次世代の産業を担う【中小企業】初めて明かされる秘話
日本再生の鍵を探せ 企業x学校物語

ニッポンの料理人紳士録 その壱 – 細川 貴志さん(江戸蕎麦 ほそ川)

プリント

飲食店を好きになるのは、料理や雰囲気がきっかけだろう。でも、本当に好きになると、そこで働いている人に興味が湧いてくるものだ。素敵な料理と雰囲気を創り出している店の主人(オーナーシェフ)は、どんな人なのかが気になる。

この新連載では、料理人のポートレートと記事で構成。料理人の人間性を引き出し、さらに多くの人たちにレストランや料理を好きになってもらいたい。

取材方法は、人と人のつながりを重視し、取材した方に、次にご登場いただく料理人を紹介していただく、いわば「笑っていいとも!」の「テレフォンショッキング」形式。

一流の料理人が自分でお金を払い、休日などの貴重な時間を使って何度も訪れている店の主人(オーナーシェフ)もしくはオーナーシェフに比類する方で、料理人や経営者、そして人間として尊敬できる方、大好きな方をご紹介していただいた。

 

 

ニッポンの料理人紳士録  その壱

細川 貴志さん(江戸蕎麦 ほそ川)

◆撮影:田中振一/文:坂東治朗

shinshi_hosokawa01

 

食とファッションが仕事の原動力

蕎麦職人の細川貴志さんほど鉢巻姿が似合う人もいないだろう。その姿は、根っからの蕎麦職人という風情を醸し出している。

細川さんはいまや、蕎麦打ちの名人の一人として名高い。彼がつくり出す蕎麦は、蕎麦好きの人はもちろん、料理評論家からも愛され、蕎麦店として『ミシュランガイド』に掲載される数少ない存在だ。

だが、細川さんの蕎麦職人としてのスタートは意外なほど遅い。

高校は入学早々にドロップアウト。さまざまな職業を転々とした。寿司屋や割烹料理屋などを経て、蕎麦職人として自分の店を持ったのは30代後半。しかも、老舗の蕎麦屋での修業経験もない。ある意味で、珍しい経歴の持ち主と言える。

 

料理人としてのキャリアを重ねていたある日突然、「蕎麦職人になろう」と細川さんは決意した。ほぼ天啓に近い。そこからのスピード感がすごい。

三郷の蕎麦屋に頼み込んで数カ月だけ修業し、昭和60年、埼玉県吉川市に最初の店「笊蕎麦 ほそ川」を開店。最寄り駅から徒歩で20分。決して良い立地ではなかった。丼物も出前もありの、町の普通の蕎麦屋だった。

それなりに繁盛していたが、働けど働けど苦しさが増す状態だった。

細川さんは悩んだ末、提供する料理をどんどん減らしていった。そして、出前もやめた。当然のように、客足が遠のいた。特に昼食や出前での利用が多かった地元客が離れていった。

 

その一方で、蕎麦の質を高めるため、蕎麦の原料である玄蕎麦の仕入れや、自家製粉の技術を磨いた。休日は、尊敬する蕎麦職人に教えてもらったり、良質の玄蕎麦の仕入れ先を探したりするために費やした。

細川さんは「うまい」蕎麦をつくることに突き進んでいった。あきらめなかった。次第に細川さんが打つ十割蕎麦の評判は高まり、不便な吉川市の店まで足を運ぶ人が増えていった。

20年弱経った平成15年、念願だった東京に進出、屋号を「江戸蕎麦 ほそ川」とした。

 

「いい素材に出合うと、どうしたらおいしいものがつくれるだろうかと考えるのが楽しい。いい素材との出合いが創作意欲を高めてくれるんだよ」

 

蕎麦はもちろん、天ぷらや蕎麦前(おつまみ)にも妥協がない。いい素材を探し求めて、その素材の良さを生かした方法で、「うまい」ものをつくる。それが細川さんの信条だ。

休日の昼食も夕食も、可能な限り、全国各地の「うまい」といわれる店を訪れている。何を、どうしたら、「うまい」ものがつくれるのか。自分の五感を信じて味わう。

そして、店のご主人と話すことで学ぶ。学んだことはすぐに試してみる。そして、理想の味に近づけていくため、試行錯誤を繰り返す。その結実が「江戸蕎麦 ほそ川」のメニューとなっている。

 

口は悪いが、愛嬌がある。つまり、人に好かれるのが細川さんの最大の強みだ。

蕎麦を打っている最中の気迫のこもった顔と、ふだん話しているときに見せる屈託のない笑顔のギャップが人を魅了する。やんちゃな時代を過ごした経験があるからか、艶っぽさもあわせ持つ。

食への飽くなき探究心と同じくらい、ファッションにも強い関心を持つ。

着道楽を自認する細川さんのファッションは、ファッション評論家から高得点を付けられるほどかっこいい。仕事中の鉢巻姿とはまた違った魅力に溢れている。

 

「いい服を着たいと思うから、一生懸命に仕事ができるんだよね」

 

服はもちろん、帽子や時計、靴など、次から次へと欲しいものが出てくる。そうしたものを手に入れたいという思いが、細川さんの仕事への情熱の原動力となっている。

数年前に体調を崩して休業せざるを得ない状況もあったが、現在は体調に十分な注意を払い、元気な姿で「うまい」ものをつくり続けている。

蕎麦職人のみならず、フレンチやイタリアン、和食の料理人からの尊敬と憧れを一身に集める細川さん。これからも、どんな料理をつくり出すのか楽しみだ。

 

shinshi_hosokawa02

☆細川さんの料理が食べられる店〈江戸蕎麦 ほそ川〉

所在地:東京都墨田区亀沢1-6-5

電 話:03-3626-1125

http://www.edosoba-hosokawa.jp/

 

 

プリント

☆撮影:田中振一

オランダ・アムステルダムの5ツ星ホテルに勤務の後、25歳で帰国。広告フォトグラファーのアシスタント、広告撮影スタジオを経て30歳で独立。得意分野は、人物・ホテル・レストラン。 第38回 日経MJ広告賞 優秀賞。公益社団法人日本広告写真家協会正会員。神奈川県横須賀市出身。

 

☆文:坂東治朗

ホテル・レストラン専門誌の編集長、書籍や年鑑の編集者を経て独立。ホテルやレストラン、食、旅行などをテーマに、一般誌や業界誌、会報誌、書籍などを編集・執筆。北海道札幌市出身。

 

 

 

◆2016年9月号の記事より◆

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから

 

 

 

お問い合わせ

本記事に対する、ご意見ご感想をお待ちしております。
BigLife21に対するご感想などもお気軽にお問い合わせ下さいませ。
※メールアドレスが公開されることはありません。

最新号ご案内

詳細を見る »

こちらからご購入いただけます

 

アクセスランキング

立ち読み

「BigLife21」の記事の一部をPDFで立ち読みすることができます。

読者プレゼント

Top