オビ コラム

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ! 20

関サバに学べ! 中小企業がブランド化するためにまずすべきこと

◆文:佐藤さとる (本誌副編集長)

 

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関サバと聞いて、舌なめずりする人はワタシだけではあるまい。

「サバなんてどこでも獲れる魚なんだから新鮮であれば同じじゃん!」と思っていた若かったワタシが口にした時の衝撃は、初めてハンバーグの味を知った時に近いくらい感動的だった(イマイチわかりにくいか……)。

要はかなり美味しかったということだ。ただそれなりに高価だった。東京都心の繁華街にある大分の郷土料理店で食したので、「やっぱ関サバなんだ〜」という価格だった。その費用対“食味”効果が前述のハンバーグを引き合いに出すようなわかりにくい表現となってしまった。申し訳ない。

 

それにしても関サバのインパクトは凄かった。味より、そのブランド力だ。農水省は今年6月「地域ブランド認定」なるものを制度化したが、関サバはそのはるか昔、1990年には関サバブランドとして日本中に認知されていたのだ。

 

もともと漁場である豊後水道は水流が早く、身の締まったサバが獲れることで知られていた。だが関サバがブランドとなってからは、大分の佐賀関で水揚げされたサバはそれまでの10倍から30倍の価格で取引されるようになった。

同じ漁場には愛媛や山口の漁船も出向くが、愛媛側の佐田岬で揚がったサバは「岬サバ」と呼ばれそれなりの価格だが、関サバの半額以下。山口で揚がったサバはふつうのサバなので、佐賀関の10分の1から30分の1の価格で買われる。

もちろん関サバ側もただ「すごいんだ、ブランドだ」と言っていたわけではない。獲り方も1本釣り、沖合での生け締めなど、質を担保する技法を編み出し、品質保証マークをつけたのだ。できるだけ新鮮な関サバを消費者に届けたいと、JALと掛けあって専用航空ルートも開拓した。

冷凍技術が発達した今は陸送でも十分鮮度は保てる。だが、「そこまでやるか」と思わせるこだわりが、誰かに話したくなる「物語」を生み、ブランドをブランドたらしめる。

 

ではポイントとなるのは、何か。「商品の質の均質化」と考える方もいるだろう。正しい。確かに農産品や水産品の場合はなかなか難しい。だがこれを均質化しなければブランドとしては成り立たない。均質化は当然のことなのだ。

意外と見落としているのが、「技法レベルの均質化」である。ここでは釣り方や生け締め、箱詰めの方法などだ。商品の均質化は技術の均質化があって成り立つのだ。

 

技術も上げた、質も揃えた。保証のラベルもつくった。流通も確保した。でもそれだけでブランド化は十分ではない。問題は告知方法だ。

「そこに関サバがある」「関サバは品質がいい」「関サバは新鮮でうまい」ということを知ってもらう仕掛けが必要なのだ。どうするか……。イマドキならチラシを撒く、CMを打つ。新聞広告をつくる、専用サイトをつくる。試食会などイベントを催す。SNSで「いいね!」を押してもらうことなどが挙げられる。

だが忘れてならないのが、新聞やテレビに記事やニュースとして取り上げてもらうことだ。ブランドは「うちはブランドだ」と言っても始まらない。第三者機関が評価して初めてブランドの緒に付く。

「でも新聞やテレビってそう滅多に取材で取り上げてくれないだろう」。そう、滅多矢鱈に取り上げてはくれない。だから取材されることが貴重なのだ。どうすればいいか? それは取り上げてもらえる「話題」をつくることである。

手っ取り早いのはイベントを仕掛けることだ。試食会などはその代表だが「◎◎マルシェ」などとおしゃれなタイトルにすることも忘れてはならない。規模によるが、地元の新聞やローカルメディア、業界紙などはまず取り上げてくれる。

 

最も大事なことは、「◎◎初」「一番」を意識することだ。メディアは総じて「初物」「一番もの」に弱い。関サバは、日本で初めて地域ブランド化を実現した魚。それ自体が取り上げられる話題性を持っている。

別に日本初でなくても、「九州初」でも、「大分初」でもいい。「業界初」「戦後初」「過去10年で最高」でもいい。ネタは、量でも最高額でも、関わった人の数、失敗して壊したものの数でもいい。

「初もの」「一番」をまず目指すこと。そこからブランド化のストーリーは走り出す。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

 

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