◆文:冨田和成(株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO)

 マーケティングの大家であるフィリップ・コトラーは、マーケティングを「価値を創造し、提供し、他の人々と交換することを通じて個人や組織が必要(ニーズ)とし欲求(ウォンツ)を満たすことを意図する社会的・経営的活動である」と定義しました。また最終的な目的は、その活動によって、Customer Perceived Value(顧客が受容する価値、あるいは顧客が認識する価値)を創造することと述べています。

 

 しかし実際には、この概念は消費者ニーズを探るマーケティング調査と分析、それに基づく商品開発、広告宣伝、販売施策といった狭い範囲の業務内容と捉えられていることが多いようです。マーケターにはこれらの業務を行う能力やスキルが求められています。いわばマーケティングのゼネラリストです。

 

いま求められている専門性

 一方、現在の「Webマーケター」の転職市場ではより細分化された、専門的でテクニカルな能力を持ったスペシャリストが求められています。例えば、サイトの構築、Web広告、アクセス解析、効果測定、SEO、クリエイティブデザイン、コーディングなど細分化され専門性を持った知見とスキルが必要です。

 

 指摘しておきたいのは、従来型のマーケターとWebマーケターはまったく別の職種ととらえられていることです。データアナリストやデザイナー、メディアプランナーといった専門分野に細分化され、そのため転職市場でもこれらの専門分野ごとに能力が判断されます。最近では「Webでの施策の全体ディレクションを行う職種」としている企業が多いようです。

 

 しかし、インターネットが誰にとっても生活インフラとなった今、Webの専門的な知識や知見以上に、より上位のマーケティング概念である「顧客の理解」と「提案する価値の本質の理解」が必要になってきています。なぜなら顧客・生活者にとってリアルの世界とWebの世界の垣根はすでに無くなり、両者を区別することは生活者の視点からは意味をなさないからです。

 

 顧客を理解する上で注目すべきは、カスタマージャーニー(Customer Journey)を把握し理解することです。カスタマージャーニーとは、顧客が自社の商品・サービスを購入・体験するまでのプロセスのこと。ブランド・商品と顧客のすべてのタッチポイントにおいて、ブランド・商品との接触、アクション・体験、心理と行動の変化を起こすかを明らかにすることです。アクセス数やユニークユーザー数、コンバージョンレートなどは目標と結果を数値で表したものに過ぎず、真の意味でのカスタマージャーニーではありません。

 

 

 求められる本質的な理解

 もう一つ重要なことは、提案するブランド・商品・サービスを突き詰めて考え、顧客にとっての本質的な価値を定義し理解することです。現在のWebマーケティングでは残念ながら、この部分が欠落していることが多いようです。表層的なスペックではなく、顧客が何に対価を払っているのかを徹底的に考え抜く必要があるのです。

 

 広告会社のマーケティングやメディアプランニングでは、リアルの世界とWebの世界を融合したプランニングができる人材の採用や教育に力を入れ始めています。

 

 オフライン/オンラインを問わず、顧客を取り巻く環境をより広い視点で俯瞰し、顧客にいかに働きかけて、興味喚起、検索、購買、インフルエンサーへの拡散などを促すか──これを考える能力が求められています。Webの世界の理解だけで通用する時代は終わったのです。

 

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●筆者プロフィール/冨田和成

神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。

〈お問い合わせ先〉 info@zuuonline.com

◆2016年4月号の記事より◆

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