.rbpat.com

 

2014年7月号の記事より
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