─企業経営プラスワン─

産業医とのタッグがカギ。従業員と企業の健康を守る本当の「働き方改革」

◆文:株式会社エムステージ/代表取締役社長 杉田雄二

 

株式会社エムステージ/代表取締役社長 杉田雄二氏

首相肝煎りで進んでいる「働き方改革」。各企業も多種多様に取り組み、その動きは毎日のようにメディアを賑わせています。

 

特に目立ちやすいのが、テレワークや副業・兼業といった柔軟な働き方を推進するものでしょう。

多様な働き方を認めることで、子育てや介護に忙しい女性が働きやすくなったり、ビジネスに縛られて住む場所を選択する必要がなくなったり、既存の働き方では社会参画が難しかった人たちの雇用促進にも効果を発揮しています。

 

しかし、最も基本的であり、重要な「働き方改革」。それは、従業員が健康的に働くことのできる環境をつくることではないでしょうか。

 

2015年、大手広告代理店に勤めていた社会人一年目の女性が自殺し、後に過労死認定されました。ショッキングな事件でセンセーショナルに報道され、社会に大きく影響を与えたことは記憶に新しいでしょう。

結果、長時間労働の是正、メンタルヘルスケアがますます加速しています。

 

もちろん彼女だけが異例なのではありません。

厚生労働省が公表した2016年度の「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害に関する労災件数は、請求される件数・支給決定される件数共に増加の一途を辿り、2016年は過去最多の請求1586件、支給決定498件となりました。

そのうち自殺者数は、請求198件、支給決定84件。

一人ひとりの大切な命や健康が奪われる悲惨な状況を変えていくのは、社会にとって急務でしょう。

さらに企業目線で言えば、従業員の過労死が起こりうる状況は、企業発展の上での大きなリスクとなります。

 

私が代表を務めるエムステージで以前、企業の人事労務担当者に向けて「メンタルヘルス対応セミナー」を開催したのですが、ご参加いただいたうちの93%もの企業が、「直近の3年間で、メンタルヘルス不調により休退職した従業員がいた」と回答しました。

従業員のメンタルへルスケアは、ほとんどの企業が直面している問題ということでしょう。

 

 

 

では、企業はどのようにメンタルヘルスケアに向き合うべきなのでしょうか。

企業が取り組むべきこととして挙げられるのは、従業員のメンタルヘルスに悪影響を与える長時間労働とハラスメントへの対策です。

 

長時間労働対策としては、36協定締結と正しい運用、時間外労働に対する正しい賃金支払い、そして従業員の労働時間を正しく把握することが重要です。

ハラスメント対策としては、相談窓口を設置して正しく対応すること、相談者のプライバシーを守り業務上不利益が生じないように配慮する必要があります。

 

そして、従業員が健康的に働くことのできる職場づくりには、「産業医」の存在が欠かせません。

産業医とは、労働安全衛生法により、50人以上の労働者がいる事業場に選任が義務付けられている、労働者の健康管理について指導・助言を行う医師のこと。

例えば、従業員のメンタルヘルス不調に気付くためにも、産業医による面接指導が必要です。

 

しかし、法律で定められているから産業医は選任しているものの、上手に運用はできておらず、いわゆる“名義貸し”のようになってしまっている企業も多く存在しています。

これではせっかくの医師の知見を活かせていないと言えるでしょう。実際に改善することなく増え続けている労災件数を見ても、その現状は明らかです。

 

産業医の役割は、不調者への面接指導、定期的な職場巡視、健康的に働くための労働環境の是正など。従業員個人の不調を治すことが目的ではなく、その個人の病状の業務上の原因を把握し、悪化させない対応を企業へ促すこと。

そして何より同じことを繰り返さないために、企業に環境改善をアドバイスすることなのです。企業は産業医のアドバイスを元に、不調者へのケアと、労働環境改善を進めなければなりません。

 

ちなみに、ここに書いた話は単なる企業の努力目標ではありません。

労働契約法第5条にある「安全配慮義務」をご存知でしょうか。企業には、従業員の生命や身体を危険から保護するように配慮すること、メンタルヘルス不調者が働くことによって悪化しないように配慮することが義務付けられているのです。

 

勿論、産業医を正しく選任し、従業員のメンタルヘルス対応を強化することは、企業にとっても余りあるメリットがありますので、義務だからというわけでなくとも積極的に取り組むとよいでしょう。

ストレスチェックや産業医による面接指導で従業員の不調を早期に察知することができれば、退職リスクを下げることができます。

さらに、産業医から職場環境へのアドバイスをもらい、制度などの改善に繋げることができれば、中長期的な離職率の低下や、企業のイメージアップにもなります。

 

同様の理由から、産業医選任義務のない規模の事業所でも、従業員のメンタルヘルス対応への取り組みは重視すべきでしょう。

産業医がいなくとも、健康診断の事後措置や長時間労働者への医師による面接指導ができる環境をつくっておく必要があります。

企業が産業医とタッグを組み、従業員が健康的に働くことのできるように真摯に向き合うことは、ひいてはその企業の発展へと繋がることになるでしょう。

「働き方改革」の中の重要な要素として一社でも多くの企業が、取り組みを強化することを祈っています。

 

 

●筆者プロフィール

杉田雄二(すぎた・ゆうじ)…1975年生まれ。大学卒業後、医療コンサル会社勤務を経て、2003年株式会社メディカル・ステージ(現、株式会社エムステージ)を設立。持続可能な医療の実現を目指し、事業領域の幅を広げ活動している。

 

●企業情報

「すべては、持続可能な医療の未来をつくるために」をミッションとし、医師の紹介事業・医療機関の経営支援事業・企業向け産業医サポート事業・企業向けヘルスケアマーケティング事業など、日本医療を取り巻く課題解決に幅広く取り組んでいる。

 

●株式会社エムステージ〈東京本社〉

〒141-6005 東京都品川区大崎2-1-1 ThinkPark Tower5F

TEL 03-5437-2950

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◆2017年10月号の記事より◆

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