オビ コラム

南山会からの提言『東日本大震災以後 ─ 新しい社会の創出へ向けて5年前の復興提言を検証する〈2〉』

◆文責:南山会

南山会02

本シリーズは、東日本大震災の被災地再建は「単なる復旧・復興ではなく、この大災害を機に新しい社会を創出しなければならない」という意識で、大震災半年後にまとめられた5つの提言を再検証する試みである。

それは、被災地の再建を推進しつつ、そこで画期的な新機軸の社会的変革を試行し、その効果を見極めながらそれを日本全体に拡大適用していこうという考え方を基本にしている。今回はその2つ目の提言である。

 

 

【提言2】道州制の実証実験 ― 新しい国家像への挑戦

被災者の生活と地場産業の再建、社会インフラの復旧などが、急ピッチで進められることを願うばかりであるが、復旧・復興の全体計画や都市計画案が決められ、それに沿ってインフラ建設が進められていく時間軸を考えると、現実的には被災者は尚この先も長い我慢を強いられることになる。まことにやるせないし歯痒いばかりである。

被災者の心情を少しでも和らげ前向きにするには、前途に対してよほど強力な期待と希望を打ち出さなくてはだめだ。何をどうすればよいのか?

我国は、「変わらなくては」と言われ続けて今や失われた20年となってしまったが、そういう状況下だからこそ単なる復旧、復興ではなく、新しい社会を創出しなくてはならないという空気が醸成されつつあったのに、どうも最近その機運は盛り上がりに欠けるように感じられる。

しかし、手をこまねいて東北の2050年問題を放置しておくわけにはいかないのである。この際、我国社会の閉塞感も打破するような思い切った施策を、東北をモデルケースとして試行する提言を行い、広く国民世論を喚起したいと考えるものである。

 

被災県のリーダー達にとって、財源を復興債に求め償還は基幹税の増税とするという復興構想会議の提言は非常に重く、中央とのすれ違いやスピード感のずれに悩みつつも、巨額の復興資金は国に頼らざるを得ない。

復興計画の立案や実行は、被災の現実に加え地元の歴史や文化、生業の実情を共有する当事者として、自分達の必要は自分達が一番良く分かっているのだから、自分達に任せてもらえないかと考えるのではないだろうか。

このマインドは地方自治の重要な柱であり、事実、政府の復興基本方針をベースとする計画の具体化は、被災自治体が中心となって実施されることになろう。

これを契機に東北の自主・自立・自助を名実ともに最大限に育て、活性化を図る強烈なインパクトのある施策を継続的に打つべきであると考える。

 

その一つとして、東北6県を統合し、経済規模をある程度大きくすることで自助努力を推進しやすくして、政策上の意思決定やコスト削減など業務効率を向上させ、地元ニーズに密着した大胆な規制緩和や民間活力の迅速かつ効果的な導入促進を目的とした「道州制」の導入を提言したい。

 

これも将来のあるべき日本社会の姿を遠望するグランドデザインの一つであり、被災地再建はこれとシンクロするかたちで進められる。

 

前号でふれた東北地方の衰退は、少子高齢化による人口減少に加え、津波被害や放射能被害を受けた被災者、特に若年層が疎開先に定住し、将来的に戻ってこないことで増幅される可能性もある。

道州制の導入で自治体としてのポテンシャルが上がることは、その対策としても効果的であり、被災県を含み東北州を設立して復興特別州(特区)の制定を行い、道州制の第1次社会的試行を10年間にわたり実施する。そのための国としての法整備は、財政権のみならず立法権までを含み出来る限りの自治を認める方向とする。

この権限の付与に関して、道州制の社会的試行という観点から北海道と四国も第1次試行の対象とするが、財政権のみ付与し立法権は付与しないなど、条件を変えて比較検討を行うことが考えられる。

その後、対象とする州の数を増やして第2次試行を10年間実施、20年後には我国全体に拡大し第3次試行を10年間実施、そして、第1次試行開始から30年後に定着させるという行程で道州制への移行を完了させる。

 

東日本大震災のような想定を超える巨大災害に対し、その復興予算案策定のため国会で第一次、二次、三次と大変なエネルギーと長い時間が費やされ、国家財政逼迫の状況下で増税も避けられない状況である。我国のような自然災害多発国にあっては、国費として災害対策リザーブを積み立てる仕組みを持つべきではないだろうか。

 

そこで道州制の試行を機に、災害対策リザーブ積立てを目的とし、併せて観光振興と雇用の創出を意図し、北海道政府がニセコのような適地を選定して、一大観光カジノ・リゾート建設を行うことを提言したい。

 

この企画は中央政府と道州政府のコンソーシアムということになるだろう。試行とはいえ道州制が発足すれば、必要な法改正は地域限定でやり易くなる。

冬のアウトドア・スポーツ、テーマパーク、世界一流のエンターテインメント、数万室のホテル群、北海道の大自然、温泉、食、医などの組み合わせは、暑い砂漠の人工的な米国ラスベガスの対極として共存しつつ、多くの外国人観光客を世界中から集めることになる。

その経済効果と災害リザーブ積立は長期的に相当な額になり、災害復旧対応から復興、新たな発展という目的に大きな貢献をすることになろう。

 
道州制の導入は、東日本大震災の復興と新しい社会の創出へ向けて効果的なカンフル剤であり、将来を見据えると地方分権や地方の活性化に加え、我国の「変化」への起爆剤になる。

地域の潜在力を地方ごとに結集して高めることで、大都市への過度の集中に伴うリスク分散の流れを作り出すことが期待されるし、将来的には選挙制度をはじめ、首相公選など中央政治のあり方にも、非常に大きな変革をもたらす可能性を否定しない。

我国に蔓延する閉塞感を打破するのに最も強力なインパクトになり得るもので、政府の決意が国民の心に伝わりやる気が掻き立てられることになるだろう。(提言2 以上)

 

 

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◎南山会

故田中清玄氏の薦めにより1982年に日本国内のみならず世界の情勢に関して討議と情報交換を行うことを目的に設立された会。活動としては、講師を招き時代の動きに合わせたテーマによる研究会、自由討論会を行う例会ほか、分科会活動として気仙沼の水産加工業の復興支援、インドネシア・ロンボク島沿海村落の再生可能エネルギーによる水産加工業の支援などを行っている。

今回の提言は、川村武雄(提言1、2)、斎藤彰夫(提言3)、田中俊太郎・南山会前代表(提言4)、近藤宜之(提言5)の4人の会員によって取り纏められたものである。現在の会長は筒井潔。

◎執筆者プロフィール

川村武雄

川村武雄(かわむら・たけお)…慶応義塾大学工学部卒業後、大成建設入社、中近東、東南アジア、米国などで建設工事に従事。その後、半導体製造装置メーカー米国現地法人GMを務め、現在、米国在住。

 

齋藤彰夫

齋藤彰夫(さいとう・あきお)…慶応義塾大学工学部卒業後、日立入社、通信機器海外事業企画、輸出営業、国際情報通信システムのプロジェクトマネジメントに従事。その後、欧米通信関連企業日本法人代表等を務め、現在、海外企業の日本参入支援ビジネスコンサルタント。

 

田中俊太郎

田中俊太郎(たなか・しゅんたろう)…南山会前代表。 慶応義塾大学工学部卒。東芝に入社、発電制御システム、自動化システム、電力系統情報制御システム開発に従事、産業システムソリューション事業、カーエレクトロニクス事業などの事業企画、経営に参画。南山会の代表を設立より33年間務める。

 

 

近藤宣之

近藤宣之(こんどう・のぶゆき)…慶応義塾大学工学部卒業後、日本電子株式会社に入社。現在、株式会社日本レーザー代表取締役社長。経済産業省、厚生労働省、東京商工会議所等からの企業経営の表彰多数有り。著書に「ビジネスマンの君に伝えたい40のこと」(あさ出版)、共著書に「トップが綴る わが人生の師」(PHP出版)、「『わが[志]を語る』~トップが綴る仕事の原点・未来の夢~」(PHP出版)、「『トップが綴る人生感動の瞬間』~心が震えた出会い~」(PHP出版)、「『お客様やパートナーとの共存共栄の実現』~グローバルに通用する進化した日本的経営~」(企業家ミュージアム)などがある。(BigLife21ホームページにて「近藤宣之」で検索)

 

 

◆2016年6月号の記事より◆

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