オビ コラム

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ! 22

純国産ジェット機を持ち上げるなら三菱よりホンダだろ!

◆文:佐藤さとる (本誌副編集長)

 

05_business_column22 佃製作所が提供したバルブシステムを搭載した純国産ロケットの打ち上げが、11月15日、無事成功した。そこまでの道程を見守ってきたワタシとしては、社長の佃航平氏以上に涙腺を緩ませた。おめでとう関係者の皆さん! ……あ、佃製作所、ご存じない? そうです、ドラマの「下町ロケット」です。

たまたまの初飛行があったり、さらに純国産初の商業用H2Aロケットの打ち上げ成功なんかもあったりしたので、ついアツくなってました、ハイ。

 

ご承知のように、いずれも下町ロケットのモデルとなった三菱重工(MRJは子会社の三菱航空機)が開発した日本の先端技術の結晶である。

とくにMRJは、戦後航空機製造業の消滅を余儀なくされた日本にとっては悲願であっただけに、マスコミの扱いは大きかった。

MRJは従来機より燃費が2割いいのが最大のウリだ。三菱は、今後中型ジェット機市場の5000機の半数近く、2000機を狙うと強気だ。現在採算ラインの400機の注文があるという。ただ決して安閑とはできない。

 

先行する2強、ブラジル・エンブラエルとカナダのボンバルディアに加え、中国とロシアが中型機「ARJ」と「スーパージェット100」を開発している。中国が先行開発したARJには、信頼性に疑問符がつくとして、引き合いはないようだが、ロケット打ち上げの実績では日本を1桁上回っている中国の空の実力は侮れない。

ロシアも同様だ。ボンバルディアもエンブラエルも当然必死に新型を出して来る。型式証明に手間取れば、キャンセルの憂き目もありうる。

 

何よりワタシが気にしているのは、「戦後初国産ジェット旅客機」という見出しの扱いだ。聞けばMRJの部材の7割は海外という。航空機という世界を相手にするビジネスであれば、その調達先に海外を入れる必要があることは分かるし、イマドキはクルマにしてもグローバルサプライチェーンのなかで完成させるものだ。

ただウリのエンジンは航空エンジンメーカー「プラット・アンド・ホイットニー(PW)」製だ。「そのあたり、どうよ?」という気もする。

とすれば、もっと褒めてしかるべきなのが、今年米国から日本に飛来した純国産ジェット機「ホンダジェット(HJ)」ではないか。HJは、四輪メーカーのホンダが開発してきた7人乗り(機長含む)のビジネスジェット機だ。

すでに米国の事前型式証明は取得、あとは本証明を待つだけだ。米国での生産認可も降りている。MRJとは規模と技術の位相こそ違え、何せ四輪メーカーが航空機メーカーになった例は稀有で、しかもエンジンと機体を総合開発したのは世界初。

 

聞けばまだ二輪メーカーだった1960年代に創業者の本田宗一郎が構想を描き、歴代社長がその思いを紡ぎ、独自技術開発を重ねて実現したのだ。肝心のエンジンは表向きGEとの合弁になっているが、基本設計・開発はホンダオリジナル。GEはF1とエコカーで培ったその性能に魅了され、GE側から提携を申し込んだのだ。HJはその高性能エコエンジンと、主翼にエンジンを載せる独自形状のボディでクラストップの燃費を誇る。

歴史を端折れば、田舎町の自動車修理会社がジェット機を独自開発し、事業を軌道に乗せようとしているのだ。歴史的快挙と言っていい。だがホンダの歴史を紐解けばある程度得心がいく。

ホンダが四輪メーカーとして国内市場に参入しようとした1960年代、当時の通産省が「アメリカのビッグ3が進出したら、日本の自動車メーカーは生き残れない」と、臨時法案まで用意し、クラス別に2、3社に整理する予定だった。

ホンダもその合併対象になっていた。航空機どころか四輪メーカーの夢を潰されかねないと判断した宗一郎は猛反発し、通産省に怒鳴り込んだ。以来ホンダは国への反発を強め、独自路線を鮮明にした。その反骨精神が、世界初のエコエンジンCVCCやアシモ、ホンダジェットを生み出したと言ってもいい。

 

そして通産省が進めたホンダの合併先こそが、三菱自動車だった。

MRJ報道がどうも“官”受けのいいのは三菱だからというのは、穿ちすぎなのかもしれないが、いずれにしても官の判断というものは、用心して聞くべきだろう。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

 

 

オビ コラム

2016年1月号の記事より
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