オビ コラム

超訳『社会人基礎力』Vol.5

『働きかけ力』 海外生活経験者というブランド人材活用のススメ

◆文:鈴木信之(株式会社エストレリータ)

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【第5回】計画力

今回は第5回目。『計画力』について考えていきたいと思います。

『計画力』:課題の解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力(経産省の定義)

小学生でも知っている易しい言葉なので分かった気になりがちですが、この『計画力』を『スケジュールを立てること』と同値に考えている人が多いようです。『スケジュール立て』は『計画力』の一部であって、『計画力』そのものではありません。

 

計画力は、車についている【ナビ】を考えると分かり易いかもしれません。【ナビ】は複数の道(ルート)の候補から最善のものを選んで表示してくれますが、その前提として、【スタート地点】と【ゴール地点】が明らかでなければなりません。

現状(As-Is)という【スタート地点】と、あるべき姿(To-Be)という【ゴール地点】がなければ、ルートの良し悪しを判断することは出来ない訳です。

 

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計画を立てる時の正しい手順は(図)の通りですが、多くの人は〝④ステップを考える〟ことから始めがちです。「そもそも何の目的で?」「どんな全体的な戦略の中で?」「どこに向かって?」という〝計画の前半戦(①から③)〟が明確でなければ、単に思い浮かんだ選択肢から闇雲に決めるだけの〝戦術〟になり下がってしまいます。

複数のステップ案が浮かんでも、何を基準に、何を優先すれば〝あるべき姿〟に辿りつくのか不明瞭のままとなってしまいます。

では、前半の手順を忘れないためにはどうしたらいいのでしょうか?

それは「どうしても○○したい」という強烈な意思・想いを持つことです。この「どうしても」が欠如している中では、面倒くさい〝前半戦〟をきちんとやろうというモチベーションは生まれないからです。

 

逆に「どうしても」を持っていれば、そのために【今の現状】を真摯に見つめ、【あるべき姿】の言語化(明確化)をおざなりにせず、そこに向かう途上に内在している【リスク】の全体像を正しく把握し、どの部分をリスクヘッジして、どの部分をリスクテイクするのか、本当の【マップ(世界地図)】を手にすることが出来るのです。

と同時に、「どうしても」という気持ちは、「いつまでに」を明確にする効果があります。期限がない計画は〝絵に描いた餅〟でしかありません。手帳に日付が入って初めて、そのためにかけるべき〝負荷〟も、進めていく〝スピード〟も、得るべき〝他者の協力〟も決まっていくのです。

PDCA(Plan-Do-Check-Act)だけでは十分でないことは、第3回の『実行力』でも書きましたが、PDCAが必要なことに疑いの余地はありません。「無計画は失敗を計画すること」という言葉もあります。

特に、〝今〟という変化の早い時代、『計画力』の重要性はより高まっています。様々な変数(パラメータ)が複雑に絡み合う現代で、全ての変化を完璧に予測することは不可能です。それでも可能な限り、起こり得る変化を予測し、その中で目指すべき〝あるべき姿〟を描き、それを達成するための計画を立てることは、〝計画との乖離(かいり)〟を素早く察知し、必要な修正をかけていくために不可欠なものなのです。

物事は計画通りに進んでいくことの方が稀です。これからの変化の波を乗り越えていくためには、〝スピード感のある計画の軌道修正〟が必要な訳ですが、計画の軌道修正のためには、そもそも計画自体がなければなりません。

計画を立てる際に前提としていた変数(パラメータ)が、時代の変化の中で変わった場合、その前提の存在があるからこそ、新たな打ち手の追加も素早く検討することが出来るのです。

 

さて、〝計画〟を2つの切り口で見てみましょう。

1つの切り口は、〝与えられる〟計画と〝創り出す〟計画です。学校であれ会社であれ、誰かから与えられた計画は、それを忠実にこなしていく〝作業員〟しか生み出しません。

一方、自らの想いから創り出した計画は、〝あるべき姿〟というゴールを見据えた〝仕事〟となります。多くの〝作業〟がロボットに代替される近未来、〝仕事〟をする人しか生き残っていけないことは明らかです。したがって、自ら〝創り出す〟計画が重要な訳です。

 

もう1つの切り口は、〝改善〟の計画と〝改革〟の計画です。労働力人口の激減する今後の社会では、1人あたりの生産性を向上させなくてはなりません。「現状のままで」は通用せず、常に改善が要求されます。これを計画していくことは重要です。しかし、今後のあるべき社会を描き、ゼロベースで考えて、新しい価値を創造するという改革の計画も必要不可欠なのです。

ここに第4回でお話しした【課題発見力】が密接に絡んできます。

 

では、〝計画力〟を育むためにはどうしたら良いのでしょうか? 私は次の3つが大切だと考えます。

1つ目は、本人の「どうしても」を簡単に否定せず、承認してあげることです。前述の通り「どうしても」は、〝計画を立てる〟という一見煩わしいプロセスに挑む〝モチベーション〟を与えてくれるからです。

2つ目は、計画しっ放し(Plan)、やりっ放しにせず(Do)、必ず結果や途中経過を確認(Check)してあげることです。計画力は、途中の軌道修正力も伴わなければ意味が無いからです。大変な事故渋滞に遭遇してもルート修正をしてくれない【ナビ】は残念な【ナビ】ですよね。

そして3つ目は、正しくフィードバックしてあげることです。これは上手くいった場合もそうでない場合も必要です。上手くいった場合に行なうフィードバックを【強化のフィードバック】と言います。何故上手くいったのかを確認してあげることで、〝偶然の成功〟を〝再現性のある成功〟に変えてあげることが出来るからです。

一方、上手くいかなかった場合に行なうのが【改善のフィードバック】です。どんな背景・原因がその選択肢を選ばせたのかを確認し、選択直前に戻ることが出来たら他にどんな選択肢があったのかを想像させ、今の自分ならその中でどの選択肢を取るのかを判断させ、次回、同様のことが起こった時にその選択肢を取るために必要なことは何なのかを明確にする。

それをすることで〝失敗〟を〝上手くいかない方法の発見〟、すなわち〝学び〟に変えることが出来るのです。

 誰かの命令で海外渡航する一部の例外を除いて、多くの『海外生活経験者』は自らの「どうしても」で渡航を決めます。長い時間と高いお金を投資しての挑戦ですから、きちんとした〝計画〟=アクションプランを立てていく人も少なくありません(弊社エストレリータは、この事前の〝アクションプラン作り〟と帰国後の〝確認・フィードバック〟を8年間でのべ3万人超に提供してきました)。

企業人事としては、事前に立てた〝計画〟通りに進まず、様々なトラブルに遭遇しながら、スピード感のある軌道修正を体験してきた『海外生活経験者』たちを、変化の時代に活きる即戦力人材として高く評価してみてはいかがでしょうか。

そして1人の親としては、渡航の援助という〝投資〟の条件として、事前の〝計画〟を自ら創り出すことを促し、本物のPDCAを習得する機会を、ご子息・ご令嬢に贈ってあげてはいかがでしょうか? 変化の時代に不可欠な人となるために。

 

◉超訳『社会人基礎力』その5:計画力

〝どうしても〟が描き出す【あるべき姿】と【現状】との【ギャップ】を明確にし、一番大切にしたい事=【プライオリティ】と照合した上で、そのギャップを埋めるための【プロセス】と【いつまでに(期限)】を決定して、実行中も必要な【軌道修正(再計画)】をスピード感を持って行なうこと

 

〈Information〉

株式会社エストレリータでは、海外生活経験者だけが登録できる【Est Navi】という採用サイトを運営しています。利用できるのは、“超・採用難時代”に大きな不利益を被りながらも果敢に挑み続ける中小ベンチャー企業のみ。

ご興味のある方は ml@estrellita.co.jp または、☎03-5348-1720 までお問い合わせ下さい。

 

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代表取締役社長 鈴木 信之(すずき・のぶゆき)

1972年9月6日生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。中学受験の老舗企業「四谷大塚」で講師人事・企画を担当。次に当時〝世界のBig5〟と言われたデロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。HRコンサルタントとして、吸収合併した会社の事業再生や子会社の人事部長として実績をあげる。その後、パソナグループの子会社パソナテックに入社。人事統括や企画責任者を歴任。大手企業の採用コンサルティングや大学でのキャリアセミナー講師を担当。2007年7月に人事コンサルティング企業エストレリータ設立。企業での研修・セミナーや大学などでの講演は年間200本超。日本に99名しかいない国家資格・一級キャリアコンサルティング技能士の1人(2015年5月現在)。

株式会社エストレリータ

〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-2 矢島ビル4F

TEL 03-5348-1720

https://www.est-navi.jp/

 

2015年10月号の記事より
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